第116話 極振りヒーラー、相棒選び
ギルドホームのリビングには、いつものメンバーが自然と集まっていた。
テーブルの中央には、テイムモンスターのシステム解説と第四層の出現情報をまとめたメモ用紙が広げられている。昨晩のうちにノエルが用意したものらしく、几帳面な文字がびっしりと並んでいた。
「レイドボスイベントまで三週間。それまでには全員、テイムを済ませておきたいよね」
ヒマワリが腕を組みながら言う。
ステラはテーブルに頬杖をつき、紙を覗き込んだ。
「ルミナとソラリスはもうテイムできてるから……残り六人だね。みんな、何か考えてきた?」
「私は、ほぼ決まってるよ」
最初に口を開いたのはリリアだった。
「ヒールって、次の攻撃が来る前に入れるのが大事で……どうしても一点に集中しちゃうから、自分の目が届かないところが出てくるの。だから、場全体をじんわり支えてくれる子がいたら、すごく助かるなって」
「常時サポート型ってことね」
ヒマワリが納得したように頷く。
「うん。私が目の前に集中できる分、全体の安定感が上がると思う」
そのやり取りを聞きながら、ノエルが迷いなく口を開いた。
「俺も方向性は決めている。スキル付与が実装されたばかりでさ。強化の成功率をどう上げるかが、ずっと課題だったんだ」
ノエルはメモの一枚を指で叩きながら続ける。
「それを補助してくれて、さらに素材集めの効率まで上がる子がいたら――生産まわりは段違いになる」
「完全に生産目線だね……」
リリアが思わず苦笑する。
「生産が強くなれば、ギルド全体が強くなる。立派な戦力だろ」
ノエルは当然のように言い切った。
「ティアはどう?」
ステラが視線を向ける。
ティアはテーブルの端でわずかに間を置き、考えを整理してから淡々と口を開いた。
「弓を構えて狙いを定めている間、横や背後から接近されると対応が遅れます。狙撃中は移動できないため、その隙をどう埋めるかが課題です」
静かな声だが、内容は明確だった。
「敵の注意を分散させ、動きを乱してくれる存在がいれば……弱点はそのまま解消できます」
「索敵の補助もあると、ティアはさらに動きやすくなりそう」
ヒマワリが補足するように言う。
「……広範囲の情報が得られれば、判断精度が上がります。ちょうど、その両方を備えた個体が第四層に存在していて」
「見た目は?」
ステラが興味津々で身を乗り出す。
「合理的な選択です。見た目の話はしていません」
間髪入れず、ティアは真顔で答えた。
その横で、ルナが小声で囁く。
「……絶対かわいいと思ってる」
「言うなって」
ソルがすぐさま肘で突き、二人の小さなやり取りにリビングの空気がわずかに緩んだ。
「私はもう決めた!」
ルナがぱっと手を挙げ、椅子を揺らす勢いで前に身を乗り出す。
「かわいい子がいい。それだけ。ふわふわしてて、見てるだけで癒やされる――」
「能力は?」
ヒマワリが苦笑を浮かべながら、当然の確認を入れた。
「MP回復が上がって、魔法威力も伸びる! でもかわいいのが一番大事なのは変わらない」
「MP管理の問題は、できれば根本から解決してほしいんだけどな」
ソルが小さくため息をつく。
「でも補えるなら補った方がいいじゃん!」
勢いのまま言い切るルナに、ソルは一瞬だけ言葉を探し、やがて肩の力を抜いた。
「……まあ、筋は通ってるけどな」
そう言ってから、自分のメモへ視線を落とす。
「俺は確率の底上げがしたい。クリティカルとかドロップとか、運に左右されるスキルが多すぎる。成功率を少しでも上げてくれるだけで、戦闘でも素材集めでも貢献の幅がかなり広がるはずだ」
「堅実だね」
ヒマワリが素直に頷く。
「でもかわいいんでしょ」
すかさずルナが追撃する。
ソルは顔を上げ、ほんのわずかに言葉を詰まらせた。
「……なんで知ってんだよ」
「雰囲気でわかるよ」
バルトは一度、軽く咳払いをしてから口を開いた。
落ち着いた声には、いつもの揺るがない確信が滲んでいる。
「俺は壁を厚くしたい。前線を張りながら、後衛への攻撃をもう一段階防げればパーティ全体の生存率が上がる。足止めもできれば、崩れかけたときの立て直しにも使える」
「バルトがさらに堅くなるのか」
ノエルが感心したように眉を上げる。
「防御は厚いに越したことはない」
短い返答だったが、それだけで十分な説得力があった。
一通り意見が出揃ったところで、ヒマワリがメモ用紙を手に取る。
視線を落としながら、静かにまとめに入った。
「みんな、ちゃんと自分の課題から考えてるね。弱いところを埋めながら、得意なところを伸ばす方向で揃ってる。レイドボスの情報はまだ少ないけど、役割がはっきりしてる方が動きやすいと思う」
「テイムしてから連携の練習もしたいよね。三週間あれば、十分形にはできるかな」
リリアが少しだけ期待を滲ませて言う。
「私たちも探索中に何か情報が手に入ったら共有するね」
ステラが穏やかに続けた。
「テイムで困ったことがあれば、声をかけてくれたら一緒に行くよ」
「助かる」
短く答えたのはノエルだった。
メモから顔を上げ、少しだけ肩の力を抜く。
「テイムクエストって、戦闘が絡むパターンも多いだろ。生産職だけで行くには正直きつい場面もある。戦闘面をカバーしてもらえるなら、かなり安心できる」
現実的な言葉だったが、その表情には素直な信頼が浮かんでいた。
それを聞いたメンバーも、自然と小さく頷く。
三週間後のレイドボスに向けて――
新しい準備が、静かに動き始めていた。
次は5/3 21時投稿予定
お楽しみに!




