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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第133話 極振りヒーラー、幸運の遺跡

イベントの準備でギルドホームが慌ただしくなっている中、コインがソルの周りをうろうろしていた。

肩に乗っていたかと思えば床に降り、床をうろついたかと思えばまた戻ってくる。落ち着きがない。

「コイン、どうした?」

コインが扉の方向を向いて、じっと動かなくなった。金色の瞳が外を見ている。

「どこか行きたいの?」

コインが前足を揃えて座り、招き猫のポーズをしてみせた。

「テイムしたばかりなのに、もう何か見つけたの?」

横で見ていたルナが言った。スタルが頭の上でぴかっと光る。

「わかんないけど……ついていってみる」

「一人で行くの?」

「コインがいるから大丈夫」

ソルが立ち上がり、装備を確認した。コインが扉の方へ歩いていく。

「行ってきます」

「気をつけてね」とルナが言った。



第二層へ降り立つと、コインは迷いなく歩き出した。


ハネリ村を抜け、そのまま草原の外れへ。

以前テイムされた丘とは逆方向だ。


「こっちは来たことないな」


穏やかな草原はしばらく続いたが、やがて景色に変化が混じり始める。

地面にゆるやかな起伏が生まれ、草は背丈を増し、ところどころに岩が顔を出す。

道も次第に細くなり、踏み慣らされていない気配が濃くなっていった。


やがて鳥型モンスターが姿を見せる。

最初は一体、二体――しかし奥へ進むほど、その数は明らかに増えていった。


「《ラッキーセブン》!」


七連の剣閃が草原を駆け抜ける。

鳥型モンスターは光の粒子となって散った。


それでもコインは足を止めない。

戦闘など意に介さない様子で、一定の歩幅のまま先へ進んでいく。


「モンスター多くなってきた……コイン、ほんとに大丈夫?」


呼びかけに、コインがくるりと振り返った。

そして前足を揃え、いつもの招き猫のポーズ。


安心させているのか、急かしているのか――判別はつかない。


「……信じるか」


直後、鳥型モンスターの群れが再び襲いかかる。


「《フォーチュンブレイド》!」


幸運値に依存した強化が発動。

高まったLUKが刃に黄金の光を宿し、振るわれた一撃が群れをまとめて薙ぎ払った。


「《奇跡の連鎖》」


最初のクリティカルが次を呼び、次がさらに次へと繋がる。

連鎖するたびにステータスが底上げされ、三連続の閃きとともにAGIとSTRがはっきりと伸びたのを感じた。


その様子を横目に、コインは変わらぬ足取りで前へ進んでいく。

まるで――この先に何かがあると知っているかのように。





岩壁が見えてきた。

草原の外れに、切り立った岩壁が長く続いている。表面は蔦にびっしりと覆われ、ただの自然の壁にしか見えない。


その前で、コインがぴたりと立ち止まった。


「……なんだここ」


次の瞬間。

蔦の一部が、さらりとほどけた。


まるで風に導かれるように左右へ分かれ、その陰から姿を現したのは――古い石造りの扉だった。

表面には金色の装飾。色は褪せているが、細工の精巧さだけは失われていない。

長い年月を経た遺跡の気配が、静かに漂っていた。


コインが扉の前に座り、招き猫のように前足を上げる。

そして、そのまま動かなくなった。


促されるように、ソルは扉へ手を伸ばす。


触れた瞬間――視界に小さなウィンドウが浮かび上がった。


【開放条件確認】

・ゴールドキャットをテイム済み

・LUK250以上

――認証完了。


「……は?」


思わず声が漏れる。


反射的にステータスを呼び出す。


LUK:260。


「ギリ超えてる……」


胸をなで下ろすと同時に、ぞくりとした実感が走った。

もし少しでも足りなければ、この扉はただの蔦の壁のままだったのだろう。


重い駆動音が、静寂を破る。


石と石が擦れ合う低い響き。

扉が、ゆっくりと自動で開き始めた。


ソルはコインへ視線を向ける。

コインは胸を張るように鳴いた。


「……お前、これを知ってたのか?」


もう一度、短く鳴く。


知識なのか、本能なのかは分からない。

だがひとつだけ確かなのは――コインがいなければ、そして幸運が足りなければ、この場所には辿り着けなかったということだ。


「さすがだな」


扉の奥から、濃密な金色の光が漏れ出していた。

まるで財宝が呼吸しているかのように、ゆっくりと脈打ちながら。


ソルは息を整え、その光の中へ足を踏み入れた。



内部は遺跡だった。


天井は高く、壁面には金色の装飾。古いが崩れてはいない。

床には幾何学模様が刻まれ、壁に埋め込まれた光源が静かに周囲を照らしている。


コインが先を歩く。


数歩進んだ瞬間、床の一部が沈んだ。

ソルが踏もうとしていた位置より、わずかに左――トラップだ。だが、コインが通った場所は沈まない。


「お前、トラップの場所もわかるのか」


コインは振り返らず、そのまま先へ進んでいく。


ソルが廊下を歩き始めた。

数歩進んだところで、床が沈んだ。

「っ」

咄嗟に跳び退く。沈んだ床の先から、鋭い刃が飛び出してきた。

ギリギリで躱せたが、当たっていれば危なかった。


「トラップか……」

床を見ると、刻まれた幾何学模様が一見どれも同じに見える。

どこが安全でどこが危ないか、見た目では判断がつかない。


もう一歩踏み出した。また別の床が沈んだ。

今度は足場ごと崩れる仕掛けで、慌てて壁に手をついて体を支えた。


「これ、全部パターンが違う……」


コインが横をすたすたと歩いていた。

トラップが、発動しない。


コインが踏んだ場所だけ、床がそのままだった。

コインが右に寄る。コインが左を迂回する。その動きに、迷いがない。


「……お前、分かるのか」


コインが振り返り、ソルを見た。


「……なるほど」


ソルはコインの足跡を正確になぞるように歩き始めた。

コインが右に寄れば右に、左を迂回すれば左に。

その通りに歩くと、それ以降トラップが一度も発動しなかった。


「最初からそうすればよかった」


コインが得意げに鳴いた。



廊下を抜けた先で、モンスターと遭遇した。


金色の装甲をまとった魔獣が二体。

低く唸り、床を蹴った瞬間、残像を引くほどの速度で迫ってくる。


「《フォーチュンブレイド》!」


黄金の光を帯びた剣閃が走る。

一体のHPが大きく削れた。


間髪入れず、踏み込む。


「《ラッキーセブン》!」


七連の斬撃が二体へ交互に叩き込まれる。

三発連続のクリティカル。硬い装甲の隙間を正確に貫いた。


「《奇跡の連鎖》」


連続クリティカルのたびに、身体が軽くなる。

四連、五連――AGIが伸び、動きがさらに鋭くなる。STRが乗り、一撃の重さが増した。


やがて二体は光の粒子となって消えた。


戦闘が終わっても、わずかな高揚感が残る。

《奇跡の連鎖》の上昇効果が、まだ途切れていない。


コインが、次の廊下へ歩き出す。

さらに奥へ。


床のトラップは増え、模様は複雑さを増していた。

安全な場所は見た目では判別不能。コインの足取りだけが唯一の道標になる。


やがて現れたモンスターは、一回り大きかった。

攻撃速度も速く、《ラッキーセブン》だけでは削り切れない。


「《フォーチュンブレイド》!」


LUK依存の一撃が炸裂する。

クリティカルが重なった瞬間、ダメージ表示が大きく跳ね上がった。


「《奇跡の連鎖》」


連鎖が七回に達する。


――視界が変わった。


全ステータスの上昇がはっきりと実感できる。

最初の戦闘とは、まるで別人の動きだった。


魔獣が崩れ、光となって消える。


「強くなってきたな……」


コインが振り返り、ソルを見る。

それから何事もなかったかのように、再び歩き出した。


廊下は、まだ続いている。


そして奥から――

これまでとは、明らかに違う。

重く、圧し潰すような気配が、静かに流れてきていた。

次は5/20 21時投稿予定

お楽しみに!

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