『キミトトモニトワニアランコトヲ〜魔法乙女獄〜』
とある建物内、とある一室にて、とある者達が面会していた。
「はじめまして。本日はよくお越し下さいました」
「いやいや・・この老骨でお役に立てるかは分かりませぬがな・・」
杖をつく老人に対するは、20代前半に見える女性だ。
一見、華奢に見えるが、引き締まった無駄のないプロポーションなのが分かる。
その肢体を細身のパンツスーツが包み、見た目の年齢に反して雰囲気に隙が無い。
にこやかに挨拶してはいるが、微笑みを浮かべたまま敵対者を始末してしまいそうにも見えた。
「改めて名乗らせて頂きます。私、国家公安委員会・警察庁・情報通信局・情報技術解析課・高度情報技術解析センター監察官、室津麻琴警視正であります」
「・・これはこれは御丁寧に・・感謝致します。・・自分の名乗りは必要でありましょうか・・?」
「いえ。すでに記録は開始されています。貴方が公的記録に残さぬことを前提としての情報提供者であるのは存じておりますので、この場での名乗りは結構です」
「・・感謝致します」
杖をつく老人が軽く会釈した。
「本日の同席者を略式ながら説明させて頂きます」
「・・ありがとうございます」
「こちら、私の部下として活動していますフィール・室津警部です。あまり記録に残す訳にはいかない事情がありまして、会釈のみとなりますことを御容赦頂きたい」
室津麻琴と名乗った女性が紹介したのは、
クリーム色に近い白髪のボブカットの少女だ。
姓名に室津と付いているが、髪色も目鼻顔立ちにも全く共通点がない。
「その御顔は確か・・」
「ご存知でしたか。お察しの通り、一時期、世間を賑わせた『来訪者』本人です」
「ぉぉ・・直に見るとやはり お美しい・・よろしければ、お会いできた記念に、握手頂いても・・?」
クリーム色に近い白髪のボブカットの少女が軽く頷き、片手を差し出して握手した。
「ありがたい。孫達に自慢できぬのが口惜しいがのう・・」
「・・・続きましてこちら、メアリー・J・ドゥー少佐。アメリカ空軍・第1特殊作戦航空団・理法外特殊事例対策部隊所属で、現在、日本に出向中の身となります」
「・・・・噂の死兵とお目に掛かるとはのぅ」
杖をつく老人は、紹介を耳にした瞬間に顔をしかめて一歩下がった。
紹介されたドゥー少佐が無表情で差し出していた手に握手を返そうともしない。
手を差し出したままのドゥー少佐は、『少佐』という階級にはとても見えなかった。
歳のころはフィールと紹介された少女と同年代か、欧米人という点から見て、少し若いか・・おそらくは、何かしらの特殊技能持ちの佐官なのだろう。
しかし、見た目の若さを抜きにしても、若干の違和感があった。
白人にしても、さらに青白く見える血の気の失せた様な顔色。
その肌も、なめし革のような妙な質感に見えた。
そして、生気の感じられない眼差し。
目の前に居ても気配の感じられぬ雰囲気。
対する老人は、大戦中に戦地で数えきれぬ程に見た死体を思い出していた。
いや、その少女のファミリーネームの意味するところを耳にしたことがあったのだ。
だからこそ、『死兵』と呼んだ。
「・・すまんな。そのモノに非も罪もないと分かってはおる。おるのじゃが・・棺桶に片脚突っ込んだ身なれど、いや、だからこその忌避感なのだと御理解頂きたい・・」
無表情のドゥー少佐は顔色を変えずに、差し出していた手を下げた。
「イエス。謝罪を受け入れる。ご老体、メアリーのことをどちらで知られたのか尋ねたい」
「・・・達者な日本語じゃな」
「イエス。任務で来日が決まった際にダウンロードされました。再度尋ねたい。どちらでメアリーを知った?」
「・・・先程の言葉は撤回しよう。達者とは程遠いのぅ・・」
「ノゥ。メアリーは現時点の最高到達点の一個体と評価されている」
「・・人間性と協調性を学ばれることを勧めよう」
「・・・イエス。有意義な提案と判断する。メンテナンススタッフにレポートを提出しよう」
杖をつく老人が困惑顔で室津麻琴を見た。
微かに溜め息を吐いた室津麻琴が静かに答える。
「この場での遣り取りの全ては公的記録に残らぬこととなります。我々は本日、会っていないことになっているのです。そして、彼女は治外法権の身・・会っていない貴方が原因不明の死を遂げて発見されるという事態は避けたいと考えています」
「・・・話しに来たつもりが脅迫されるとはのぅ・・しかも選択肢は無いも同然、か・・」
「ノゥ。ご老体、アナタに選択肢は一切存在しない」
ドゥー少佐が片腕を動かすと、静かな室内に僅かな金属音がした。
上着の内側のショルダーホルスターに収まる拳銃が立てた音だと、いま室内に居る者で気付かぬ者は居なかった。
とりつく島もないドゥー少佐を一瞥し、室津麻琴はクリーム色に近い白髪のボブカットの少女を見て小さく頷いた。
頷き返した彼女はドゥー少佐を見る。
「メアリー。彼は聞き取り調査にご協力頂く協力者です。ココは貴女の国では無い。貴女方の小隊構成員は、この国の警察機関と魔法少女達を敵に回すおつもりなのですか?」
「・・・ノゥ。ご老体、メアリーは謝罪する」
ドゥー少佐が敬礼しながら無表情で謝罪の言葉を口にした。
「・・・謝罪を受け入れよう」
「イエス。感謝する。・・フィール、室津警視正、メアリーは謝罪する」
「・・受け入れます」
「同じく」
フィールと麻琴が、ホッとした様にゆっくり息を吐いた。
下手をしたら『消毒』しないとならなかったのだから、その事態を避けられて安心したのだろう、所詮は苦労知らずの小娘どもか・・と老人は内心で嘲りながら席についた。
「では、始めましょうか」
「・・うむ・・どう説明しようかのぅ・・」
「こちらの、とある方の著作についてお聞きしたいのですが、よろしいですね?」
室津麻琴がにこやかに微笑みながら、ローテーブルの上に1冊の古びた書籍を置いた。
書名は『魔法乙女獄』。
第二次世界大戦時に従軍したという著者視点での魔法少女についての考察書籍だ。
戦時中、魔法少女達がどういった形で戦禍に身を投じたかが記されていて、貴重な資料のひとつだった。
戦後、高度経済成長期に少部数だけ、ひっそりと自費出版された書籍だった。
今回は、国立国会図書館に収蔵されていた蔵書の中から、特例中の特例として許可を得て、秘密裏に持ち出されていた。
「・・・よく見つけたものだな・・」
古びた本を見る老人の細められた目は、当時を思い出してか苦い色が混じっているように見えた。
■【 】■
現在では、『魔法少女』と呼ばれる女性達は憧れの的であり敬意を向けられ敬われる存在である。
しかし、彼女達の歴史に影がさした時代もまた多いのだ。
今回、自分は、その影と呼ぶのも烏滸がましい闇の一節に触れようと思う。
しかし、前もって謝罪せねばならない。
当時の記録の大部分は大戦末期に大本営の命令や仕官個人の身勝手極まりない判断により、破棄されてしまっている。
その為、部隊名や仕官名、艦隊名などは虫食いの歯抜け状態となってしまうのである。
自分の残る生涯を賭して少しでも多くの破却された記録を掘り起こすことを此処に誓うことを以て、御容赦頂きたい。
今著は、自分が掘り起こせた事実と、関係者への取材から得られた聞き取り情報からのことである、と前もって断りを入れさせて頂きたい。
では始めようか・・。
そう、それは第二次世界大戦の頃・・。
■【 】■
『龍光公主』という魔法使いの乙女が居た。
その乙女は、母方を数代遡ると中華系に行き着く。
しかし、父親はそれを恥じた。
栄えある大日本帝国の臣民である自身の伴侶が属国の血を僅かであっても残している、ということを。
伊馬元カヨ。
それが彼女、龍光公主の実の名だ。
大日本帝国の大勝利の暁に、父親の決めた婚約者と祝言を挙げる予定となっていた。
治安維持法、と呼ばれる法があった。
しかし、歴史書から塗り潰され、記載紙事態が破却された項目というモノが在ったのだ。
魔法乙女国家忠誠法。
『此の國に住まう魔法乙女達は、栄えある帝国臣民であり、陛下に仕え献身せねばならない』という冒頭部から始まる、その法律は、『魔法を使う乙女達』を国家が適切に管理し、『その身命は陛下に捧げられるべし』という文で終わる法律であった。
その法律により従軍する魔法乙女も少なからず存在したが、ほとんどは己が大切な者を護る為に従軍したのだ。
伊馬元カヨも、大切な家族を護る為に従軍した。
華々しく送られる男達と違い、身を隠す様にひっそりと出兵していったのだが。
■
旗艦の戦艦の周囲の巡洋艦や駆逐艦が次々と轟沈し、海面下へと消えていく。
絶望的な戦況に、有能な艦長が降伏し停船した船舶も存在したが、旗艦からの砲撃により撃沈されてしまう。
天皇陛下の尖兵として身命を賭して最後まで粉骨砕身して玉砕し、英霊の一柱とならん。
鬼畜米英の虜囚となる恥辱を防ぎ、英霊として誇らしい死を与えん。
愚か。
ただ、ただただ、ただただただ、愚かの一言に尽きる愚行。
そんな狂信の愚行は、旗艦内の医務室にて眠る一人の魔法乙女にも向けられた。
力の限り戦い、魔力切れで昏倒していた龍光公主のもとに、艦長の命を受けた兵士が訪れ、その頭を撃ち抜いた。
女子が辱めを受けるのを未然に防ぐ為に介錯せよ、と命令されていた その兵士は、一切の迷いなく彼女の頭を撃ち抜いたのだ。
艦長が実のところ考えていたのは、魔法乙女が敵の手に落ち、敵の傀儡として こちらに矛先を向けるのを防ぐ為に始末せねば、でしかなかったのだが。
■
その様子を、日本海軍と戦っていたアメリカ海軍の空母上の兵達や、上空を旋回するアメリカ軍機のパイロット達が目撃した。
「グオォオオオーーーーッ!!!!」
戦艦の艦橋が突如として大爆発を起こし、木っ端微塵になる。
艦橋のあった場所に、全身から燃え盛る業火の如き膨大な魔力を噴き出しながら、巨大な狼のような存在が姿を現した。
その全身から噴き出した魔力に触れた艦上の兵士の身体が燃えだす。
叩こうが転がろうが消えぬ炎を消す為に海面に飛び込むが、海水に触れても消えはしない。
戦艦の周囲の海面は、そういった兵士達でいっぱいになっていく。
海面で消えぬ業火に身を焼かれながら息絶える者も居れば、溺れて沈んでゆく者も居た。
それらの身体は一様に、燃え続けながら深海の闇に飲まれてゆく。
艦上の兵士達は海面下に消えていったが、戦艦もただでは済まなかった。
巨大な狼のような存在が暴れ狂い、見る間に破壊してゆくのだ。
時折、魔力を込めた砲撃が船体を撃ち抜き、戦艦は見る間に崩壊してゆく。
戦艦を破壊し、乗員を焼き、喰い千切り、引き裂き、踏み潰した。
その巨体は暴威を振り撒き、戦艦上にこの世の地獄を具現化させていた。
しかし、その巨大な暴威は悲壮な哭き声をあげ、その目からは滂沱の涙が零れ落ち続けていた。
伊馬元カヨが物心ついた頃から共に在った、ニホンオオカミ型精霊のギルルは、己の判断を悔やんでいた。
どれだけ悔やもうとも足りず、ただただ、己が許せなかった。
カヨに水を飲ませてやろうと目を離した僅かな時間、戻ったギルルが目にしたのは、撃ち抜かれ大穴の空いた頭から血を滴らせ事切れたカヨの姿だった。
自身の存在の全てを棄てて報復を。
裏切られ命を踏み躙られたカヨの尊厳を取り戻す為に。
ただただ、ギルルは暴れた。
自身を構成する魔力を使い切る前に、見つけた人間を噛み砕き、その命を変換して力に換えた。
その全ては報復の為に。
いや、違う。
幼き頃から共に在った清らかな心根の娘を、己は愛していたのだ。
その想いはどこへ向かえば良いのか。
どこへ辿り着けば良いのか。
人間と精霊、交わることのないが故の深い想いと愛情は、もはや彼女には届きはしない。
この苦しみを抱えて永らえることなど、出来るわけが無い。
耐えられる訳も無い。
だからこそ、報復と己を騙し、己の全てを燃やし尽くすのだ。
離れた場所から傍観していたアメリカ海軍の艦艇上にも、アメリカ海軍所属の魔法少女が居た。
目に見える先の戦艦を沈める、暴走した精霊の身を裂く様な、全てを怨嗟する悲鳴は聞いていられない。
いや、聞くのも辛く耐えられないほどだ。
戦艦の崩壊と合わせるかのように、暴走する精霊の巨体も崩壊しだしていた。
その崩壊で周囲に濃密な魔力が吹き出し、アメリカ海軍所属の魔法少女達や精霊達を哀しみが包んでいっていた。
そして、戦艦は爆散して消えた。
爆散し海面下へと没していく戦艦の残骸や兵士達の骸の中、一人の若き乙女も、海底の光ささぬ漆黒の闇に向けて沈降していっていた。
その乙女は頭を撃ち抜かれ、魂の失われ生気の失せた顔色をしていたが、冷たい海水により更に白く白くなってゆく。
贅沢の規制される時勢であっても、わずかばかりの白粉を塗っていた時よりも遥かに白く儚げに美しく見えたのは、何と皮肉で、残酷なことであっただろうか・・。
《カヨ・・》
沈降してゆく小さな身体に寄り添う様に、崩壊を続ける巨体が愛おしげに見やる。
《カヨ・・・》
海底に着底したカヨの遺体を護り寄り添う様に、巨大な狼の様な姿の精霊が身を寄せる。
《カヨ・・君と共に、永遠に在らんことを・・吾輩は誓う・・・》
■【 】■
かの大戦に於いて若き命を散らした魔法使いの乙女達は多く、数知れず・・。
殉じた精霊の数もまた多い。
死して英霊の一柱に、など戯言。
ただ人柱に供されただけのこと・・。
何の責任も取らずに逃げおおすつもりの者達も数知れず。
しかし、その多くは消息不明となり、身柄を確保できた者のほぼ全ては気が触れていた。
そして、一年と経たず、その身を生きながらに腐らせ、苦しみ悶えながら絶命していった。
命を散らす若き命を護り切れなかったことを悔やみ、
「政なぞに関わるのではなかった」、と一言だけ記された文を残し、
現人神の一柱、いづね大明神は徳川の治世の半ばから身を置いてきた歴史の表舞台から消えていかれた。
あの戦争期から半世紀以上が経ち、いづね大明神は、かつて天皇陛下のおられる地であった京都の地を守護なされているそうだ。
数年前、死期を悟った自分は、かのいづね大明神の御前に拝謁を賜りに伺ったのだが、お会い頂くことは叶わなかった。
遠目に、童の御姿で怪異を調伏する御姿を拝見させて頂いたが、冥土の土産にしても過分なものであったと思う。
年甲斐もなく劣情を抱いてしまうなど、なんと畏れ多いことか・・。
■【 】■
■【 】■
かの大戦時、『えたぁなるりりぃ』なる、当世に於いて他に比ぶるる者の無き大魔法使いの乙女は、市井を懸命に生きる民草を護ることに奮闘したという。
しかし、魔法使いの乙女達を護る者は存在せず、その多くが華を散らしていったのである。
若き華を散らし、彼女達は何を残せたのであろうか。
彼女達は、何を残せなかったのであろうか。
彼女達の冥福を祈らせて頂きたい。
今回の取材は、この辺りで幕とさせて頂けないだろうか・・。
■【 】■
取材対象、■■ ■■。
本人希望により、記録の閲覧可能部分に個人名は不記載とする。
なお、数年後に他国のクラッカーがサーバーに侵入したことにより記録は露呈されるものとする。
■
「本日は、聞き取り調査へのご協力、感謝いたします」
「・・かまわん。それに、自分と貴女方は今日会っていない。そうでしょう?」
「そうでしたね。・・お見送りは不要でしょうか?」
「不要じゃ。電車で行き来するのがリハビリにも良いのでな」
「そうなんですか」
「うむ。近頃の若者達はリハビリに協力的なのか、座るより立ったままでいろという様子じゃからな・・」
「それはそれは・・」
雑談を交わした後、杖をつく老人は部屋から出て行った。
「麻琴」
「ぇぇ、そうね」
老人が語っている途中、第二次世界大戦中の辺りから、室津麻琴以外の2人は静かになっていた。
饒舌に過去の悲劇に酔うように語っていた老人は、無感情ながら敵意と怒りと殺意の籠もる視線を向ける2人の少女に気付いてもいなかった。
「・・戦時国際法違反、無辜の協力者の殺害容疑にて、略式ながら、判決を下します。・・・判決は死刑、被告を銃殺刑に処します」
「イエス。刑を執行します」
ドゥー少佐が足音とドアの開閉音を消しながら部屋を出て行く。
少しして、静かな廊下に、サイレンサーの付いた銃の発砲音が3発分響いた。
先程、室津麻琴は「判決」と口にしたが、話し始める前に名乗った時点で、いまの結末は既に決まっていた。
容疑の確証を得る為に対象のことなど調べ尽くしていたので、名乗られるまでも無い。
自身が名乗ったのは、所謂『冥土の土産に』というヤツだ。
長々と戦犯の老害の戯言を聞いたのも、供述調書を録ったに過ぎない。
「・・・麻琴、彼は自宅に帰り着けるでしょうか」
「大型ダンプに轢き逃げされてグズグズの轢死体になってしまうだなんて、自業自得とはいえ、少し哀れね。笑いが堪えられそうにないわね・・」
「・・・冥福を祈るべきでしょうか?」
「・・会ったことも無い戦犯に対して、貴女が心を砕くことはないわ、フィール」
「・・そうでした。私たちは会ってないんでしたね」
「ぇぇ。さ、行きましょうか・・今日の夕方の予定は何だったかしら・・?」
「料理教室です。たしか・・和風洋食だった・・かと」
部屋から出た2人が歩いて行くが、すれ違う者は居ない。
いやに静まり返った建物だった。
通路にあったトイレで、フィールは老人と握手した手を念入りに洗ってから出た。
建物から出たフィールと室津麻琴が車に乗り込む。
「・・フィール」
「はい」
「読めた?」
「はい。心の奥底に隠し込んでいましたが、戦艦の轟沈した大まかな場所は特定できそうです。彼の見た夜間の星の位置や艦上から見えた近くの島の影、救助に来た駆逐艦が近場の基地に寄港するまでの海路、経過時間などは把握できました」
「上出来よ♪」
「・・ありがとうございます ///」
「これでまた、大戦時期に消息不明になった魔法少女と精霊が救えるわ・・」
「・・」
「きっと、まだ轟沈地点の海底に、精霊は留まったままのハズだわ・・魔法少女の亡骸を護りながらね・・」
「・・きっと」
「あとは、精霊を説得して、魔法少女の亡骸を引き揚げ、感応能力の高い魔法少女と精霊に魔法少女の魂を目覚めさせてもらえば・・」
「・・・今回も成功すると良いですね・・」
「ぇぇ。成功させてみせるわ・・!」
それは、世界的規模で秘密裏に進められている救出計画であった。
『魔法少女は、魔法少女のままであるならば、真の死を迎えることは無い』
その大前提の元、魔法少女と協力した一部機関が進めているのだ。
非業の死を遂げた魔法少女には、精霊が寄り添うように共に留まっていることが多かった。
何らかの理由によってか精霊は姿を消している場合も、精霊が残した結界は残留していた。
あとは、魔法少女や精霊に感知してもらえれば、対象の魔法少女の遺骸が発見出来た。
ただ・・『死』という概念を覆すのは難しい。
真の意味では死んでいなくとも、魔法少女本人が「自分は死んだ」と強く認識していると、目覚めない確率が高かった。
救出計画が発動して10年ちょっとだが、現時点で蘇生を果たした魔法少女は20%弱。
だが、蘇生した魔法少女の中に、当時『聖女』と呼ばれていた者がいて、計画を率先して導いていた。
まさか魔法少女だったとは驚愕の事実だった訳だが、『オルレアンの乙女』と呼ばれた彼女の求心力とカリスマ性と慈愛は、逸話もかくやというモノだった。
今回確認された事実により、また1人の魔法少女が救われるかもしれない。
少しして、1人の少女が慌ただしく車に乗り込んできた。
「ドゥー少佐、誰にも見られなかった?」
「イエス。死骸は処理班に引き渡しました。痕跡も一切残していません」
「・・・ドゥー少佐。害虫を駆除して清掃業者にお掃除をお願いしたのよ。良いかしら?」
「・・イエス。追加学習しました。日本語は難しい・・」
「これからフィールと料理教室なんだけど、貴女はどうする?」
「イエス。可能であれば、近くで待たせて頂きたい」
「良かったら参加する?」
「・・・イエス。可能なのですか?」
「ええ、もちろん♪」
「イエス。感謝します」
「フィール、夕食のリクエストはあるかしら?」
「いえ、特には・・メアリー、貴女はリクエストはありますか?」
「・・・イエス。良いのですか」
「もちろんよ、メアリー。貴女だけなら、フィールと2人で歓迎するわ」
「・・・イエス。メンテナンス前でしたら」
「分かったわ」
「・・イエス。感謝します」
「メアリー、リクエストはどうしますか?」
「・・イエス。・・スシ・テンプーラ・フジヤーマ・ゲイーシャというモノをリクエストします」
車内が少しばかり静まり返った。
「・・それ、誰に聞いたのかしら」
「イエス。エリィ・マイヤー大尉が口にしていました」
「・・ぁぁ、彼女・・まったく・・」
運転しながら、麻琴が苦虫を噛み潰したような顔をした。
「とりあえず、料理教室前に、お寿司と天ぷらが食べられそうな店を予約しておきましょうか」
「麻琴、私とメアリーが富士山の見える高度まで連れて飛びましょうか?」
「・・遠慮しておくわ。この歳で漏らしたくなんてないし」
「・・・ゲイーシャというモノは食べられないのでしょうか」
「芸者ね。ダンサーとかシンガーみたいな女性のことよ。食べられないわよ」
「・・・ノゥ・・マイガッ・・」
都内を走る車の車内は、和やかな空気に満ちていた。
フィー『ル』は本編にも少し出ています。
ドゥー少佐『達』は本編の闇の部分に当たるので、『1st』ではチラチラ出る程度となります。




