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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第100話 極振りヒーラー、エレメント戦3

燃え盛る炎がゆっくりと収束していく。

その中心に、二つの人影が浮かび上がった。


赤い髪の女性。

炎を纏った杖を手に、堂々と立つその姿は、周囲の空気さえ焦がしている。


そして、その隣――

緑の髪を揺らす女性が、風を操る杖を肩に担ぎ、軽やかに佇んでいた。


「遅くなったわ。けれど――ここからが本番よ」


イグニスが炎を纏いながら言う。


「二人がやられたか……やるじゃない」

「ふぅん……二人がやられたって聞いたけど」


ウィンが楽しげに口元を緩めた。


「なかなか、やるじゃない」


二人の視線が、同時にステラたちへと向けられる。


「私たちが相手をするわ」

「覚悟は、できてる?」


軽い口調とは裏腹に、圧倒的なプレッシャーが空間を支配する。


「まだ……いるの……?」


ステラは膝に手をつき、荒い息を吐いた。

疲労が、隠しきれず声に滲む。


「MP……もう半分もない……」


ルナが不安そうに呟く。


「……戦うしか、ありません」


ティアが静かに告げ、弓を構えた。


ステラが、ゆっくりと立ち上がった。

膝の震えを、意志の力で押さえ込む。


――まだ、終わっていない。

――まだ、戦える。

――まだ、守れる。


その想いに呼応するように、全身から漆黒の魔力が噴き上がった。


「《魔源共鳴》!」


宣言と同時に、ステラの身体を闇が包み込む。

黒い魔力が渦を巻き、形を成していく。


額から伸びる二本の角。

背中から展開する、闇を宿した翼。


魔族化――

最も高いステータスであるWISがINTへと転換され、魔力の質そのものが変質する。

魔法攻撃力は、常軌を逸した領域へと跳ね上がった。


「《魔結界》!」


ステラが両手を広げると足元から漆黒の紋様が走り、自身を中心にした結界を展開する。

魔法防御の結界が三人を包み込んだ。淡い光のドームではなく、漆黒の魔力で編まれた結界だ。


魔族化したステラの周囲で、圧倒的な魔力が脈動していた。

その存在感は、敵であるイグニスとウィンですら、一瞬言葉を失わせるほどだった。


「《インフェルノ》!」


イグニスが杖を振り下ろす。

次の瞬間、地面が赤く亀裂を走らせ、巨大な炎柱が幾本も噴き上がった。


広範囲殲滅魔法。

灼熱が三人と聖霊たちを呑み込もうとする。


「《トルネード》!」


間髪入れず、ウィンが竜巻を発生させる。

唸りを上げる暴風が炎を巻き込み、灼熱の渦となって襲いかかった。


だが――


漆黒の《魔結界》が、炎と風を正面から受け止める。


激しい衝撃。

結界がきしみ、黒い波紋が何度も走る。


「くっ……!」


ステラが歯を食いしばる。

二人の魔法は、先ほどのアクアとアウスを明らかに上回っていた。


チョコガルドが前に出る。

「《チョコレートウォール》!」

巨大な盾で炎と風を受け止める。


「《フレイムバースト》!」


イグニスが連続詠唱。

自身を中心に爆ぜる炎が幾度も放射され、至近距離でチョコガルドを焼きつける。


徐々に、HPが削られていく。


「《アイスランス》!」


マジョレーヌが氷の槍を生成し、イグニスに向かって放つ。


「《フレイムウォール》!」


炎の壁が立ちはだかる。

氷と炎が激突し、爆発的な蒸気が視界を白く染めた。


「《ウィンドカッター》!」


不可視の風刃が走る。


「きゃっ……!」


マジョレーヌが切り裂かれ、大きく体勢を崩した。

HPが大きく減少する。


「ルナ、今!」


「《マジックブースト》! 《サンダーボルト》!」


魔法攻撃力が倍化。

雷光が連続して空を裂き、ウィンへと降り注ぐ。


ウィンが突風を放ち、雷を軌道ごと逸らす。

だが完全には防ぎきれない。


数発が直撃し、彼女の身体が痺れる。


「くっ……やるわね」


苦笑を浮かべながらも、その目は楽しげに輝いている。


「《バーニングレイン》!」


イグニスが指定地点に炎の雨を降らせる。

チョコガルドが盾で防ごうとするが、範囲が広すぎて防ぎきれない。


「《サイクロンエッジ》!」


追撃するように、ウィンが旋風を放つ。

鋭利な風の刃が、炎の雨の隙間を縫って走った。


――ザンッ!


風刃がチョコガルドの装甲を切り裂く。

耐え続けてきた守護者のHPが、ついに尽きた。


「ここまで……だ……」


その言葉を最後に、チョコガルドの身体が淡い光に包まれる。


「チョコガルド……!」


ステラが悲痛な声を上げる。


その隙を、イグニスとウィンが逃すはずもない。


「《フレイムバースト》!」

「《トルネード》!」


二人の魔法が、同時に解き放たれる。


爆ぜる炎。

渦巻く暴風。


炎は竜巻に巻き上げられ、逃げ場のない火炎の渦へと変貌した。


「きゃっ――!」


マジョレーヌが叫ぶ暇もなく、灼熱と暴風がその身体を呑み込む。


HPが、一気にゼロへと落ちる。


「……ごめんなさい……」


儚い声を残し、マジョレーヌは光の粒子となって消えていった。


「マジョレーヌ……!」


最後の聖霊が消え、戦場に残ったのは――三人だけ。


「全部……やられちゃった……!」


ルナが絶望的な声を上げる。


守りは、失われた。

頼れる盾も、支援も、もうない。


――まだ、諦めない。

――まだ、戦える。


「まだ……終わらないよ……!」


掠れた声だったが、その瞳には確かな闘志が宿っていた。


「ステラさん、MPは……!」


ティアが心配そうに言う。


「大丈夫……《魔源共鳴》の力があるから」


ステラが《魔弾雨》を発動し、前方に超広範囲の魔力弾を放つ。

INT依存の魔法攻撃で、WISがINTに転換された今、圧倒的な威力だ。

無数の漆黒の魔力弾がイグニスとウィンを襲った。


「《フレイムウォール》!」


イグニスが即座に炎の壁を展開する。


「《ハリケーン》!」


ウィンも暴風を発生させ、迎撃に出る。

魔弾の数が、あまりにも多すぎた。

炎と風をすり抜け、いくつもの漆黒の弾が直撃する。


「くっ……!」

「チッ……!」


二人のHPが、確実に削られていく。


「今だよ!」

「《マジックブースト》――《二重魔法》!」


ルナの周囲で魔力が跳ね上がる。


「《ファイアボルト》!《サンダーボルト》!」


炎と雷――二つの属性が、同時に解き放たれた。


灼熱の火球が夜空を焦がし、直後、轟音とともに雷光が落ちる。

炎と稲妻の連撃が、イグニスとウィンを正面から打ち据えた。


「《六の矢 旋》!」

ティアが跳弾する矢を放つ。矢が二人に命中し、HPを削っていく。


そして、最後の一撃。

ステラが、両手を前に突き出した。


「《魔砲》!」


極太の魔力砲が解き放たれる。

漆黒の光の奔流が、夜を塗り潰すように前方へと走った。


逃げ場はない。

防ぐ術もない。


「くそっ……!」

「こんなに……強いなんて……!」


二人のHPがゼロになり、光の粒子となって消えた。



ステラが、静かに息を吐いた。

全身を覆っていた漆黒の魔力が霧散し、《魔源共鳴》が解除される。


魔族化した姿は消え、いつものステラへ――

だが、そのまま力尽きたように膝をついた。


「はぁ……はぁ……お、終わった……」


肩で息をしながら、かろうじて言葉を紡ぐ。


ルナが駆け寄る。


「ステラさん! 大丈夫!?」

「大丈夫……ただ、MPがほとんどない……」

「撤退しましょう。他のメンバーが来る前に」


異論はなかった。


三人は、砦から距離を取りながら森へと退く。

ステラは移動しながら《ヒール》を発動し、削られたHPを少しずつ回復していく。


ティアは最後尾につき、背後の気配に神経を研ぎ澄ませていた。


「やったね……」


しばらくして、ようやくルナが明るい声を出す。


「大規模ギルドのクリスタル、破壊できたよ!」

「うん……」


ステラは息を整えながら、ゆっくりと頷いた。


「でも……本当に、ギリギリだった……」

「《スイート・レギオン》がなければ、不可能でした」


ティアが冷静に分析する。


「召喚による戦力拡張と、時間稼ぎが勝因です」




その頃――


砦では、残された【エレメント】の防衛メンバーたちが集まっていた。


「クリスタルが破壊された……」

「小規模ギルドにやられるなんて……」

「【星天の翼】……あの召喚士、ステラ……」


アクアが低く呟く。

悔しさを押し殺した声だった。


「《スイート・レギオン》に、《魔源共鳴》……」


アウスが腕を組み、冷静に状況を整理する。


「予想を大きく上回る戦力です。特に終盤の火力は、完全に想定外でした」


一拍置いて、低く付け加えた。


「――どちらも、これまで一度も報告に上がっていないスキルです」


「見たことのない力、ってわけね」


ウィンが苦笑する。


「情報がない相手ほど、厄介なものはないわ」


「だからこそ……」


アクアが視線を上げる。


「次は、確実に潰す」


炎が、イグニスの周囲で静かに揺らめいた。


「次は許さないわ」




三人が【星天の翼】の拠点へ戻ると、ヒマワリが真っ先に駆け寄ってきた。


「お帰り! やったんだね!」

「うん……なんとかね」


ステラはそう答え、柔らかく微笑む。


「すごいな……大規模ギルドを落とすなんて」


バルトが素直に感心した声を上げる。


「拠点は無事だよ。襲撃はあったけど、きっちり返り討ちにしてやった」


ノエルが状況を簡潔に報告した。


「大規模ギルドのクリスタルを破壊しました。三pt獲得です」


ティアが淡々と報告する。


「これで順位は上がるね!」


ヒマワリがぐっと拳を握る。


「はい。ただし――【エレメント】は完全に警戒を強めるでしょう。次は、同じ手は通用しません」

「うん……もう一度は戦えないよ……」


ステラはそう言って、その場に座り込んだ。全身に、戦いの疲労が重くのしかかっている。


「でも、やり切ったよね!」


ルナが明るい声でそう言い、場を和ませる。

三人は拠点の奥へと移動し、休息に入った。


「少し休みましょう。次の作戦を考えるのは、それからです」


ティアが全員に指示を出す。

全員が束の間の休息を取った。



夜、ティアがランキングボードを表示する。

空中に浮かぶ半透明の画面に、現在の順位が映し出された。


【現在のランキング】

一位:【流星の覇者】 三十八pt

二位:【エレメント】 二十五pt

三位:【蒼嵐の軍団】 二十三pt

……

九位:【星天の翼】 十七pt


「やった! 九位だ!」

ヒマワリが弾けるように叫ぶ。


「十位以内まで、あと一歩だ!」

ノエルが拳を握りしめる。


「みんな、お疲れ様」

ステラが柔らかく微笑み、仲間たちを見渡した。


「二日目は成功しました。しかし、三日目はさらに厳しくなります」


ティアが冷静に告げる。


「でも、ここまで来たんだ。絶対に十位以内に入ろうね」

ヒマワリが力強く言った。


「うん。次は必ず勝とう」

ステラが明るく微笑む。


「絶対、勝つよ!」

ノエルが拳を握る。



――同じ頃。

【流星の覇者】の拠点でも、ランキングボードが表示されていた。


「【星天の翼】が九位か」

レヴィンが画面をじっと見つめる。


「小規模ギルドにしては、やるな」

ミラージュが短く評価した。


「……そこだな」

レヴィンが、何かを決めたように呟く。


最終日――三日目の戦いは、すぐそこまで迫っている。


そしてその背後で、【流星の覇者】の影が、静かに忍び寄ろうとしていた。


次は4/17 21時投稿予定

お楽しみに!

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