表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/124

第109話 極振りヒーラー、浮遊回廊と風の試練

前回の探索で手に入れた地図の断片を頼りに、二人は第三層の深部へと足を踏み入れた。

地図には「浮遊回廊」と記されたエリアがあり、その先に広がる構造が複雑に描かれている。


「ここが浮遊回廊か……」


ヒマワリが地図を確認しながら呟く。


第二エリアに入った瞬間、風の質が変わった。

第一エリアの風が一定方向に吹き続けるものだったとすれば、ここの風は不規則だ。

強くなったり弱くなったりを繰り返し、その度に足場がわずかに揺れる。

足場と足場の間隔も広くなっており、一つ踏み外せばそのまま霧の底へ消えてしまう。


「あれ……渡れるかな」


ステラが目の前の足場を見て言う。

次の足場まで三メートルほどの距離があり、今は強風が横から吹き付けている。

飛び越えようにも、風に煽られて落ちそうだ。


「風のパターンを読めばいける。一緒に行こう」


ヒマワリが風の動きを注視する。


強風、強風、弱風、弱風、強風、というリズムで繰り返している。

弱風の二回の間が渡るタイミングだ。


「今だよ」


ヒマワリがステラの手を引いて踏み出す。

一歩、二歩、風が弱まっている間に駆け抜ける。


ステラが少し怖がりながらも、ヒマワリの手を握って着いていく。

次の足場に着地した瞬間、背後から強風が吹き付けた。


「よかった……」


ステラが胸を撫で下ろす。


「三か所くらいこういう場所があるみたい。慣れてきたら一人でも渡れるよ」

「ヒマワリちゃんがいてくれて安心だよ」


ステラが笑顔で言う。

ヒマワリが少し照れくさそうに前を向いた。




浮遊回廊を抜けると、石造りの広い部屋に出た。

部屋の中央には複数のスイッチが並んでおり、壁の各所に風を送り出す装置が取り付けられている。

奥の扉は閉じており、スイッチを操作しなければ先へ進めないようだ。


「ギミック部屋か」


ヒマワリが状況を分析する。

試しに手前のスイッチを押すと、右の装置から強風が吹き出し、中央の足場が動き始めた。

別のスイッチを押すと、今度は左の装置が起動して先ほどの足場が元に戻る。


「風の向きが変わるパターンがある。スイッチを押す順番で仕掛けが変わるんだ」


ヒマワリが素早く法則を見抜いていく。


「どうしてわかるの? すごい!」


ステラが感心する。


「ゲームの攻略ってこういうのが楽しいんだよね」


ヒマワリが生き生きとした表情で言う。

普段の冷静な分析とは違う、純粋に謎解きを楽しんでいる顔だ。


しかし、最後の一か所でヒマワリが手を止めた。


どの順番でスイッチを押しても、奥の扉が開かない。

風の装置が複雑に絡み合っており、一つ押すたびに別の装置の動きが変わってしまう。


「うーん……」


ヒマワリが腕を組んで考え込む。


その横で、ステラがぼんやりと部屋を見回していた。

スイッチの配置、風の装置の位置、扉の仕組み。

そしてふと思いつく。


「あ、これ逆から押したらどうかな」


ヒマワリが顔を上げる。


「……逆から?」

「一番奥のスイッチから順番に押していくの。なんとなく、そっちの方が合ってる気がして」


ヒマワリが黙って試してみる。


一番奥のスイッチ、次に中央、最後に手前。

風の装置が順番に起動し、奥の扉がゆっくりと開いた。


「……あ、それだ」


ヒマワリが少し悔しそうに、でも笑いながら言う。


「え、合ってた?」

「合ってたよ。なんで分かったの?」

「なんとなく、かな。なんか逆の方がきれいな感じがして」


ヒマワリが苦笑する。論理で解けなかった謎を、ステラが感覚で突破してしまった。


「ステラの感覚、たまに侮れないよ」





第二エリアの奥に進むと、空間が一気に広くなった。

天井がなく、空がそのまま広がっている。足場は広い岩盤で、端まで二十メートルほどある。


そこに、巨大な鷹型のモンスターが待ち構えていた。

翼を広げると全長十メートルを超え、羽ばたくたびに強烈な風圧が発生する。

黄金色の羽根を持つその姿は美しくも威圧的で、鋭い目がまっすぐ二人を捉えていた。


「ストームイーグル……中ボスか」


ヒマワリが剣を構える。


「大きい……!」


ストームイーグルが翼を大きく広げ、《サイクロンウィング》を発動する。

渦巻く風が岩盤全体を席巻し、二人の体が吹き飛ばされそうになった。


「《マジック・ハンド》!」


ステラが魔力の手を二つ展開し、自分とヒマワリが吹き飛ばされないように押さえる。

巨大な透明の手が地面を掴むように固定し、二人が踏ん張れる状態を作った。


「ありがとう!」

「《プロテス》《剛力》《迅速》《慈愛の抱擁》!」


ステラがバフを重ね、《慈愛の抱擁》でヒマワリにも適用する。


「《加速》《ストームスタンス》!」


ヒマワリが強化スキルを重ねて発動し、二刀流の構えを取る。

両手の剣が風と雷の光を纏い、移動速度が大幅に上昇した。


「《流星の一閃》……じゃなくて《サンダーラッシュ》!」


ヒマワリが雷の速度でストームイーグルに接近し、三連撃を叩き込む。

しかしストームイーグルが翼で払い落とし、ヒマワリが後方に吹き飛ばされた。


「くっ……翼が邪魔だ」


ヒマワリが着地しながら状況を分析する。

正面からでは翼に弾かれてしまう。

翼を潜り抜けなければダメージが通りにくい。


「ステラ、あの翼の付け根が弱点っぽい。そこを狙える?」

「任せて!」


ステラが《スイート・レギオン》を発動する。


「ビスコルド、チョコガルド!」


淡い光が広がり、二体のタンク聖霊が召喚される。


「我が盾は誰も通さぬ!」

「守護を誓う!」

「二人とも前に出て! ストームイーグルの注意を引いて!」


二体が前線に出る。

ストームイーグルの意識が盾を持つ二体に向いた。


「今だよ、ヒマワリちゃん!」

「《加速》!」


ヒマワリがストームイーグルの側面に回り込む。

ストームイーグルがビスコルドに《ダウンバースト》を放っている隙を突き、翼の付け根に《ソニック・ブレイク》を叩き込んだ。


「効いてる!」

「《聖炎》!」


ステラが不死鳥の火球を翼の付け根に向けて集中させる。

WIS依存の炎魔法が弱点に直撃し、ストームイーグルが苦鳴を上げた。


ストームイーグルが体を回転させ、全方位に《スパイラルウィンド》を放つ。


「《マルチ・ディバイン・シールド》!」


ステラがWIS依存の神聖障壁を複数展開する。

風の刃が障壁に弾かれ、ビスコルドとチョコガルドがダメージを軽減した。


「《ドレイン・オーラ》!」


ステラがストームイーグルからHPを継続吸収しながら、《ハイヒール》でビスコルドのHPを回復する。


「《疾風連斬》!」


ヒマワリが前方に五連撃を繰り出す。

両手の剣が翼の付け根を交互に切り裂き、《ストームスタンス》の風と雷の追加ダメージが積み重なっていく。


ストームイーグルのHPが大きく削られる。最後の足掻きとして《グランドウィンドストーム》を詠唱し始めた。


「詠唱を止めないと!」

「《聖炎》《聖炎》!」


ステラが火球を連射する。

翼の付け根に直撃し、詠唱が中断された。


「今だ! 《スラッシュ》!」


ヒマワリがSTR依存の高威力斬撃を翼の付け根に叩き込む。

鮮烈な一撃がストームイーグルを貫き、巨体が光の粒子となって霧散した。


「やった! 息合ってたね!」


ヒマワリが剣を収める。


「ヒマワリちゃんのおかげだよ。弱点を見つけてくれなかったら苦戦してた」

「ステラの《聖炎》の集中砲火がなかったら無理だったよ」


二人が笑顔で頷き合った。





戦闘後、ビスコルドとチョコガルドを解除し、二人は風が穏やかな見晴らしの良い場所に腰を下ろした。

岩盤の端に並んで座ると、第三層全体が眼下に広がっている。


浮かぶ足場、揺れる霧、遠くに見える次のエリアの構造物。

夕暮れに近い光が霧を橙色に染め、幻想的な光景が広がっていた。


「きれいだね……」


ステラが脚をぶらぶらさせながら言う。


「うん」


しばらく二人で景色を眺めていると、ヒマワリがふと口を開いた。


「ステラって、最初からこんなに強かったっけ?」

「え? そんなことないよ。みんなに助けてもらってばっかりだもん」


ステラが首を傾げる。


「……そうじゃなくてね」


ヒマワリが言いかけて、やめる。


視線を遠くに向け、何かを考えているような表情をしていた。

ステラが首を傾げたまま待っていると、ヒマワリは「なんでもない」と小さく笑う。

風が静かに吹き抜けた。次のエリアが、遠くで二人を待っている。

次は4/26 21時投稿予定

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ