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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第123話 極振りヒーラー、守り神の祠

ギルドホームの一角で、バルトは地図を広げたまま立っていた。


机の上にはいくつかのメモと、進行中の依頼書。

数日かけて進めてきた長距離クエストは、いよいよ終盤に差しかかっている。


だが――最後の区間だけ、空気が違った。


辺境の村の周囲に、通常より濃いモンスター反応。

出現数も質も、ここまでとは明らかに段階が上がっている。


一人で突破できないわけではない。

だが消耗を抱えた状態で村の防衛まで行うとなると、確実性が落ちる。


バルトはしばらく地図を見つめ、静かに息を吐いた。


その時、背後から声がする。


「バルトさん?」


振り返ると、ステラとヒマワリが立っていた。

作業の手を止め、こちらを覗き込んでいる。


「どうかしました?」


バルトは少しだけ言葉を選んだあと、依頼書へ視線を落とす。


「長距離の護衛クエストを進めている。もうすぐ終わるが……最後の区域だけ難易度が高い」


ステラの表情が真剣になる。

ヒマワリも地図へ視線を落とし、状況を読み取ろうとしていた。


「村の周囲にモンスターが集中している。討伐と防衛を同時にこなす必要がありそうだ」


一拍、間を置く。

バルトはわずかに視線を逸らし、それから二人を見た。


「……もし時間があるなら、手を貸してほしい」


言い慣れていない頼み方だった。

それでも声音に迷いはない。


ステラは一瞬だけ驚き、それからすぐに笑った。


「もちろんです!」


ヒマワリも小さく頷く。


「支援、任せて」


バルトは二人を見て、わずかに肩の力を抜いた。


「……助かる」



辺境の村への道は長かった。


第四層のフィールドを南へ進み、草原地帯を抜け、やがて山道へと入る。

道中では何度かモンスターと遭遇したが、足止めになるほどではなかった。


「《ハイヒール》《再生の祝炎》」


柔らかな光が体を包み、《リストア・ヴェール》が展開される。

準備を終え、ステラが一歩踏み出した。


「《挑発》」


モンスターの視線が一斉に集まる。


「《アイアンウォール》」


すぐ隣にバルトが並ぶ。盾を正面に構え、重心を落とす。

爪が盾を叩き、鈍い衝撃が響く。だが、押し込まれることはない。


「《スラッシュ》!」


側面からヒマワリが踏み込み、鋭い一撃を叩き込む。


「《ソニック・ブレイク》!」


続く二連撃。

モンスターの体勢が崩れ、光の粒子となって散った。


三人のやり取りに、余計な言葉はない。

戦闘を重ねるごとに役割が自然と固定されていく。


バルトが受け、ステラが繋ぎ、ヒマワリが崩す。

それだけで、群れがいくつ現れても安定して処理できた。


山道を登りながら、バルトがふと口を開く。


「この村には、以前――守り神がいたらしい」

「守り神?」とステラが聞き返す。


「巨大な亀の魔物だ。長い間、村を外敵から守っていたと伝わっている。村人には手を出さず、モンスターが近づくと追い払っていたそうだ」


「今はいないんですか?」


「……長い間、姿を見せていないらしい」


バルトはそれ以上語らなかった。

依頼書に書かれていたのも、そこまでだ。詳しい事情は村に着いてから聞けばいい。


山道を越えた先に、小さな集落が見えてきた。



村に到着したとき、出迎えた村人たちの表情は一様に疲れていた。


笑顔はなく、どこか張り詰めた空気が漂っている。

長い間、警戒と消耗を繰り返してきた者特有の顔だった。


村長は年老いた男性で、三人を見ると小さく頭を下げ、そのまま集会所へと案内した。


室内は質素で、中央の粗末なテーブルには地図が広げられている。

そこにはモンスターの出没地点が印で記されていた。


――印が多い。


「最近、急にモンスターの動きが活発になりまして」


村長が疲れた声で語る。


「周辺への出没は、以前の倍以上です。夜だけでなく、昼間にも現れるようになりました」


指先が、震えながら地図の印をなぞった。


「守り神の亀がいれば、こんなことには……。ですが、もう長い間、祠の奥に籠もったまま、姿を見せてくれなくて」

「祠というのは?」とバルトが尋ねる。

「村外れにあります。あの亀は、ずっとそこを根城にしておりました。ですが、ある時からぱったりと姿を見せなくなり……理由も分からぬまま、もう随分経ちます」


言葉の端に、諦めと不安が滲んでいた。


バルトは無言で地図に視線を落とす。


出没地点と村の位置関係を照らし合わせる。

侵入が多いのは東側の森と、南側の草原。


地形の関係で、防衛線が薄くなりやすいのは東側だ。

数秒の沈黙のあと、バルトが顔を上げた。


「わかった。村は俺たちが守る」


短く、だが迷いのない言葉だった。

村長は一瞬目を見開き、それから安堵したように深く頭を下げた。



最初のクエストは、翌朝から始まった。


東側の森の縁で、モンスターの群れが村へ向かっている――そんな報告が入る。

三人は村の東端に陣取り、迎撃の体勢を整えた。


静まり返った森の奥から、気配だけがじわじわと近づいてくる。


「来るぞ」


バルトが低く告げ、盾を構えて一歩前へ出た。


次の瞬間――


木々の隙間から影が溢れ出す。


中型の魔獣が七体。

その後ろに、大型が二体。

先頭の大型が咆哮し、群れが一気に動き出した。


「《挑発》」


声とともに盾を強く打ち鳴らす。

衝撃音が森に響き、魔獣たちの視線が一斉にバルトへ集中した。


「《アイアンウォール》」


重心を落とし、防御姿勢へ移行する。

最初の中型が飛びかかり、鋭い爪が盾を叩いた。


鈍い衝撃が腕を伝う。


だが――足は動かない。


さらに魔獣が続く。

連続する打撃を、バルトは真正面から受け止めた。


そして、大型二体が前へ出る。


地面が震えた。


「《フォートレス》」


その場に踏み込み、完全防御の構えを取る。

移動と引き換えに、防御力が極限まで引き上げられる。


大型の前脚が振り下ろされた。


盾に激突する衝撃。

地面が軋み、砂が跳ねる。


それでも――バルトは動かない。


「《ハイヒール》」


後方から、柔らかな光が降り注ぐ。

ステラの回復が、絶え間なくバルトを支えていた。


削られたHPが即座に戻り、防衛線は崩れない。


三人の連携は、すでに言葉を必要としていなかった。


「《シールドバッシュ》!」


バルトが踏み込み、大型の顔面へ盾を叩き込む。

鈍い衝撃音とともに巨体が揺れ、スタンが発生した。


動きが止まる。


その一瞬を逃さず、バルトはすぐにもう一体へ向き直った。


「《グランドスラム》!」


盾を地面へと叩きつける。

衝撃波が円状に広がり、周囲の中型魔獣をまとめて吹き飛ばした。


体勢を崩した群れの中心へ――


ヒマワリが迷いなく踏み込む。


「《ストームスタンス》!」


風と雷がヒマワリの身体に絡みつき、髪と衣装が揺れ上がる。

動きが一段鋭くなり、刃の軌跡に雷光が走った。


「《サンダーラッシュ》!」


雷速の三連撃。

踏み込み、斬り上げ、返す刃――


中型が二体まとめて吹き飛び、光の粒子へと崩れる。


間髪入れずに、


「《疾風連斬》!」


前方へ五連撃。

風を裂く斬撃が連なり、残った中型を飲み込んだ。


一体。

二体。

三体。


魔獣が次々と光へ変わり、戦場から消えていく。


その間も、後方では――


ステラが静かに状況を見続けていた。

バルトのHPが削れるたび、迷いなく回復を重ねる。


「《ハイヒール》」


柔らかな光が降り注ぎ、防衛線を完全に維持する。

前線は、崩れない。


大型の一体が吠え、バルトへと爪を振り下ろす。


「《カウンターシールド》!」


盾で受けた直後、反撃が発動。

間合いに滑り込み、短刀が脇腹へ突き刺さる。


巨体が揺れた。


「《リベンジスラッシュ》!」


さらに踏み込み、もう一撃。

受けたダメージを乗せた斬撃が、大型のHPを大きく削り取る。


そこへ――


「《ウィンドスラッシュ》!」


ヒマワリの放った風の刃が一直線に走り、大型を捉えた。

巨体が崩れ、光の粒子となって霧散する。


残るは、最後の一体。


バルトが静かに向き直った。


「《シールドバッシュ》」


衝撃。

スタン。


「《グランドスラム》」


叩きつけ。

衝撃波。


巨体が地面を転がり――

そのまま、光へと変わった。


静寂が戻る。

群れは――全滅した。



戦闘が終わると、遠巻きに見ていた村人たちから安堵の声が上がった。

張り詰めていた空気がほどけ、疲れた表情の奥にようやく安心が滲む。


子どもが一人、勢いよくバルトへ駆け寄ってきた。


「強い……! 本物の騎士みたい!」

「騎士じゃない。ただの盾役だ」

「同じじゃないですか」


後ろから、ステラがやわらかく言った。

バルトは何も答えない。


村人たちが次々に近づき、礼の言葉を口にする。

それらを短く受け取りながら――


ふと、バルトの視線が村外れへ向いた。

祠のある方向。


木々に囲まれた小さな建物が、夕暮れの橙色の光の中に沈んでいる。

動くものはない。人の気配も感じられない。


だが――


「……見られている?」


無意識に、言葉が漏れた。


気のせいかもしれない。

それでも、長く戦場に身を置いてきた感覚が、微かな違和感を拾い上げていた。


草陰か。

祠の奥か。


どこからかは分からない。


ただ――視線に似た何かがある。


「気のせいじゃないですか?」


ステラが首を傾げる。


バルトはもう一度、祠の方向を見た。


揺れる木々。

静まり返った建物。

何も変わらない風景。


「……そうかもしれない」


夕暮れの風が吹き抜け、祠を囲む木々の葉を静かに揺らした。

次は5/10 21時投稿予定

お楽しみに!

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