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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第108話 極振りヒーラー、風の迷宮へ

打ち上げの翌日、【星天の翼】のギルドホームは穏やかな朝を迎えていた。

昨夜の賑やかさが嘘のように静かで、メンバーたちはそれぞれの予定を立てている。


「ねえヒマワリちゃん、今日二人で第三層行かない?」


ステラが朝食を食べながら提案する。


「いいね。イベントで全然探索できなかったし」


ヒマワリが目を輝かせる。


「ノエルさんは素材集めに行くって言ってたし、ルナとソルはクエストがあるって」

「じゃあ、ちょうどいいね。二人でのんびり行こうか」


久しぶりの気軽な探索だ。

イベント期間中は常に緊張感があったが、今日は二人きりで好きなペースで動ける。

ステラもヒマワリも、どこか解放された表情をしていた。


装備を整え、二人が出発する。街を抜け、迷宮の入口へと向かう道を歩きながら、ヒマワリが言う。


「そういえば、第三層ってまだあまり探索できてないよね」

「うん。攻略情報も少ないみたいだし、楽しみだね」

「楽しみ、か……ステラってほんとにポジティブだよね」

「怖いこともあるけど、でも新しいところに行くのって、やっぱりわくわくするじゃない?」

「まあ、そうだね」


ヒマワリが笑う。




第三層の入口は、巨大な石造りのアーチだった。

他の層とは異なり、アーチの周囲から常に風が吹き出している。

入口の手前に立つだけで、髪が揺れるほどの気流を感じた。


「じゃあ、行こうか」


ヒマワリが一歩踏み出す。

入った瞬間、強風が二人に吹き付けた。


「わあ……すごい風!」


ステラが髪と服をはためかせながら声を上げる。

突風に体が持っていかれそうになり、思わず踏ん張る。


「第三層は風がテーマらしいね。足元が浮いてるから気をつけないと」


ヒマワリが周囲を見渡す。

そこは、息を呑むような光景だった。

空中に浮かぶ石畳の足場が、まるで雲の上に島が浮かんでいるように連なっている。


足場と足場の間には深い霧が漂い、底が見えない。

遠くには巨大な風車のような構造物がゆっくりと回転しており、その羽根が風を切るたびに低い音が響いてくる。

雲の切れ間から差し込む光が、霧に反射して幻想的な輝きを放っていた。


「きれい……」


ステラが思わず呟く。


「うん。でも、足を踏み外したら終わりだね」


ヒマワリが冷静に言う。石畳の端に近づくと、風が一層強くなる。


「気をつけて歩こうね」


ステラが頷く。二人が慎重に足場を進み始めた。




しばらく進むと、前方の空中に黒い影が舞い始めた。

鷹のような形をしたモンスターが数体、風の流れに乗って旋回している。

翼を広げるたびに鋭い風圧が生まれ、足場の空気がびりびりと震えた。


「ウィンドホーク……鷹型の風属性モンスターだね。高速移動が得意みたい」


ヒマワリが即座に状況を分析する。

群れの中の一体が急降下してくる。その速度は凄まじく、眼で追うのがやっとだ。


「《プロテス》《剛力》《迅速》!」


ステラがヒマワリにバフを付与する。

さらに《リジェネ》と《再生の祝炎》を自分自身に発動し、持続回復の準備を整えた。

超過して回復した分が《リストア・ヴェール》として展開される。


「《加速》!」


ヒマワリが移動速度を上昇させる。

急降下してくるウィンドホークの直前で横に跳び、攻撃を回避した。

鷹の爪が石畳を削り、火花が散る。


「速い……!」

「《ウィンドスラッシュ》!」


ヒマワリが剣に風を纏わせ、射程距離を伸ばした斬撃を放つ。

風の刃がウィンドホークの翼を捉え、一体が体勢を崩した。

しかし残りの二体が左右から挟み込んでくる。


「《マルチ・ディバイン・シールド》!」


ステラがWIS依存の神聖障壁を展開する。

複数の盾が展開され、ヒマワリを守る壁を形成した。

ウィンドホークが突っ込んでくるが、障壁に弾かれてダメージが軽減される。


「《ストームスタンス》!」


ヒマワリが三十秒間の強化スキルを発動する。

全身が風と雷の光に包まれ、移動速度が上昇し、攻撃に追加ダメージが付与された。


「《サンダーラッシュ》!」


雷の速度を得て、瞬間的に三回の連続斬撃を繰り出す。

雷の追加ダメージが加わり、ウィンドホークが大きくダメージを受けた。


「《慈愛の抱擁》!」


ステラが範囲スキルを発動する。

自分に付与したバリアがヒマワリにも適用され、防御性能がさらに底上げされた。


「《ドレイン・オーラ》!」


ステラが周囲の敵からHPを継続的に吸収するスキルを発動する。

WIS依存で吸収量が多く、三体のウィンドホークから同時にHPが削られていく。

吸収したHPがステラの体力を回復させ、《リストア・ヴェール》をさらに強固なものにした。


「《疾風連斬》!」


ヒマワリが前方に五連撃を繰り出す。

《ストームスタンス》の追加ダメージが加わり、連続攻撃がウィンドホークを次々と撃破していく。


「《跳躍》!」


ヒマワリが大きく跳び上がり、最後の一体に上から斬りかかる。


「《スラッシュ》!」


STR依存の強力な斬撃が鷹型モンスターを両断し、光の粒子となって消えた。


「よし、全部倒した!」


ヒマワリが着地し、剣を収める。


「ステラのバフがあると動きやすいね。体が軽くなる感じがする」

「ヒマワリちゃんが速すぎて目で追えないよ……」


ステラが苦笑する。《ストームスタンス》と《加速》が重なったヒマワリの動きは、ステラの視点ではほとんど残像しか見えなかった。


「でも、バフがきちんと乗ってるのは分かるんだね」

「分かるよ! それに《ドレイン・オーラ》で敵のHPを削ってたでしょ、あれ便利だよね」

「回復に専念しなくていい分、他のことができるから」

「ステラの戦い方、いつ見ても面白いよ」


ヒマワリが笑いながら言う。




しばらく足場を進んでいくと、ヒマワリが周囲のマップを確認しながら言った。


「そろそろ今日の探索も終わりにしようか。第三層の全体像も掴めてきたし」

「そうだね……あ、ちょっと待って」


ステラが足を止める。通路の壁に視線が止まった。

石畳の壁が続く中で、一か所だけ模様の刻み方が微妙に違う。

他の壁は等間隔に幾何学模様が刻まれているが、その箇所だけ模様の中心に小さな円形の窪みがある。


「ここ、なんか違う気がする」


ステラが何気なく手を伸ばし、窪みに触れた。

ガコン、と重い音がして、壁が内側にゆっくりと開いていく。


「……え」

「ステラ、隠し扉だよ!」


ヒマワリが驚きの声を上げる。

扉の先には小さな空間があり、中央に小さな宝箱が置かれていた。

壁には羊皮紙のような紙が貼り付けられており、よく見ると第三層の地図の一部が描かれている。


「地図の断片だ!」


ヒマワリが興奮する。


「本当だ……風車の場所とか、足場の配置とか、色々書いてある」

「これは貴重だよ。次の探索で役立つね」


二人が地図の断片をインベントリに収め、宝箱を開ける。

宝箱を開けた瞬間、淡い緑色の光が静かに広がり、風が二人の周囲をそっと撫でた。

中には淡い緑色に輝く素材が入っていた。風属性の強化素材だ。


「ノエルへのお土産によさそう。素材集めが好きだから、きっと喜ぶよ」


ステラが嬉しそうに言う。


「ステラって、こういう偶然の発見が多いよね」


ヒマワリが苦笑する。


「え、そうかな? なんとなく気になっただけだよ」


ステラが首を傾げる。


「なんとなくで隠し扉を開けるのか……」


ヒマワリが天を仰ぐ。

イベントの時もそうだった。


ステラは意図せず重要なものを見つけ、意図せず強いスキルを持ち、意図せず敵を驚かせる。

本人には全く自覚がない。


「今日はここまでにしようか。地図の断片もあるし、次はもっと奥まで行けそうだね」

「うん! 次が楽しみだね」


ステラが明るく言う。


二人が来た道を戻りながら、今日の探索を振り返る。

風の吹き付ける足場、幻想的な景色、初めての戦闘、そして偶然の発見。

短い探索だったが、充実した時間だった。


「また来ようね」

「もちろん。今度はみんなも連れてくる?」

「それもいいけど、たまには二人でも来たいな」


ステラが笑顔で言う。


「賛成」


ヒマワリが頷く。

第三層の出口を抜けると、外の空気が暖かく感じた。


風の迷宮の先に何があるのか、二人の期待はまだ膨らみ続けている。


次は4/25 21時投稿予定

お楽しみに!

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