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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第125話 極振りヒーラー、守り神の決意

「三方向から来る。数は――これまで確認された中で最大規模」


斥候から届いた報告を確認しながら、ヒマワリが全員へ共有する。


村ではすでに避難誘導が始まっていた。

慌ただしく行き交う足音と、不安を押し殺した声が夜気に混じる。


その中でバルトは冷静に地形を思い描いていた。


東・南・西――三方向からの同時侵攻。

守るべきは村の中心部。だが、三人で全てを受け止めるには明らかに戦力が足りない。


必ずどこかが薄くなる。


「三人じゃ……厳しいね」


状況を見渡しながら、ステラが小さく呟いた。


バルトはわずかに間を置き、決断する。


「……ステラ。レギオンを全部出せるか」


その言葉に、ステラが目を瞬かせる。


「フルサモン……? うん、やってみる」


杖を両手で握り、静かに目を閉じる。

深く息を吸い込み、内側へと意識を沈めた。


「《スイート・レギオン》――フル・サモン!」


柔らかな光の粒子が夜空へ散り、その中から一体、また一体と聖霊たちが姿を現していった。

甘やかな気配と、頼もしい存在感が周囲の空気を満たしていく。


十体すべての聖霊が揃った。

ステラは一人ひとりを見渡し、すぐに指示を飛ばす。


「チョコガルドとビスコルドは正面。バルトさんの横について」


二体が力強く頷き、前線へ。


「シュトレンとナイトショコラは左翼をお願い」


静かに頷いた二体が、影のように持ち場へ散る。


「ジェラートは遊撃。状況を見て動いて」


軽やかな返事とともに、姿がふっと揺らぐ。


「キャンディスとマジョレーヌは後方支援。ショコアはヒマワリちゃんについて」


ヒマワリが軽く手を振り、ショコアが寄り添う。


「キャラメリアは敵の足止めを優先。シスタルトは私の後ろで待機ね」


最後の指示まで淀みはなかった。

聖霊たちはそれぞれの役割を理解し、迷いなく持ち場へ散っていく。


その様子を確認してから、バルトは一度だけステラへ視線を向けた。

短く、だが確かな信頼を込めて。


「頼む」


ステラは少しだけ息を吐き、微笑む。


「任せて」




モンスターの群れが、三方向から姿を現した。


数が多い。

斥候の報告に誤りはなかったが、実際に目の当たりにすると、その密度と圧は想定以上だった。


先頭の大型が咆哮する。

低い振動が地面を伝い、空気そのものが重く沈んだ。


ステラは杖を握り直すと、まず静かに自分自身へ魔力を巡らせた。


「《プロテス》《剛力》《迅速》《星の巡り》」


VIT、STR、AGI、LUK――四つの強化が重なり、淡い光が幾層にも重なってステラの身体を包み込む。

細い身体に満ちていくのは、防御だけではない。前線に立つ覚悟そのものだった。


続けて回復魔法を重ねる。


「《再生の祝炎》《ハイヒール》」


柔らかな炎のような光が全身に灯り、持続回復がゆっくりと巡り始める。

そこへハイヒールを重ねた瞬間、回復量は上限を超え、溢れた光が膜となって凝縮された。


淡く輝く防壁――バリアが、ステラの全身を静かに覆う。


そして。


「《慈愛の抱擁》」


ステラはそっと両腕を広げた。


その仕草を合図に、彼女の周囲に満ちていた光が波紋のように広がっていく。

重ねていた強化、持続回復、そしてバリア。


すべてが分かたれ、優しく仲間たちへ行き渡った。


バルトへ。

ヒマワリへ。

そして十体の聖霊たちへ。


光に包まれた戦場の中で、ステラは小さく息を吐く。


「……これで、みんなを守れる」


直後、彼女は一歩前へ出た。


「《挑発》」


静かな声とは裏腹に、群れの視線が一斉にステラへ集まる。


その背後で、バルトが要所へ踏み込み――


「《フォートレス》」


重心を落とし、防御力を三倍へ引き上げた。

左にチョコガルド、右にビスコルド。三枚の盾が正面を固め、通路を完全に塞ぐ。


「《チョコレートウォール》!」

「《クリームコーティング》!」


二重の防壁が展開される。


直後、大型モンスターが正面から激突した。

衝撃が走る。だが、壁は揺るがない。


前線を叩く攻撃が、仲間たちのバリアを軋ませる。

砕けかけた、その瞬間――


光が走った。


《不壊の意志》が発動し、崩れかけた防壁がそのまま維持される。


攻勢へ転じる。


「《グランドスラム》!」


バルトが盾を地面へ叩きつけた。

衝撃波が中央の群れを押し返し、ノックバックした敵の陣形が大きく崩れる。


その隙を、ステラは逃さない。


「キャラメリア!」


「《粘つく呪縛》♪ 《甘美なる束縛》!」


甘く絡みつく魔力が、崩れた群れの足を絡め取った。

粘性の呪縛により動きは鈍化し、逃げ場を失う。


上空で魔法陣が展開される。


「《メテオフォール》!」


マジョレーヌが魔導書を掲げた。

天に開いた魔法陣から圧縮された魔力塊が降り注ぎ、拘束された敵陣へ直撃する。


爆ぜた光の中で、複数のモンスターが一瞬で粒子へと崩れた。


一方、左翼ではシュトレンとナイトショコラが前線を維持していた。


「《シュトレンクラッシュ》!」


シュトレンの全力の一撃が大型を大きく吹き飛ばす。

生まれた隙間を縫うように、ジェラートが影のように駆け抜けた。


「《ジェラートピアス》」


ダガーが閃き、一体が消える。

さらに駆け、また突く。


ジェラートの高速遊撃が、左翼の敵数を着実に削り続けていた。



右翼は、ヒマワリが単独で受け持っていた。


押し寄せる群れを前に、彼女は静かに呼吸を整える。

そして――迷いなく踏み込んだ。


「《ストームスタンス》!」


風と雷が全身に纏わりつき、刃の軌跡に稲光が走る。

加速した感覚の中で、世界の動きがわずかに遅れて見えた。


ヒマワリは短く声を投げる。


「ショコア、頼む」


「《甘美なる力》!」


ショコアの支援が重なった瞬間、身体の奥から力が溢れ出す。

慈愛の抱擁によって底上げされたステータスの上に、さらに攻撃強化が積み重なった。


踏み込む。


「《蜃気楼》!」


複数の虚像が生まれ、戦場に揺らぎが広がる。

敵の視線が分散した一瞬、本体は音もなく側面へ滑り込んだ。


「《疾風連斬》!」


十連撃。


風を裂く斬撃が連続し、虚像に意識を奪われていた中型は対応すらできない。

一体、また一体と光の粒子へ崩れ――瞬く間に十体が消えた。


間髪入れず、次の術式を展開する。


「《陽炎》!」


指定範囲に歪んだ熱の揺らぎが広がり、敵の視界が乱れる。

命中精度が落ちた群れの中へ、二刀の乱舞が滑り込んだ。


後方では、キャンディスが静かに弓を引き絞る。


《ポップキャンディショット》


放たれた矢は一直線に走り、密集した敵陣を縦に貫いた。

手前を貫き、奥へ届き、複数体が同時に削られていく。


――それでも。


数が、多すぎた。


削っても削っても、波は途切れない。

中央ではバルトのHPがわずかずつ削られ、左翼ではシュトレンが徐々に押し返され始めている。


ヒマワリの呼吸も荒くなっていた。


「キリがない……!」


振り抜いた刃の先で、雷が弾ける。

それでも、次の敵がすぐに視界へ入る。


中央で、バルトが歯を食いしばった。


「もう少し……」


盾を構え直した、その時だった。


――地面が、震えた。


戦闘の衝撃とは違う。

もっと鈍く、もっと重く、ゆっくりとした振動。


足元から伝わるその感覚に、誰もが一瞬動きを止める。


祠の方角からだった。


一歩。

また一歩。


重い足音が、確かに近づいてくる。


村人たちのざわめきが広がった。


「守り神が……!」


闇の向こうから現れたのは、岩亀だった。


苔むした岩盤のような甲羅。

幾年もの時を刻んだ重厚な体躯。


それが静かに、しかし確かな存在感を伴って村の入口へ歩み出る。


入口に辿り着いた岩亀は、ゆっくりと息を吸い込み――


「《大地の咆哮》」


低く重い咆哮が夜気を震わせた。


音というより、圧力だった。

大地そのものが唸ったかのような振動が広がり、モンスターの群れが一斉に怯む。


先頭が足を止め、後続が詰まり、進軍が完全に停滞した。


その隙に、バルトは一瞬だけ岩亀へ視線を向ける。


「……来てくれたか」


岩亀は答えない。

ただ静かに歩み寄り、バルトの隣へ並んだ。


左にチョコガルド。

右に岩亀。


二つの守護が、バルトの両脇を固める。


「守護を誓う!」


チョコガルドが力強く宣言する。


その声を聞きながら――


バルトは、小さく笑った。



――戦況が、変わった。


岩亀が前に出る。

迫る大型の一撃を、苔むした甲羅で静かに受け止めた。爪も牙も、通らない。


ゆっくりと息を吸い込み――


「《大地の咆哮》」


低い咆哮が地面を震わせ、突進していた群れの足が止まる。


その隙に、バルトが動いた。


「《グランドスラム》!」


盾が地面を打ち、衝撃波が中央の敵陣を崩す。

続いてシスタルトの《シュガーヒール》が前線を支え直し、強化を受けた聖霊たちが各方面で押し返した。


右翼では、


「《サンダーラッシュ》!」


ヒマワリの三連撃が大型を貫き、巨体が光の粒子へ崩れる。


左翼でも決着がついた。

ジェラートが急所を貫き、シュトレンの《シュトレンクラッシュ》が残敵を吹き飛ばす。


残るは正面の大型、一体。


「《シールドバッシュ》!」


盾打ちで巨体を止め――


「《リベンジスラッシュ》!」


短刀の反撃が装甲の隙間に深く入り、大型のHPが消えた。

最後の一体が、光にほどける。


――静寂が、村に戻った。



岩亀は、バルトの前に静かに立っていた。


戦いの熱がゆっくりと引いていく中、二者の間に流れるのは、ただ穏やかな静寂だけだった。

視界の端には、テイムの選択ウィンドウが淡く浮かんでいる。


バルトはしばらく言葉を持たず、岩亀を見つめた。

苔に覆われた甲羅。深く刻まれた古傷。

それでもなお、今夜もう一度立ち上がることを選んだ体。


「……長い間、一人で守ってきたんだな」


岩亀は答えない。

ただ、静かに――まっすぐに、バルトを見返していた。


バルトは小さく息を吐き、手を伸ばす。


「これからは、俺と一緒に守らないか」


低く、短い鳴き声が返ってきた。


――テイム成立。


「名前、どうするの?」


隣で、ステラが楽しそうに覗き込んでくる。

バルトはもう一度、岩亀を見上げた。


岩盤のような甲羅。

長い年月を背負った重厚な体。

それでも歩みを止めなかった、守護の存在。


「……イワオ」

「……シンプルだね」

「悪いか」


ステラはくすっと笑った。


「ううん。すごく似合ってると思う」


その言葉に応えるように、イワオが低く一声鳴く。

静かな夜の空気が、わずかに震えた。


村人たちの間から、次々と声が上がった。


守り神が動いた。

村が守られた――その事実が、張り詰めていた空気を一気にほどいていく。


疲れ切っていた顔に、久しぶりの安堵が戻っていた。

子どもたちが恐る恐るイワオへ近づき、苔に覆われた甲羅へそっと手を伸ばす。


イワオは動かなかった。

拒むこともなく、ただ静かにそれを受け入れている。


やがて村長が歩み出て、バルトの前で深く頭を下げた。


「守り神が……また動いてくれるとは。本当に、ありがとうございました」


「あいつが決めたことです」


バルトは短く答える。

それ以上でも、それ以下でもない。

ただ事実を告げただけの声だった。





ギルドホームに戻ると、真っ先に反応したのはリリアだった。


「守り神をテイムしてきたの……?」

「向こうが来てくれた」


驚きと納得が入り混じった表情のまま、リリアはイワオを見上げる。

その隣で、ティアが静かに口を開いた。


「イワオって名前にしたんですね」

「……何か文句があるか」

「いいえ」


ティアは小さく首を振る。


「バルトさんらしいと思っただけです」


ステラがイワオの横に立ち、見上げながら柔らかく笑った。


「守ってあげた相手に守ってもらうって、なんかいいね」


バルトは何も言わず、イワオへ視線を向ける。

イワオもまた、ゆっくりとバルトを見返した。


言葉はなかった。

それでも、十分だった。


「……そういうもんだろ」


ぽつりと呟き、バルトがわずかに口元を緩める。

その小さな笑みは、誰にも気づかれないほど静かなものだった。


次は5/12 21時投稿予定

お楽しみに!

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