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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第074話 極振りヒーラー、空中都市へ

扉を抜けると、景色が一変した。


目の前に広がるのは、空中に浮かぶ都市だった。

白い石造りの建物が円環状に配置され、中央には巨大な風車が回っている。

建物と建物の間には橋が架かり、風が吹き抜けていく。


《風環都市ルフトリング》


街の名前が、システムウィンドウに表示された。


「すごい……空中都市だ……」


ステラが宝石でも見つけたかのように目を輝かせた。


「綺麗だね」


その隣で、ヒマワリがくるりと周囲を見回す。


「さて、どうする?」


少し間を置いて、ノエルが皆の顔を見渡しながら問いかけた。


「とりあえず、これからの行動を決めようか」


「まずは情報収集ね」


リリアがそう言って一歩前に出る。


「みんなで手分けして探って、後でギルドホームに集合しましょ」


「それが良さそうですね」


ティアが穏やかに頷いた。


「じゃあ、また後でね!」

明るい声を残して、ヒマワリが手を振る。


こうして五人は、それぞれの目的を胸に刻みながら、街の中へと散っていった。




ヒマワリは、街の武器屋へと足を運んだ。


店内に一歩踏み入れた瞬間、思わず息を呑む。

壁や棚に整然と並ぶ武器の数々。剣、槍、斧、弓――どれも一目で分かるほど手入れが行き届いており、装飾も美しい。


「いらっしゃい」


低く落ち着いた声で、店主のNPCが声をかけてくる。

年季の入った鍛冶前掛けを身につけたその姿は、いかにも職人といった風情だった。


「この街の武器、すごいですね」


ヒマワリが感心したように言うと、店主はどこか誇らしげに笑った。


「ああ。ここルフトリングは、風の力を利用した鍛造技術で有名でな。

 風の魔力を金属に巡らせることで、軽さと強度を両立できるんだ」


「風の魔力……」


ヒマワリは一本の剣を手に取り、軽く振ってみる。

驚くほど軽いのに、刃からは確かな重みが伝わってきた。


「へぇ……これは、使いやすそう」


「だろう? 慣れれば、動きが一段階速くなる。

 この街の冒険者が、みんな素早い理由さ」


ヒマワリは店内を見回しながら、武器ごとの特徴をしっかりと頭に刻み込んでいった。




一方、ノエルは鍛冶工房を訪れていた。


工房の中は熱気に満ちているが、不思議と息苦しさはない。

炉の周囲を巡る風が、熱を外へと逃がしているのが分かる。


「すごい……こんな炉、初めて見た……」


思わず感嘆の声が漏れる。

風の力を利用した特殊な炉が、金属を均一に、そして効率よく溶かしていた。


「興味があるのか?」


背後から声をかけられ、ノエルははっとして振り返る。

筋骨隆々の職人が、腕を組んでこちらを見下ろしていた。


「はい! 鍛冶職なんです」


そう答えると、職人は目を細め、ふっと口元を緩める。


「なるほどな。なら、この街の技術は学んで損はない。

 風の力を使えば、金属に余計な歪みを残さず鍛えられる」


職人は実演を交えながら、風の流れの作り方、魔力の制御方法を説明していく。


「力任せじゃダメだ。風を“導く”んだ」


「……はい」


ノエルは真剣な表情で何度も頷き、その言葉一つ一つを胸に刻み込んだ。




リリアが向かったのは、街の中央に建つ教会だった。


扉を開けると、外の喧騒が嘘のように消え、静謐な空気が満ちている。

祭壇の前では、司祭が静かに祈りを捧げていた。


「こんにちは」


リリアが声をかけると、司祭はゆっくりと顔を上げ、彼女を見つめる。


「ようこそ。……聖なる力を持つ方ですね」


その一言に、リリアは少しだけ目を瞬かせた。


「この街には、聖なる力を高める方法があると聞いたのですが……」


「ええ。ここでは、風の力と聖なる力を融合させる教えが伝わっています」


司祭はそう語り、祭壇の奥にある紋章を指し示した。


「風は巡り、清め、導く力。

 それを聖なる力と重ねることで、より広く、より強く祈りを届けられるのです」


リリアは司祭の言葉に耳を傾けながら、風属性と聖属性を組み合わせた魔法の理論を学んでいった。




ティアが訪れたのは、街外れにある射撃場だった。


そこでは弓使いたちが並び、風を読みながら矢を放っている。

放たれた矢は、風に乗るように滑らかな軌道を描き、次々と的の中心を射抜いていった。


「……風を利用した射撃……」


思わず漏れた呟きに、背後から声がかかる。


「弓使いか?」


振り返ると、年配の師範が立っていた。


「はい」


「ならば、風を敵にするな。味方につけろ」


師範はそう言って、矢を一本手渡す。


「風を感じ、流れを読む。

 それができれば、矢はどこまでも飛ぶ」


ティアは何度も矢を放ち、そのたびに師範から助言を受けながら、風と共に射る感覚を体に染み込ませていった。




ステラは、街の中央に広がる広場をゆっくりと歩いていた。


石畳はよく整備され、行き交う人々の表情も明るい。

噴水の水音と、風に揺れる旗の音が心地よく混ざり合い、この街が平和であることを静かに語っているようだった。


そのとき、不意に背後から穏やかな声がかかる。


「おや、若い冒険者殿」


振り返ると、白い髭を蓄えた老人が杖をつきながら立っていた。

深い皺の刻まれた顔には、長い年月を生きてきた者特有の落ち着きがある。


「こんにちは」


ステラは足を止め、丁寧に頭を下げた。


「この街に興味があるのかね?」


「はい。とても綺麗な街ですね」


素直な感想を口にすると、老人は満足そうに小さく笑った。


「そうじゃろう。風と共に生きる街じゃからな。

 じゃが……」


そこで老人は言葉を切り、ゆっくりと視線を遠くへ向けた。

広場の先、賑わいの向こう側――まるで、見えない過去を見つめるかのように。


「この街にも、暗い歴史があるのじゃ」


「暗い歴史……?」


ステラが問い返すと、老人は一度だけ、重く頷いた。


「この地には、かつて魔族も住んでおった」


「魔族……?」


思わず声が漏れる。

この穏やかな街と、魔族という言葉がうまく結びつかなかった。


「ああ。彼らは大きな魔力を持ち、風と同じようにこの地に根付いておった。

 じゃが、その力ゆえに人々に畏れられ……やがて、淘汰されてしまったのじゃ」


老人の声は低く、どこか震えていた。


「力は、守りにもなるが……恐怖にもなる。

 恐れは、やがて憎しみに変わるものじゃ」


ステラは胸の奥が、きゅっと締めつけられるのを感じた。


「今は、生き残った魔族が離れた地で、ひっそりと暮らしておる。

 この街からは見えぬ場所でな」


「そんなことが……」


思わず呟くと、老人は静かにステラを見つめる。


「歴史は、時に残酷じゃ。

 じゃが、忘れてはならぬ。過ちを繰り返さぬためにな」


その瞳には、後悔と祈りが入り混じっていた。


ステラはしばらく黙り込み、そして小さく息を吸う。


「……覚えておくよ」


まっすぐに老人を見据え、力強く頷く。


「教えてくれて、ありがとう」


その言葉に、老人は少しだけ表情を和らげた。


「それでよい。覚えておる者がおる限り、歴史は死なん」


そう言い残すと、老人は人波の中へと溶けるように去っていった。


ステラはしばらくその場に立ち尽くし、風に揺れる旗を見上げる。

この美しい街の下に眠る、語られぬ過去を胸に刻みながら――。




ギルドホームの談話室。

五人は円卓を囲み、それぞれが集めてきた情報を持ち寄っていた。


「武器屋で聞いたんだけど、この街は風の力を利用した鍛造技術が有名らしいよ」

最初に口を開いたのは、ヒマワリだった。


「そうそう!」

ノエルが嬉しそうに身を乗り出す。

「工房でも同じことを聞いたよ。風の力を使えば、もっと強い武器が作れるんだって」


「教会でもね」

リリアが静かに続ける。

「風属性と聖属性を組み合わせた魔法について教えてもらったわ」


「射撃場でも、風を利用した射撃技術を学びました」

ティアが簡潔に報告する。


「なるほど……」

ステラは皆の話を聞きながら、穏やかに微笑んだ。

「みんな、ちゃんと成果を持ち帰ってきたんだね」


ステラも、NPCから聞いた魔族の話をしようとしたその時――

システムメッセージが表示された。


【第3回イベント開催決定!】


「イベントだ!」ヒマワリが声を弾ませながら、メニュー画面を開いた。


空中に展開されたウィンドウには、見慣れた告知文が表示されている。


【イベント名:風を掴め!ウィンドリム・ハント】


開催日時:1週間後、制限時間8時間


目的:第三階層全領域に現れる《ウィンドリム》を捕獲せよ


ルール:

・ウィンドリム1体の捕獲につき、1ポイント獲得

・他プレイヤーにキルされた場合、復活まで 10分間の待機時間 が発生する。

・モンスターにキルされた場合、待機時間なしで 初期地点に復活。

・個人で10ポイント達成で古の宝石×5

・ギルド全体で集めたポイントが設定された目標数を超えると報酬を獲得

・目標ポイント数は ギルドの規模に応じて調整 される。


「ウィンドリム……?」


ステラが首を傾げる。


「風の精霊みたいなものかな」


リリアが推測する。


「個人目標は10ポイント、ギルド目標は……」


ヒマワリが画面を確認する。


【ギルド《星天の翼》目標:100ポイント】


「100ポイント……5人で100だから、一人20ポイントずつか」


ノエルが計算する。


「全員が目標達成すれば、ギルド目標も達成できるね」


ティアが頷く。


「じゃあ、作戦を立てよう」


ヒマワリがそう切り出し、皆の視線が集まる。


「まず、ウィンドリムがどこに出現するか分からないから……基本は散って探索する方がいいかも」

リリアが言う。


「ただし、モンスターにキルされると初期地点に戻されるんだよね」

ステラが続けた。

「危険そうな場所は、できるだけ避けた方が良さそう」


「それに、プレイヤーにキルされたら十分間復活できない」

ノエルが真剣な表情で言う。

「PKも想定して動かないと」


「前のイベントみたいに、PKが多発する可能性は高いですね」

ティアが冷静に分析する。


そこで、ヒマワリがちらりとステラを見る。


「それとさ……今回のイベント、正直に言うと――ステラは不利だよね」


「……うん」

ステラは苦笑しながら頷いた。

「AGIゼロだし。風を使う相手を追いかけるのは、かなり厳しいと思う」


一瞬、場に沈黙が落ちる。

だが、それを破ったのはノエルだった。


「だからこそ、だろ?」

「ステラは一人で動かない。俺たちがカバーすればいい」


「そうね」

リリアも頷く。

「索敵や捕獲は機動力のある人が担当して、ステラは後方支援に専念した方がいいわ」


「射撃で牽制します」

ティアが淡々と付け加える。

「近づけさせなければ、問題ありません」


ヒマワリは腕を組み、まとめるように言った。

「つまり、ソロでもポイントは狙えるけど……本命はギルド戦。

 それに、今回は“役割分担”が鍵になるね」


「じゃあ、こうしよう」

「基本は散って探索。でも、ステラが狙われそうな時や危険な状況になったら、すぐ連絡して合流する」


「PKに遭遇したら、まずは逃げることを優先」

リリアが念を押す。

「無理に戦わない」


「ウィンドリムを見つけたら、素早く捕獲」

ノエルが続ける。

「他のプレイヤーに横取りされる前に、だ」


「……みんな、ありがとう」

ステラは少し照れたように笑う。

「足を引っ張らないように、全力でサポートするね」


「それで十分だよ」

ヒマワリが即答する。


「分かった。じゃあ、一週間後、頑張ろう!」

ステラが明るく言う。


「うん!」

全員が揃って頷いた。


「それまでに、レベリングと装備の強化だね」

「私は風属性魔法を詰めるわ」

「俺は新しい武器を作る」

「射撃訓練を続けます」

「私は……サポートスキルを磨いておくね」


役割は違っても、向かう先は同じ。

一週間後のイベントに向けて――

五人の準備が、本格的に始まった。


次は3/22 21時投稿予定

お楽しみに!

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