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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第131話 極振りヒーラー、金色の招き猫

「なんで今さら二層?」


転送門を抜けた直後、きょろきょろと周囲を見回しながらルナが首を傾げた。


「たまには下の層でのんびりしたくて」

「確かに。最近ずっと四層だったもんね」


ルナは大きく伸びをする。

イベント準備にテイム探索、スキル習得――気がつけば、ずっと気の抜けない場所ばかりを歩いていた。


少しくらい、肩の力を抜く時間があってもいい。


ハネリ村に足を踏み入れた瞬間、空気がふっと柔らいだ。


草原の中にぽつぽつと並ぶ小さな家々。

穏やかな風が吹き抜け、軒先では鳥のNPCが羽を休めている。


見上げれば、鳥型モンスターが村の上空をのんびりと旋回していた。

警戒心も敵意もなく、ただそこにいるだけの平和な光景だった。


「いいとこじゃん。空気が違う」


ソルが空を見上げ、気持ちよさそうに息を吐いた。


「鳥、多いね」


ルナが目を細める。青空の中を、白や茶色の鳥たちが思い思いに飛び回っていた。

四層に漂っていた重苦しい空気とは、まるで別世界だ。


二層は、実のところほとんど足を踏み入れたことのない場所だった。

ステラと出会ってから一気に第四階層まで進んでしまったため、ここはただの通過点に近かったのだ。


こうして足を止め、景色を眺めながら歩くのは――ほとんど初めてだった。


「こういう場所、久しぶりだな」

「ね。今日はのんびりしよ」


言葉を交わし、二人はあてもなく村を歩き出す。


ハネリ村の外には、なだらかな草原がどこまでも広がっていた。

足元の草がさらさらと風に揺れ、遠くから鳥の鳴き声が重なる。


ソルとルナは特に目的も決めないまま、草原を縫う小道をゆっくりと進んでいった。


「そういえばさ」と、ルナが思い出したように口を開いた。

「スタルって草原好きみたいで、最近よく出してるんだよね」

「そうなの?」


「うん。頭の上に乗って、耳ぴかぴかさせながら風受けてるの。すごく気持ちよさそうで」

「いいな」


そんな他愛ない会話を交わしながら歩いていると、草むらの脇を進んでいたソルの足がふと止まった。

視界の端で、かすかな光が揺れた気がしたのだ。


「え、なにこれ」


しゃがみ込み、草をかき分けて拾い上げる。

次の瞬間、視界にアイテムウィンドウが開いた。そこにははっきりと、レアドロップの表示がついている。


「拾っていいの?」と、ルナが横から覗き込む。

「落ちてたんだから拾うでしょ」


ソルはあっさりと言い、アイテムをインベントリへ収めた。

なぜ草原のど真ん中にレアアイテムが転がっているのかは分からない。

けれど、少なくとも――落ちていたのは事実だった。


「ラッキーだね」

「まあ、俺の運がいいからな」

「それ毎回言うよね」

「毎回、本当のことだからな」


軽口を交わしながら歩いていると、少し先の草原に鳥型モンスターの群れが見えた。

穏やかな景色の中で、そこだけがわずかにざわついている。


ルナが足を止め、杖を構えた。


「《マジックブースト》《二重魔法》……《サンダーボルト》《ウィンドカッター》!」


雷光と風刃が重なり、空を舞っていた鳥型モンスターを一瞬で散らす。

弾けた光の粒子が草原に降り、いくつかのアイテムが地面へと落ちた。


ルナはそのひとつに近づき、何気なく拾い上げ――表示を見たまま固まった。


「またレア!?」

「まじで?」


ソルが横から覗き込む。表示は確かにレアドロップだった。


「連続でレアって、おかしくない?」

「おかしくない。俺の運が好調なだけだよ」


ソルは得意げに、腰に下げたお守りを軽く揺らしてみせた。

いくつもぶら下がっている中のひとつが、なぜか今日はやけに存在感を放っている。


「お守りのおかげ?」

「お守りのおかげ」

「……根拠あるの?」

「あるって思った方が楽しいじゃん」


ルナは小さく息をつき、それでも堪えきれずに笑った。



村の外れまで歩いてきた頃、不意に草原の一角で金色の光が揺れた。


「なんか光ってる」


ルナが足を止める。ソルもその先へ視線を向けた。

草むらの陰に、小さな影がひとつ潜んでいる。


「あれ……猫?」


そっと近づいてみると、確かに猫だった。

手のひらに収まりそうなほど小さな体は、柔らかな金色の毛並みに包まれている。

尻尾はゆったりと揺れ、前足を揃えて座る姿は、まるで招き猫の置物のように愛らしかった。


――金貨猫。


静かな空気の中、その視線だけがはっきりとソルへ向けられている。


「かわいい……!」


思わずルナが声を漏らす。


「……俺を見てるな」


ソルが小さく呟いた。

実際、猫の瞳はルナではなく、まっすぐソルを捉えている。


ルナが興味を抑えきれず一歩踏み出した瞬間、金貨猫は軽やかに後ろへ跳び、二歩分ほど距離を取ったところで再び座り込んだ。


「あ、逃げた」

「……俺が近づいてみる」


ソルが静かに歩み寄る。

だが不思議なことに、金貨猫は逃げようとしなかった。


もう一歩。さらにもう一歩。

ゆっくり距離が縮まっていく中でも、猫はその場に座ったまま、警戒する様子もなくソルを見つめ続けていた。




「俺には逃げないんだな」


「なんで……?」


ルナが不思議そうに首を傾げる。

さっき自分が近づいた時はすぐ距離を取ったのに、ソルにはまったく警戒していない。


だが――テイムの選択肢は表示されない。


金貨猫はただその場に座り、金色の瞳でソルを見つめ続けていた。

まるで何かを確かめるように。あるいは、静かに値踏みしているかのように。


「なんか……見られてる気がする」


ソルと金貨猫が向き合ったまま、わずかな沈黙が流れる。

風が草原を撫で、さらさらと葉が揺れた。猫の尻尾だけが、ゆっくりとリズムを刻んでいる。


――やがて。


金貨猫はくるりと背を向けた。


一歩、また一歩。

草をかき分けるように、草原の奥へ歩き始める。


数歩進んだところで、ふと振り返った。

金色の瞳がソルを捉える。


そして再び前を向き、何事もなかったかのように歩き出した。


「……ついてこいってことか?」


ソルが小さく呟く。


「行くの?」

「行ってみよう!」


迷いのない返事とともに、ソルが歩き出した。

ルナも慌てて小走りで追いつく。


金貨猫は振り返ることなく、けれど一定の距離だけは崩さずに、二人を導くように草原の奥へ進み続けていた。

次は5/18 21時投稿予定

お楽しみに!

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