第104話 極振りヒーラー、最強ギルドとの闘い3
「《流星の突貫》」
レヴィンの姿が、光の尾を引いて弾けた。
流星そのもののような突進。一直線に駆け抜け、その切っ先はただ一人――ステラを捉えている。
「《三の矢 参》《四の矢 雨》《六の矢 旋》!」
三方向同時射撃、矢の雨、そして跳弾射撃。
空間を埋め尽くすように放たれた無数の矢が、迎撃として放たれる。
――だが。
「甘い」
レヴィンの輪郭が揺らいだ。
《超加速》。次の瞬間、矢はすべて空を切る。
まるで未来を知っていたかのように、彼はそのすべてを回避してみせた。
ヒマワリが《加速》で割り込もうと踏み出す。
しかし、その進路を遮る影があった。
「邪魔させないよ」
ミラージュが短剣で牽制する。
その間に――
ビスコルドとチョコガルドが前に出た。
「ここは通さぬ!」
「守りは、俺たちが――!」
二体のタンクが盾を構え、レヴィンの前に立ちはだかる。
「《流星の連撃》」
レヴィンが流星の軌跡を描く連続攻撃を発動する。剣が何度も盾を叩き、火花が散った。
ビスコルドとチョコガルドが必死に耐えるが、レヴィンの攻撃は止まらない。
「すまない……」
「守れなかった……」
HPがゼロになり、ビスコルドとチョコガルドは光の粒子となって消えた。
「《流星の一閃》」
レヴィンが流星のように高速でステラに斬りかかる。
剣が光の軌跡を描き、ステラに向かって振り下ろされた。
ステラが《マルチ・ディバイン・シールド》で防御する。
WIS依存の神聖障壁が三つ展開されるが、レヴィンの一撃で全て砕け散った。
そして、レヴィンの剣がステラを貫く。
――痛い。
――死ぬ。
恐怖が全身を駆け抜ける。HPがゼロになる瞬間、ステラの脳裏に死の恐怖が蘇った。
暗闇が、冷たさが、何もかもが消える感覚が。
でも――
「きゃっ……!」
ステラのHPがゼロになる。
その身体が、力なく崩れ落ちた。
一瞬、時が止まったようだった。
「ステラ!」
ヒマワリが叫ぶ。
「ステラさん!」
ティアが駆け寄ろうとする。
――ヒーラーの戦闘不能。
それは、この戦場において致命的な意味を持っていた。
倒れ伏したステラの身体が、淡い光に包まれた。
「これは……」
レヴィンが剣を引き、警戒する。
光は次第に強まり、ステラの身体を包み込むように集束していく。
やがてそれは、まるで繭のような形を成した。眩い輝きが洞窟内を満たし、光の繭は鼓動するかのように脈動を繰り返す。
次の瞬間――
繭が砕け散った。
溢れ出した光の中から、ステラが姿を現す。
HPとMPは完全に回復し、削られていた力はすべて取り戻されていた。それどころか、全身から溢れる魔力が、明らかに先ほどとは次元の違う高まりを見せている。
ステラの背中に、光の翼が顕現する。
不死鳥を思わせる美しい翼が、淡い光を放ちながらゆっくりと広がった。
「……まだ、終わらないよ」
ステラが立ち上がる。恐怖を乗り越えて。みんなを守るために。
「完全蘇生か……なるほど」
レヴィンが剣を構え直す。その視線に、わずかな興味と警戒が混じる。
「厄介だな」
ミラージュも短剣を握り直し、距離を測る。
「もう一度倒す」
アルベルトが大剣を振り上げ、闘志を燃やす。
「了解」
ジンが静かに弓を引き絞った。
「対応します」
フェリシアが詠唱を開始し、魔力が周囲に満ちていく。
ステラの背後――光の翼が生み出す影の中から、キャラメリアが静かに姿を現した。
「今よ……!」
その声と同時に、キャラメリアがスキルを解放する。
「《甘美なる束縛》」
レヴィンの足元から、甘い香りを放つシロップ状の液体が湧き出し、蛇のように這い上がる。
粘性のあるそれは一瞬で全身を絡め取り、レヴィンの動きを完全に封じ込めた。
「くっ……動けないか」
レヴィンが剣を振ろうとするが、身体が動かない。
「レヴィン!」
ミラージュが駆け寄ろうとする。
「簡単には解けないわよ♪」
キャラメリアが余裕の笑みを浮かべる。
ステラの全身から、光とは質の異なる――漆黒の魔力が溢れ出す。
「《魔源共鳴》!」
宣言と同時に、ステラの全身が漆黒の魔力に包まれた。
魔族化が始まり、角が生え、翼が広がる。
最も高いステータスであるWISがINTに転換され、魔法攻撃力が爆発的に上昇する。
光の翼と漆黒の翼が重なり、圧倒的な魔力が溢れ出した。
ステラは、両手を前へ突き出した。
「《魔砲》!」
ステラの両手から、極太の魔力砲が前方に放たれた。
INT依存の純粋魔法攻撃。
漆黒の光の奔流が一直線に走り、拘束されたレヴィンを容赦なく飲み込む。
眩い閃光が洞窟内を埋め尽くし、轟音が遅れて響いた。
「……やられたな」
レヴィンのHPがゼロになり、光の粒子となって消える。
【流星の覇者】の面々に、凍りついた沈黙が走った。
「レヴィンが……!」
ミラージュが目を見開き、言葉を失う。
つい先ほどまで戦場を支配していた存在が、光の粒子となって消えた現実を、まだ受け入れきれずにいた。
「リーダーが……」
アルベルトの声音に、隠しきれない動揺が滲む。
剣を握る手に、わずかな震えが走った。
「くそっ……」
ジンが歯噛みする。
狙いを定めていたはずの視線が、わずかに揺らいだ。
「このままでは……」
フェリシアの声が掠れる。
ステラがゆっくりと視線を上げる。
漆黒の翼と光の翼が同時に広がり、重なり合う魔力が洞窟全体を震わせる。
「《魔弾雨》!」
ステラの背後、翼の間に無数の魔法陣が展開される。
天井へと撃ち上げられた漆黒の魔力は、反射するように分裂し、雨のように降り注いだ。
降りしきるのは、無数の魔力弾。
INT依存の高密度魔法が、ミラージュ、アルベルト、ジン、フェリシアを容赦なく叩きつける。
「ちっ……!」
洞窟内に爆ぜる衝撃音が、何重にも反響した。
「《キャンディアロー》!」
キャンディスが間髪入れずに弓を引き絞る。
放たれた矢は一直線に風を切り、ジンの肩を正確に射抜いた。
「《メテオフォール》!」
マジョレーヌが魔導書を掲げると、洞窟の天井に巨大な魔法陣が展開される。
岩盤を模した魔力塊――隕石を模した圧縮魔法が生成され、重力に従って落下した。
轟音と共に直撃。
アルベルトが地面に叩き伏せられ、HPが大きく削られる。
「《シュガーヒール》」
シスタルトの詠唱と共に、柔らかな光が戦場を包む。
【星天の翼】のメンバー全員のHPが回復し、息を吹き返した。
「《疾風連斬》!」
ヒマワリが一気に踏み込み、二刀が風を裂く。
五連撃、さらに重ねて五連撃。
合計十の斬撃が嵐のようにミラージュを襲い、そのHPを大きく削った。
「《七の矢 神降》」
ティアが全霊を込めた一射必殺級の大技を発動する。矢が眩い光を放ち、ジンを貫いた。
「くっ……」
ジンのHPがゼロになり、光の粒子となって消える。
「《グランドスラム》!」
バルトが盾を地面に叩きつけ、周囲の敵全てにダメージとノックバックを与える。
アルベルトが吹き飛ばされた。
「《ブレイクスラッシュ》!」
続けてノエルが踏み込み、一撃を叩き込む。
大剣がアルベルトの防御を切り裂いた。
「《マジックブースト》《サンダーボルト》!」
ルナが魔法攻撃力を二倍にし、雷を連発する。雷がフェリシアを襲った。
「《ホーリー・アロー》!」
リリアの放った純白の矢が追撃する。
神聖な光がフェリシアを射抜き、大ダメージを与えた。
「《ラッキーストライク》!」
ソルが死角から踏み込み、短剣を突き立てた――その瞬間。
刃が閃き、ありえないほどの力が解放される。
《奇跡の一撃》。
超低確率で発動する一撃が直撃し、ミラージュのHPは一瞬で消し飛んだ。
身体は光の粒子となり、跡形もなく霧散する。
《魔弾雨》と総攻撃の前に、【流星の覇者】のメンバーが次々と倒れる。
「……ここまで、か」
ミラージュがそう呟き、光の粒子となって消える。
「すまない……守り切れなかった……」
アルベルトもまた、悔恨を残して消滅した。
「みんな、ごめんなさい……」
フェリシアの声が、洞窟に虚しく響く。
――そして。
【流星の覇者】の幹部は、全員が撃破された。
ステラは深く息を吐き、《魔源共鳴》を解除した。
漆黒の魔力は霧散し、背に広がっていた光の翼も静かに消える。
「はぁ……はぁ……やった……」
力が抜け、ステラはその場に膝をついた。
「ステラ! 大丈夫!?」
ヒマワリが慌てて駆け寄り、肩を支える。
「大丈夫……ただ、ちょっと疲れただけ……」
そう言って、ステラは柔らかく微笑んだ。
全員が疲労困憊だったが、誰もが安堵の笑顔を浮かべていた。
ステラは静かに手を掲げ、ステラが聖霊たちを解除する。
キャンディス、キャラメリア、マジョレーヌ、シスタルトの姿が淡い光に包まれ、やがて粒子となって帰っていった。
「みんな……ありがとう……」
その呟きは、祈りのように洞窟に溶ける。
一行は拠点の奥へと退き、束の間の休息を取った。
ステラは残った力で回復魔法を巡らせ、仲間たちのHPを少しずつ戻していく。
「すごかったね……」
ルナが明るい声で言った。
「まさか【流星の覇者】の幹部を、全員倒すなんて……」
ノエルはまだ信じられないといった表情で呟く。
「……正直、現実味がないな」
バルトは腕を組み、深く頷いた。
「でもさ」
ヒマワリが拳を握りしめる。
「ちゃんと、やり切ったよね」
「はい」
ティアが静かに頷く。
「これで……ひとまず、終わりです」
洞窟に、長い戦いの終わりを告げる静寂が戻ってきた。
やがて――
〈システムアナウンス〉
「イベント終了です」
その瞬間、ティアがランキングボードを展開する。
光のパネルに、最終結果が表示された。
一位:【流星の覇者】 四十二pt
二位:【エレメント】 三十六pt
三位:【蒼嵐の軍団】 三十二pt
……
七位:【星天の翼】 二十一pt
一拍の沈黙の後、歓声が弾けた。
「やった! 七位だ!」
ヒマワリが思わず叫ぶ。
ティアも珍しく表情を緩める。
「……良い判断と連携でした」
ステラは仲間たちを見渡し、胸の奥に広がる達成感を噛みしめる。
「みんな、本当にお疲れ様」
自然と輪ができ、肩を叩き合い、笑い合う。
小規模ギルドでありながら、最後まで生き残り、七位という結果を掴み取った。
こうして――第4回イベントは、静かに幕を閉じた。
次は4/21 21時投稿予定
お楽しみに!




