第101話 極振りヒーラー、第4回イベント最終日
焚き火を囲み、全員が夜通し語り合っていた。
揺れる炎の音だけが、静かな夜に溶け込んでいく。
「三日目は……今まで以上に厳しくなるね」
ヒマワリが焚き火を見つめたまま、ぽつりと言った。
「はい。各ギルドとも、最終日は本気で動いてくるでしょう」
ティアが冷静に分析する。
「でも、ここまで来たんだ」
ノエルが拳を握りしめた。
「もう、負けられないよね」
誰もが頷き、言葉を噛みしめるように沈黙した。
やがて夜が明けていく。
東の空がゆっくりと白み、焚き火の明かりが朝日に溶けて消えていった。
そして――
最終日が、静かに幕を開ける。
ティアが指を払うと、空中に半透明のランキングボードが展開された。
淡く輝く画面に、現在の順位が映し出される。
【現在のランキング】
一位:【流星の覇者】 四十五pt
二位:【エレメント】 三十二pt
三位:【蒼嵐の軍団】 三十pt
……
七位:【紅蓮の炎】 二十pt
八位:【鋼鉄の盾】 十九pt
九位:【星天の翼】 十七pt
十位:【銀の剣】 十五pt
十一位:【炎の守護者】 十四pt
「九位か……前日から変わらずだね」
ヒマワリが小さく呟く。
「しかし、十位との差はわずか二pt。十一位も猛追しています」
ティアの表情は厳しい。
「このままでは危険です。逆転される可能性があります」
「じゃあ……もう少しポイントを稼がないと……」
ヒマワリの声に、焦りが滲んだ。
ティアが残存ギルドを確認した。
「……小規模ギルドは、ほとんど全滅しています」
「全滅?」
バルトが目を見開く。
「はい。初日の段階で大半が淘汰され、二日目でほぼ全て消えました。現在残っているのは、中規模以上のギルドのみです」
「ってことは……」
ヒマワリが気づく。
「私たちは――小規模ギルドとして、唯一残っている存在です」
全員が沈黙する。八人だけで、ここまで戦い抜いてきた。
他の小規模ギルドは全て脱落した。その重みが、全員の肩にのしかかる。
「安全圏まで順位を上げるため、あと三から五ptは欲しいところです」
ティアが提案する。
「どこを狙う?」
バルトが問い返した。
「中規模ギルドを狙います。大規模ギルドは【エレメント】の件で警戒されているはずなので避けます」
「よし、やろう!」
ノエルが拳を握り、力強く言い切る。
ティアは一度全員を見渡し、はっきりと告げた。
「攻撃チームは、ヒマワリさん、バルトさん、ティア。防衛チームは、ステラさん、ノエルさん、リリアさん、ソルさん、ルナさんです。今回は短期決戦です。午前中に稼いで、午後は拠点防衛に徹します」
「気をつけてね」
ステラが、少し不安を滲ませながらも柔らかく微笑んだ。
攻撃チームの三人は、森を抜けて進んだ。
慎重に、しかし無駄なく――約三十分後、目的の拠点が視界に入る。
天井はあるが壁のない、開放的な構造。中央には淡く輝くクリスタルが鎮座していた。
ティアが《ホークアイ》で確認する。視力が強化され、遠くの様子がはっきりと見える。
「防衛メンバーは約十五名。クリスタルは中央に設置されています」
「十五名か……多いね」
ヒマワリが呟く。
「ヒマワリさんが突入してクリスタルを破壊。成功したら、即座に撤退です」
「了解!援護はお願いね。」
「任せてください!」
ヒマワリが笑みを浮かべ、《加速》《ストームスタンス》を同時に発動する。
全身を包む風と雷の光。移動速度が一気に跳ね上がった。
「行くよ!」
ヒマワリが一気に突入する。
敵の防衛メンバーが反応するが、《加速》と《ストームスタンス》の移動速度上昇で追いつけない。
「何だ!?」
だが遅い。《加速》と《ストームスタンス》の重ねがけに、追いつける者はいない。
ヒマワリは一直線にクリスタルへと迫り、《疾風連斬》を発動した。
五連撃が風と雷を纏い、叩きつけられる。
パリン――
澄んだ音とともに、クリスタルが砕け散った。
「撤退!」
ティアが《四の矢 雨》で敵の前衛を牽制する。
バルトが《シールドバッシュ》で敵をスタンさせ、退路を確保した。
三人はそのまま森へと駆け込む。
背後で怒号が飛ぶが、追撃は間に合わない。
「一つ目、成功!」
ヒマワリが叫ぶ。
「次の標的へ移動します」
ティアが冷静に指示を出す。
次に辿り着いた中規模ギルドの拠点は、先ほどとは様相が違っていた。
壁と櫓に囲まれ、入口付近には複数の前衛が陣取っている。
ティアが《ホークアイ》で即座に確認した。
「……防衛二十名以上。後衛の配置も完成しています」
「多すぎるね」
ヒマワリが小さく舌打ちする。
「短期決戦は不可能です。ここは諦めましょう」
ティアは迷いなく結論を出した。
「了解。無理して突っ込む意味はないね」
三人は気配を消し、森の奥へと引き返す。
戦わない選択も、また勝ち筋の一つだった。
森を迂回し、さらに進んだ先――
別の中規模ギルドの拠点を発見する。
しかしこちらは壁に囲まれた砦のような構造で、防衛メンバーは約十二名。警戒も厳しい。
「壁がある……正面突破は難しいですね」
ティアが分析する。
「どうする?」
バルトが問いかける。
「ここからクリスタルを狙撃します」
ティアが弓を構える。《ホークアイ》で視界を強化し、壁の向こうにあるクリスタルを視認した。
「《必中の一矢》《七の矢 神降》」
ティアが全霊を込めた一射必殺級の大技を発動する。
矢が眩い光を放ち、神々しいオーラを纏った。
発動中は移動不可になるが、バルトが盾で守る。
矢が放たれる。矢が一直線に飛び、壁を貫通してクリスタルに直撃した。
パリン――
クリスタルが砕け散る。
「やられた! 敵はどこだ!?」
敵が混乱する。
「今です。撤退を」
ティアが即座に移動を開始する。
三人が森の中へ消えていく。
敵が壁の外に出てきた頃には、もう姿は見えなかった。
「よし! 合計四pt!」
ヒマワリが拳を握る。
「十分です。これ以上は欲張りません。一度拠点へ戻ります」
ティアが静かに頷いた。
三人が拠点へ戻ると、真っ先にステラが駆け寄ってきた。
「お帰り! 順調だった?」
「うん! 四pt稼いだよ!」
ヒマワリが満面の笑みで報告する。
ティアがランキングボードを表示する。システムからランキングが更新された。
一位:【流星の覇者】四十五pt
二位:【エレメント】三十四pt
三位:【蒼嵐の軍団】三十一pt
……
七位:【星天の翼】二十一pt
「やった! 七位だ!」
ルナが思わず声を上げる。
「まだです。最終日、何が起きるかわかりません」
その一言で、場の空気が引き締まる。
「午後は拠点防衛に徹します。これ以上のリスクは取りません。ただし――下位ギルドが追い上げてくるようなら、その時はポイントを取りに行きます」
「了解。」
ヒマワリが力強く頷いた。
全員がすぐに防衛準備へ移る。
バルトが入口に陣取り、リリアとルナが後方支援位置へ。
ステラは一人ひとりにバフを付与し、静かに祈るように魔力を巡らせていく。
森の奥深く。木々の隙間から、【星天の翼】の拠点を見下ろす五つの影があった。
レヴィン、ミラージュ、アルベルト、ジン、フェリシア――
【流星の覇者】の中核を成す面々だ。
「小規模ギルドで七位か。しかも唯一残った小規模ギルド」
レヴィンが静かに言う。
「……前に一度戦ったけど、面白い相手だったよ」
ミラージュが短く言う。
「ああ。確か、あの時は派手に死んで帰ってきてたな」
アルベルトが肩をすくめ、苦笑する。
「……うるせーよ」
ミラージュが小さく舌打ちした。
「狙いは外さない。今度は確実に仕留める」
ジンが冷静に言う。
「皆さん、落ち着いてください。作戦は計画通りに」
フェリシアが穏やかに、しかし確かな声で場を整える。
その様子を見て、レヴィンはゆっくりと口角を上げた。
「――本気で来い」
楽しげですらある声だった。
「そうじゃないと、つまらない」
五人は同時に歩き出す。
森の影が揺れ、夜の静寂が一層深まっていく。
最終日。
そして――本当の決戦が、今まさに幕を開けようとしていた。
次は4/18 21時投稿予定
お楽しみに!




