第072話 極振りヒーラー、強くなる時間
第二階層の森。
ヒマワリは一人でログインしていた。
ステラは今日、リアルで用事があるらしい。
「一人でレベリング、久しぶりだな」
ヒマワリが呟く。ステータスウィンドウを開き、現在のレベルを確認する。
「次のイベントに備えて、もっと強くならないと」
ヒマワリは剣を抜き、森の奥へと進む。
「レベル34を目標に、頑張ろう」
森の深部。
モンスターの気配が濃くなってくる。
木々の間から、狼の群れが現れた。
《フォレストウルフ》が三体、ヒマワリを囲む。
「来た……!」
ヒマワリは即座に行動する。
「《加速》!」
体が軽くなり、速度が上がる。
一気に距離を詰め、最初の狼に斬りかかる。
「《サンダーラッシュ》!」
雷を纏った三連撃が、狼を貫く。一体目が光の粒となって消えた。
残りの二体が、左右から挟み撃ちにしようとする。
「《跳躍》!」
ヒマワリは高く飛び上がる。狼の攻撃が空を切り、地面を掻く。
着地と同時に、反撃する。
「《ウィンドスラッシュ》!」
風の刃が、二体目を切り裂く。そのまま三体目にも斬りかかり、連続で撃破した。
「よし、いい調子」
ヒマワリが笑顔で呟く。
森がふっと途切れ、視界が開ける。
陽の光が差し込むその場所で、ヒマワリは足を止めた。
「……ここなら、ちょうどいいかな」
軽く肩を回し、息を整える。
そして彼女は剣を手に取り、スキルの練習を始めることにした。
「せっかくだから、スキルの練習もしておこう」
まず、《蜃気楼》を発動する。
三体の虚像が、ヒマワリの周囲に出現した。
どれが本物か、見た目では区別がつかない。
「前よりはいい。でも、まだぎこちないな」
ヒマワリは虚像と共に走り回る。
四人のヒマワリが、同時に動く。
前後左右、様々な位置に虚像を配置しながら、滑らかに移動する。
「配置のパターンを増やせば、もっと翻弄できるかも」
次に、《陽炎》を発動する。
周囲の空気が揺らぎ始め、景色が歪んだ。
ヒマワリ自身の視界は影響を受けないが、外から見ればヒマワリの姿が揺らいで見えるはずだ。
「これも、もっと使いこなせるように……」
ヒマワリは《陽炎》を維持しながら移動する。
スキルの維持時間を延ばし、より長く効果を持続できるように訓練する。
「維持するのに集中力が必要だけど、慣れればもっと楽になるはず」
そして――
「二つ同時に使う練習もしておこう」
《蜃気楼》と《陽炎》を同時発動する。
虚像が三体出現し、さらに空気が揺らぐ。
四人のヒマワリが、歪んだ景色の中で動き回る。
「これなら、敵はほとんど狙えないはず……でも、二つ同時に維持するのは結構大変だな」
次に、魔法を使った戦闘訓練だ。
森の奥で、新たなモンスターの群れを見つける。
《フォレストスライム》が五体、ゆっくりと動いている。
「ちょうどいい、魔法の練習をしよう」
ヒマワリは剣を鞘に収め、手を前に掲げる。
「《ファイアボルト》!」
手のひらから、火の弾が放たれる。
スライムに直撃し、炎が広がった。
一体目が燃え尽き、消える。
「よし、次!《ウィンドカッター》!」
風の刃が飛び、二体目のスライムを切り裂く。スライムが二つに割れて消えた。
「《ウォーターショット》!」
水の弾が放たれ、三体目に当たる。
水が飛び散り、スライムが溶けるように消えた。
「《アースバレット》!」
土の弾が四体目に激しく衝突する。
土の塊が砕け散り、スライムが押し潰された。
「最後!《サンダーボルト》!」
雷が走り、五体目を貫く。
バチバチと音を立て、スライムが黒焦げになって消えた。
「魔法だけでも、ちゃんと戦えるな」
森の最深部。
空気が重く、足元の土が不自然に踏み固められている。
その中央に――
巨大な影が立ちはだかった。
《エリートオーガ》
通常種とは比べものにならない威圧感を放つ、ネームドモンスターだ。
「強敵……!」
ヒマワリは一歩前に出て、剣を構える。
口元に浮かんだのは、不安ではなく闘志だった。
「――よし。全力で行こう!」
次の瞬間、ヒマワリの姿が揺らぐ。
「《蜃気楼》《陽炎》」
二つのスキルが同時に発動した。
揺らめく空気の中、ヒマワリの姿が四つに分かれる。
実体と虚像が入り混じり、判別は不可能だ。
オーガが咆哮し、巨大な棍棒を振り回す。
だが――
ゴウッ、と風を裂くだけで、何も捉えられない。
叩き潰したはずの影は、霧のように崩れて消える。
「遅いよ」
揺らぎの向こうで、ヒマワリが軽く笑った。
オーガは、本物のヒマワリを捉えられない。
「全然当たらない!」
声と同時に、ヒマワリの影が側面へ滑る。
次の瞬間、剣先とは逆の手が掲げられた。
「《サンダーボルト》!」
雷光が走り、オーガの巨体を直撃する。
鈍い悲鳴とともに、HPゲージが大きく削れた。
激昂したオーガは咆哮を上げ、棍棒を振り回す。
地面を巻き込むような、広範囲の一撃――。
「甘い!」
「《跳躍》!」
ヒマワリは一気に踏み込み、高く跳び上がる。
棍棒は足元の大地を叩き割り、土煙が舞い上がった。
空中で体勢を整え、ヒマワリは剣を振り下ろす。
「《疾風連斬》!」
一撃、二撃、三撃――
斬撃の速度が増すたび、軌跡が風を裂く。
五連の刃が、立て続けにオーガを切り裂いた。
そのまま、軽やかに着地。
ヒマワリは一歩踏み込み、最後の一撃を放つ。
「《サンダーラッシュ》!」
雷を纏った三連撃が、一直線に突き抜ける。
眩い閃光のあと、オーガの巨体は膝をつき――
そのまま、地面に崩れ落ちた。
しばしの静寂。
ヒマワリはステータスウィンドウを確認し、満足そうに頷く。
「レベル三十四……目標達成っと」
ヒマワリが満足そうに笑う。
「スキルの練習もできたし、魔法も使いこなせるようになってきた。次のイベント、楽しみだな」
ヒマワリは森を後にした。
一方その頃。
ヒマワリが森の中でスキルの練習に励んでいる頃――
ノエルは、工房の奥で作業に没頭していた。
《匠の証》の装備一式を身にまとい、炉の前に立つ。
揺らめく炎が、彼女の横顔を赤く照らしていた。
「さて……今日は大剣を作ろうかな」
そう呟き、ノエルは作業台に並べられた素材へと視線を落とす。
《星鉄》が五つ、並んでいる。
「星鉄……レアな素材だけど、これで作れば強い武器になるはず」
そして、少しだけ口元を緩める。
「……せっかくだし、自分用にいいの作ろう!」
ノエルは炉に火を入れる。
「まず、星鉄を溶かして……」
ノエルは星鉄を炉に入れ、高温で溶かす。
《匠の手袋》の効果で、作業がスムーズに進む。
「この手袋、やっぱりすごい……作業が捗る」
溶けた金属を、型に流し込む。大剣の形に成形していく。慎重に、丁寧に。
「……あとは、冷えるまで待つだけ」
静かな時間が流れ、やがて――
ノエルは型を外し、完成したばかりの大剣を取り出した。
「よし、いい形」
次は、鍛造だ。
ノエルはハンマーを手に取る。
再び炉で熱した大剣を台に置き、深く息を吸った。
――ここからが、本番。
カン、カン、カン――
リズミカルな金属音が、工房に響き渡る。
一打一打、余計な力を排し、正確に。
「不純物を取り除いて……密度を、上げる……」
《匠の手袋》の効果が発動し、手元の感覚がさらに研ぎ澄まされる。
金属の状態が、まるで手に取るように分かる。
ノエルの技術と装備が噛み合い、理想的な鍛造が進んでいく。
「――よし、いい感じ!」
十分に鍛え終えると、次は研磨だ。
ノエルは大剣を丁寧に研ぎ上げる。
刃が次第に鋭さを増し、淡く光を反射する。
荒々しさの中に、確かな美しさが宿った。
「これで……完成!」
《星鉄の大剣》
完成した武器を見つめ、ノエルは小さく頷く。
「いい出来……いや、せっかくだから――《鍛錬》で、もう一段上を目指そう」
必要な素材を揃え、スキルを発動する。
「えいっ!」
光が大剣を包み込む。
【強化成功!星鉄の大剣Ⅰ】
「よし、順調……もう一回!」
再び光が走る。
【強化成功!星鉄の大剣Ⅱ】
「まだ、いける!」
三度目の《鍛錬》。
ノエルの喉が、無意識に鳴った。
【強化成功!星鉄の大剣Ⅲ】
「……っ、よし!最後……Ⅳまで!」
深く息を吸い、集中する。
工房の空気が張り詰めた。
大剣が強く輝き、数秒の沈黙――
【強化成功!星鉄の大剣Ⅳ】
STR+40
「……やった……!」
ノエルの顔に、思わず笑みがこぼれる。
「Ⅳまで、全部成功……!」
掲げた大剣は鈍く光り、確かな力を宿していた。
「STR+40……これは、すごい……」
実際に装備してみる。
重量はあるが、上昇したSTRのおかげで、違和感なく扱えた。
「よし……試してみよう」
ノエルはギルドホームの演習場へ向かう。
標的の前に立ち、大剣を振りかぶった。
「《ブレイクスラッシュ》!」
唸りを上げた一撃が、訓練用の標的を粉砕する。
圧倒的な破壊力だった。
「……これ、すごい……!」
ノエルは目を輝かせ、剣を見つめる。
「次のイベント……これで、頑張ろう」
満足そうに微笑み、ノエルは大剣を肩に担いだ。
こうして――
ヒマワリとノエル、それぞれの準備は整った。
次は3/20 21時投稿予定
お楽しみに!




