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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第127話 極振りヒーラー、星型の兎と突撃魔法使い

「ソル、見て見て! 《二重魔法》でこうやると……」


ルナが杖を構えながら歩いていた。

第四層のフィールドは広く、今日は二人でのんびり探索のつもりだった。

新しい魔法の組み合わせを試しながら、気が向くままに歩くだけ――そんな、穏やかな時間のはずだった。


「左手でファイアボルトの詠唱を始めながら、右手でウォーターショットを同時に……」


「ルナ、前」

「え?」


ソルの声が、いつもより少し鋭かった。

ルナが顔を上げると、十メートルほど先に何かが見えた。

白い小さな塊が、複数の影に囲まれている。

中型のモンスターが三体、小さな生き物の周りを取り囲むように動いていた。


状況を確認する前に、手が動いていた。


「《マジックブースト》!」


魔法攻撃力が二倍に上がる。

ルナは杖を両手で構え、詠唱を重ねた。


「《二重魔法》……《サンダーボルト》! 《ファイアボルト》!」


雷と炎が同時に解き放たれる。

二つの魔法が絡み合うように走り、モンスターの群れに直撃した。

雷が走り、炎が爆ぜる。三体は吹き飛ばされ、光の粒子になって散っていった。


一瞬で、終わった。


「……考える前に撃ったね」

ソルが横で呆れた顔をしている。


「だって、囲まれてたんだもん!」

「まあ、結果オーライだけど」


二人が恐る恐る近づくと、白い生き物がその場にちょこんと座っていた。


体は白く、星型の斑点模様が全身に散らばっている。

耳の先だけがほんのり光り、丸い目がこちらを見上げていた。

大きさは小さく、ふわふわしていて、全体的に丸い――まさに兎そのものだった。


「かわいい……!!」

ルナの声が自然と上ずる。

星型の模様、光る耳、ふわふわの毛並み――想像していた以上に全部が可愛くて、心を奪われた。


「星屑兎だ」

ソルが静かに言った。


「テイムモンスターの候補で見たやつじゃないか」


「そうだよ! でも、それより可愛い! 実物の方が全然可愛い!」

ルナは夢中になり、一歩、また一歩と近づいた。


その瞬間。

丸い目が、ほんの一瞬だけ強く見開かれた。


星屑兎がぴょん、と跳び上がると、あっという間に草むらの奥へ消えてしまった。


「あ! 待って待って!」

ルナが追いかけようとしたが、二歩踏み出したところで草むらの揺れは止まった。完全に姿を消したのだ。


「……逃げた」

ソルが静かに言う。


「なんで! 助けてあげたのに!」

「急に突撃したら怖いんだ。どんな生き物でも」

「突撃してない、近づいただけ」

「それが突撃なんだよ」


ルナはその場にしゃがみ込み、草むらをじっと見つめた。もう気配もなく、テイムの選択肢も当然出なかった。


「……また会えるかな」

「さあ。でも、このエリアにいるんじゃない? さっきもここにいたんだし」

「もう一回来てみる!」


ルナは立ち上がり、草むらの方角を指差した。


「次は絶対、逃がさない」

「逃がさない、じゃなくて怖がらせない、だろ」


ソルがため息交じりに言う。


「……そっちか」

「そっちだよ」





ギルドホームに戻ると、ステラがリビングでルミナと遊んでいた。


ルナが扉を開けた瞬間から、早口で話し始める。


「ステラさん! 可愛い兎がいたんだけど、逃げられた!」

「え、何があったの?」


ステラが顔を上げる。


「第四層で、囲まれてる兎を見つけて、モンスターを倒して助けてあげたのに……近づいたら逃げちゃった」

「なんで逃げられたの?」

「……突撃したから」

「あー」


ステラが笑った。柔らかい笑い方で、でもしっかり笑っていた。


「次は落ち着いてみたら? いきなり近づいたら怖いよ。小さい子は特に」

「わかってる! わかってるんだけど……可愛かったんだもん」

「じゃあ次は、可愛いって気持ちをちょっとだけ抑えてみたら?」


ステラが笑いながら言う。


「抑えられるかな……」

「ルナちゃんなら、きっと大丈夫だよ」


根拠があるような、ないような答えだったけれど、ルナは素直に受け取った。


「……頑張ってみる」

「うん。静かに待ってみたら来てくれるかもしれないよ。焦らずそこにいるだけ、みたいな感じで」


「それが一番難しいんだよ」

ソルが横から言った。

「こいつ、じっとしてたことないから」


「してるよ! 寝てる時は」

「寝てる時はノーカウント」


ルナがぷっと吹き出す。ステラも笑った。


ソルはソファに座り、腰につけた小さなお守りを指先で撫でている。

幸運を呼ぶとされるお守りを、いくつか下げていた。


「次は俺の運を信じろ」

「ソルの運、テイムに使えるの?」

「使えるかどうかは分からないけど、無いよりマシだろ」

「頼りにしてる」

「俺もそのつもりで言ってない」


ルナがまた吹き出した。ステラも笑っている。

ソルだけが真顔のまま、お守りを撫で続けていた。


「次、いつ行く?」

ルナがステラに聞く。

「明日はどう? 一緒に行こうか」

「行く! でも今度は突撃しない」

「うん、静かに待ってみよう」

「……難しいけど」

「難しいね」


ステラがにこにこしながら答える。

ルナは拳を握り、草むらの奥に消えた白い影を思い出した。


星型の斑点。

光る耳の先。

あの丸い目が、こちらを見上げていた一瞬。


次は、逃がさない。

いや、逃がすんじゃなくて。

次は、怖がらせない。


次は5/14 21時投稿予定

お楽しみに!

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