第066話 極振りヒーラー、慈愛の試練2
ステラの毒と呪いの完全耐性を忘れていたので、描写を少し修正
「神官様!」
アリアが駆け寄ってくる。その表情は、真剣だ。
「疫病の真の原因は、聖域の泉の守護者が倒されたことなんです」
「守護者……?」
「はい。泉の奥に封じられた《疫病の魔獣》を倒してください。それが、全てを終わらせる方法です」
アリアが懇願するように言う。
ステラは迷わず頷いた。
「分かった。行こう」
二人は聖域の泉へと向かう。モンスターの群れを振り切り、泉の最深部を目指した。
泉の奥、最深部。
水が濁り、不気味な空気が漂っている。そして、中央には――
巨大な魔獣が鎮座していた。
腐敗した肉体、緑色の瘴気を纏い、目は虚ろに光っている。
全身から毒々しい液体が滴り、地面を侵食していく。
《疫病の魔獣グリムペスト》
名前が、システムウィンドウに表示された。
「あれが……」
ステラが、思わず息を呑んだ。
眼前にそびえる魔獣の巨体は、
これまで対峙してきたどのモンスターよりも遥かに大きく、
そして――ひと目で分かるほど、禍々しかった。
グリムペストが咆哮する。
低く、腹の底に響く声とともに、濃密な瘴気が一気に噴き出した。
紫黒の霧が周囲へと広がり、触れた大地がみるみるうちに変質していく。
じゅう、と嫌な音を立てながら、
地面は腐り、溶け、毒の沼へと姿を変えた。
ドロドロと粘つく音を響かせ、
その沼は、生き物のように範囲を広げていく。
――逃げ場を、奪うつもりだ。
「《プロテス》!」
ステラは自分とアリアにプロテスをかける。VITが上昇し、防御力が強化された。
「《ヒール》! 《リジェネ》! 《再生の祝炎》! 《ドレイン・オーラ》!」
四つの回復スキルを連続で発動させる。バリアが何重にも展開され、体を包み込んだ。
グリムペストが攻撃を仕掛けてくる。
大きく口を開き、内部から滲むように、緑色の瘴気を吐き出す。
それは霧となって瞬時に広がり、視界を塗り潰すように迫った。
気づいた時には――
瘴気はすでに、ステラとアリアを包み込んでいた。
【状態異常:毒】
【状態異常:呪い】
【状態異常:病気】
三つの状態異常が、同時に付与される——はずだった。
【パッシブ発動:毒無効】
【パッシブ発動:呪い無効】
ステラの体に刻まれた加護が、二つの異常を瞬時に弾き飛ばす。
残ったのは、病気だけだった。
「くっ……!」
アリアの声が聞こえる。
隣を見れば、三つ全てを受けた彼女の顔が苦痛に歪んでいた。
HPが削られ、最大HPが低下し、回復効果まで鈍らせられている。
対してステラにのしかかるのは、病気の重さだけ。
「《クリーンセンス》!」
ステラはスキルを発動させた。
柔らかな光が全身を包み込み、まとわりついていた瘴気を洗い流していく。
重くのしかかっていた負荷が、一気に消え去った。
体が軽くなり、呼吸も深く吸える。
「アリアは大丈夫!?」
「はい……回復します!」
アリアが杖を掲げる。
淡い光が空気を震わせ、ステラの身体を包み込んだ。
削られていたHPが持ち直し、温かな感覚が胸の奥まで染み渡る。
「ありがとう!」
ステラは短く礼を告げ、すぐさま杖を構え直した。
「《フェニックス・フレア》!」
不死鳥の炎が解き放たれ、轟音とともにグリムペストを包み込む。
赤金の炎が魔獣の巨体を舐め、鱗と瘴気を焼き払っていった。
グリムペストが苦悶の咆哮を上げる。
確かに――ダメージは入っている。
だが。
「……え?」
HPバーを見たステラは、息を呑んだ。
削れたのは、ほんのわずか。致命傷どころか、痛手とも言えない量だ。
「硬い……!」
グリムペストが再び瘴気を吐き出す。
今度は、足元から毒の沼が広がり始めた。
ドロドロと音を立て、沼がステラたちの足元に迫る。
「《マルチディバイン・シールド》!」
三つの神聖障壁が瞬時に展開され、互いに連動するように配置される。
それらはアリアを中心に、守護の陣を描くように浮かび上がった。
「アリアは、ここで守られてて!」
「は、はい!」
アリアは小さく頷き、光の壁の内側へと身を寄せる。
障壁は外界の瘴気を遮断し、淡く安定した輝きを放っていた。
ステラはその様子を一瞬だけ確認すると、すぐに視線を戦場へ戻す。
「《聖炎》!」
小規模な炎を連続で放つ。
一発、二発、三発――
炎は確実にグリムペストを捉え、禍々しい体表を焼いていった。
障壁の内側では、アリアが回復の補助を続けている。
ステラのHPが削られるたび、淡い光が舞い降り、体を包み込んだ。
温かな感触とともに、失われた体力が戻っていく。
だが――
グリムペストが低く唸り、触手のような腕を大きく振り上げた。
次の瞬間、凄まじい勢いで叩きつけられる。
ドガッ!
重い衝撃が走り、バリアが軋む。
防御は削られるが、まだ崩れない。
直後、《リフレクト・ヴェール》が発動。
反射された光が魔獣の巨体を貫き、ダメージがその身へと返っていった。
「まだ……!」
ステラは歯を食いしばる。
バリアが削られていくが、《リジェネ》が継続的に耐久値を回復してくれる。
「《聖炎》!」
再び放たれた炎が、グリムペストの腕に直撃する。
焦げた瘴気が弾け、確かな手応えが伝わった。
――HPバーが、ついに半分を下回る。
その瞬間。
グリムペストが天を裂くような咆哮を放った。
大地が震え、空気が唸る。
ただの威嚇ではない――何かが、切り替わった。
巨体から、黒いオーラが噴き出す。
疫病の瘴気。
濃く、重く、命を蝕む禍々しい波動が周囲一帯に広がっていく。
次の瞬間、体に違和感が走った。
継続ダメージ。
じわじわと、確実にHPが削られていく。
「……っ」
バリアの内側にいても関係ない。
防御をすり抜けるように、瘴気が侵食してくる。
ステラとアリアのHPが、静かに、しかし確実に減り始めていた。
「くっ……!」
ステラは《ヒール》で回復するが、オーラのダメージが止まらない。
回復しても、すぐにまた減っていく。
「《フェニックス・フレア》!」
反撃しようと、ステラは炎を放つ。
だが――
炎は確かに命中した。
それでも、グリムペストの巨体は微動だにしない。
ダメージ表示が、出ない。
まるで――
存在そのものが、攻撃を拒んでいるかのようだった。
「……え?」
ステラの声が、わずかに震える。
何度か続けて放ってみるが、結果は同じ。
攻撃が通らない。完全に無効化されている。
「そんな……」
一瞬の動揺。
その隙を突くように、瘴気がさらに濃くなる。
「神官様!」
鋭い声が、背後から響いた。
アリアが、一歩前に出る。
小柄な体で杖を強く握りしめ、高く掲げる。
次の瞬間――
白く澄んだ光が、杖の先から溢れ出した。
「《聖なる光矢》!」
光の矢が、グリムペストに突き刺さる。
グリムペストが苦しそうに吠え、HPが削られた。
オーラを纏っていても、アリアの攻撃だけは効いている。
「アリアの攻撃は効く……!」
ステラは、はっきりと理解した。
――今の状態では、
グリムペストにダメージを与えられるのは、アリアだけ。
「……そういうことか」
迷いはなかった。
「《挑発》!」
ステラがスキルを発動させる。
禍々しい魔獣の視線が、ぎょろりと動き、一直線にステラを捉えた。
「アリア、攻撃を続けて! 私が前に立つ、サポートは任せて!」
「……はい!」
アリアが力強く頷き、杖を構える。
放たれた光の矢が、グリムペストに突き刺さる。
今度は確かに、ダメージ表示が浮かんだ。
一本、二本、三本――
光が連なり、魔獣の体を穿っていく。
だが、グリムペストも黙ってはいない。
大きく口を開き、濃密な瘴気を吐き出す。
禍々しい霧が渦を巻き、一直線に――アリアへと迫った。
「させない!《マルチディバイン・シールド》!」
光が弾け、三つの神聖障壁が瞬時に再展開される。
障壁は重なり合うように配置され、ステラの前面を覆った。
直後――
濃密な瘴気が、正面から叩きつけられる。
ゴォッ……!!
黒い霧が障壁に触れ、嫌な音を立てて侵食しようとする。
一枚目の障壁が大きく揺らぎ、ひびが走る。
「くっ……!」
二枚目がそれを受け止め、光が強く瞬いた。
三枚目も砕け散ったが、最後のリストア・ヴェールで耐えきった。
「《ヒール》!」
バリアを再展開し、防御を固める。光の膜が、再び体を包んだ。
「アリア、今だよ!」
「はい!」
アリアが光の矢を連続で放つ。
一本、二本、三本――矢が次々とグリムペストに突き刺さる。
グリムペストのHPが、どんどん削られていく。
グリムペストが暴れ狂う。
瘴気が乱射され、毒の沼が一気に広がった。
触手が唸りを上げ、無差別に叩きつけられる。
だが――
ステラは一歩も退かなかった。
瘴気を受け、衝撃を受け止め、なお前に立つ。
背後のアリアへ、指一本たりとも通さない。
盾となり、囮となり、
ステラはただひたすら、戦場に立ち続けていた。
「《ヒール》! 《リジェネ》!」
回復魔法を連打し、バリアを維持する。
削られても、すぐに張り直す。
「《聖なる光矢》!」
アリアの最後の一撃が、グリムペストの頭部に突き刺さる。
光の矢が深々と刺さり、魔獣の体を貫いた。
グリムペストが、甲高い悲鳴を上げた。
巨体がひび割れるように崩れ始める。
纏っていた黒いオーラが霧散し、
疫病の力が、音もなく失われていった。
そして――
魔獣は光の粒へと変わり、空へ溶けるように消えていく。
……静寂が、戻った。
「……やった……」
ステラが膝をつく。
MPがほぼゼロ、体が重い。全身から力が抜けていく。
「神官様! 大丈夫ですか!?」
アリアが駆け寄ってくる。心配そうに、ステラの顔を覗き込んだ。
「う、うん……大丈夫」
ステラが笑顔を作る。疲れているが、満足感があった。
その時――
【スキル習得:慈愛の抱擁】
「新しいスキル……?」
ステラがメニューを開き、確認する。
《慈愛の抱擁》
効果:ステラが展開中のバフ(バリア、継続回復、ステータスUPなど)を範囲内の味方全員に適用
「これ……すごいスキルだ」
ステラが目を輝かせる。範囲回復と防御強化を同時にできる、強力なスキルだ。
「神官様、見てください」
アリアが泉を指差す。
濁っていた水は、まるで嘘のように澄み渡っていった。
失われていた光を取り戻し、
泉は、静かに美しく輝いている。
「聖域の泉が、浄化された……」
ステラが呟く。
「あなたこそ、真の癒し手です」
アリアが深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。村を、私たちを救ってくださって」
「いえ、アリアも頑張ってくれたから」
ステラが微笑む。
二人は村へと戻った。
村に戻ると、村人たちは次々と立ち上がっていた。
疫病の状態異常はすでに消え、HPも完全に回復している。
村には、ようやく本当の平和が戻っていた。
「ありがとうございます、神官様」
「助かりました……本当に……」
村人たちが口々に感謝の言葉を述べる。
「いえ、みんなが無事でよかっただけです」
ステラは、少し照れたように笑って答えた。
その後、簡単な報告と後始末を済ませ、
ステラはアリアに見送られながら村を後にする。
森を抜け、転移陣を起動すると、
視界が白く染まり――
次の瞬間、ステラはギルドホームに戻っていた。
「……疲れた……」
談話室の椅子に腰を下ろし、大きく息を吐く。
張り詰めていた緊張が、ようやく解けていった。
だが、その顔には満足感があった。
新しいスキルを手に入れ、村を救うことができた。
「次も、頑張ろう」
ステラが笑顔で呟いた。
次は3/14 21時投稿予定
お楽しみに!




