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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第129話 極振りヒーラー、古代の呪い再び

第四層のクエストボードに、一枚の依頼書が貼り出されていた。


――第三層・魔族領周辺にて異常な魔力反応を観測。原因の調査を求む。


ステラはその依頼書をしばらく眺めた。魔力反応の異常。場所は魔族領周辺。


「エルディアさんたちに、何かあったのかも」


他のメンバーには声をかけなかった。

魔族領に心当たりがある分、自分が行く方が早い。それだけの判断だった。


「行こう、ルミナ」


ルミナが肩の上で力強く鳴いた。



第三層を経由して魔族領へ向かう道中、違和感に気づいたのは早かった。

前回来た時と、景色が違う。

道の脇に生えていたはずの草が、色を失い始めている。

枯れているというより、生命力が抜けていくような変色の仕方だった。


「……また枯れてる」


ルミナが不安そうに小さく鳴いた。

魔族領に近づくにつれて、変化の範囲が広がっていく。

前回ステラが歩いた道に沿って緑が広がっていたはずの場所が、少しずつ灰色を取り戻し始めていた。


「前に来た時は、こんなじゃなかったのに」


魔族領の入口が見えてきた時、黒いローブの影が数人、こちらへ向かって駆けてくるのが見えた。

魔族の戦士たちだった。

足を止めると、先頭の一人がステラの顔を見て、目を見開いた。


「……あなたは。以前、この地を救ってくださった人間では」

「はい。何があったんですか?」

「大変なことになっています。長のもとへ、急いでください」


戦士たちがステラを囲むように歩き始めた。その顔に、焦りが滲んでいた。




魔族領の中心部は、ステラが最後に見た時とは別の場所のようだった。


前回、ステラが蘇らせた草木が、また少しずつ枯れ始めている。

花が色を失い、葉が端から灰色に変わっていく。

その変化は今もゆっくりと進んでいて、見ている間にも葉の先端が落ちた。


中央に、エルディアが立っていた。

黒い角。長い銀髪。その姿は前回と変わらなかったが、表情が違った。

深刻な重さが、老いた顔に刻まれている。


「……来てくれたか、人間の子よ」

「何があったんですか?」


エルディアがゆっくりと口を開いた。


「この地の奥深く……古代の呪いが、再び目を覚ました」


かつてこの地を滅ぼした古代の戦争。

その時に刻まれた呪いは、完全に消えたわけではなかった。


ステラの回復魔法で大地が蘇ったことへの反発として、眠っていた呪いが再び具現化し始めたのだという。


「生命が戻ることを、呪いが拒んでいる」

「それが……また大地を枯らしてるんですね」

「このままでは、また元に戻ってしまう。いや……前よりも速い速度で」


ステラは足元に目を落とした。さっきまで青かった草が、視認できる速度で色を失っていく。


「行ってみます」


エルディアの眉が僅かに動いた。

「危険だ。あれは……我らでも手が出せない。直接触れようとした戦士が、力を根こそぎ奪われた」

「大丈夫です。ルミナもいるし」


ルミナが胸を張るように羽を広げ、力強く鳴いた。

エルディアは長い間、ステラを見ていた。止めることも、急かすこともせず、ただ見ていた。


「……武運を」


複雑な表情のまま、静かに言った。



魔族領の最奥へ向かう道は、足を踏み出すたびに重さが増していく感覚があった。

大気が違う。空気が粘つくように重く、呼吸するたびに肺に引っかかるような感じがする。

魔力的な圧迫感だった。


「《プロテス》《迅速》《星の巡り》」


バフを重ねる。《リジェネ》を発動して継続回復を維持した。


道の両脇で、前回ステラが蘇らせた花や草が枯れていく。

一歩進むたびに、足元から順番に色が抜けていく。

自分が通り過ぎた後の道を振り返ると、灰色が広がっていた。


「……私が蘇らせた場所が……」


ルミナが羽を広げ、地面へ向けて炎を放った。


「《燃え盛る大地》」


炎が地面に触れた場所だけ、一瞬だけ草が戻った。

緑が、ほんの数秒だけ輝いた。


「ルミナ……」


だがすぐにまた枯れていく。

呪いの力が、ルミナの炎より速く大地を侵食していく。

ルミナが悔しそうに鳴いた。


「ありがとう。気持ちだけで十分だよ」


進み続けた。

《再生の祝炎》を発動すると、足元が一瞬だけ緑になった。

だがそれも長続きしない。蘇らせる速度より、枯れる速度の方が速かった。


最奥に近づいた頃、視界の先に異変が見えた。

黒い霧だった。


霧というより、闇そのものが立ち込めているような密度がある。

周囲の空気を飲み込むように広がり、触れた場所から全ての色が消えていく。

近づくにつれて、霧の温度が下がっていくのが分かった。


回復エフェクトの光が、霧に触れるたびに弱くなる。


「……あれが、呪い……?」


霧の中から、低い唸り声が響いた。

音というより、振動に近い。地面から伝わってくるような、重くて低い響きだった。

ルミナがステラの肩に体を押しつけてきた。小さな体が、かすかに震えている。


「大丈夫だよ」


ステラはルミナの頭に手を添えながら、霧を見つめた。

呪いが、こちらを認識している。

そう感じた。

次は5/16 21時投稿予定

お楽しみに!

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