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魔法少女 ノーブル・リリィ 短編集  作者: 散桜


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12/16

『時をかける魔法少女』


「あーーっ!!やっと来たーっ!!」


小学校高学年ほどの容姿の少女が、ひと(きわ)高い声で やって来た女性を指差して叫ぶ。


指差されたその女性は、浮世離れした妖艶な美貌をしていて、とても人目を惹きつけるのだが、更に人目を引く特徴を備えていた。

頭上にキツネの耳が付き、腰辺りからキツネの尻尾が生えているのだ。

さらに今は、なぜか、片手で女性を引きずっていた。


引きずられる女性は、首を後ろから鷲掴みにされていて、両腕と腰辺りから下が地面に擦れて悲惨な有り様になっていた。

ただ、血塗れとかではなく、酷い土汚れと、引きずられた際に破けたのか、身に着けている巫女装束の引きずられた部分がほとんど残っていなかった。

凹凸の関係でか、くびれたウエスト回りの部分は残っているのだが、絶妙な曲線を描くヒップ回りは下着まで出ていて、その下着も接地面の前側はほぼ残っていない有り様だ。

どんな場所をどれだけの時間引きずられたら、そこまでになるのやら・・。

しかし、衣類はズタズタのボロ切れ以下に成り果てているのに、その下に見える柔肌はかすり傷ひとつ負っていなかった。


見た感じ悲惨極まりない状態になっている女性はといえば、『面倒くさい』『眠い』『どうでもいい』といった感情を混ぜこぜにした様な表情で居た。

居眠り寸前の気の抜けた表情が近いだろうか。


そんな彼女は、見た目通りの年頃だとしたら、思春期を終えるくらいの頃合いの年齢に見えた。

子供ではないが大人でもない、儚げな魅力をたたえた女性だった。

普通にしていれば、間違いなく『美少女』と言える容姿に違いないだろう。

なのに、現状が全てを台無しにしていた。


傍目から見れば、酷い拷問にでもかけられているかの様にしか見えないのに、そんな状態の当人が『我関せず』なのだから・・もう何と言ったものやら・・だった。



「すまぬな。此奴(こやつ)が中々来ようとせなんでな・・」

「む〜〜・・!」

「今回ばかりは此奴の莫大な魔力が無ければ如何(いかん)ともし(がた)いからのぅ。首根っこ掴んで引きずってきたのじゃよ」

「ホントに首掴んできちゃダメでしょっ!?ボロボロじゃないっ!!こんちゃん、ダメでしょーっ!?」


こんちゃんと呼ばれた女性がボロ切れ服状態の女性を見下ろす。


「・・ぅむ。まぁ、言われてみれば・・ちと、やり過ぎたかの?」

「ちと、じゃないでしょっ!!!」


少女が、キツネ耳とキツネ尻尾の女性を睨む。

腕をブンブンと振り、片足はダンダンと地面を踏みつける。

いや、ドゴン!!バガン!!ゴドン!!と物騒極まりない音を立ててヒビ割れたり陥没したりしている。

なのに、少女の細い脚は無傷だ。

大の大人の手なら簡単に掴めそうなほどに細く華奢な脚で、大地震で変わり果てたかの様な地面状態を引き起こしたとは とても思えない脚だった。

それほどの負荷が加えられたハズなのに、肉がえぐれたり骨が飛び出たりなどしていないのもまた不自然極まり無かった。

とても、小学生くらいの女の子の脚力には見えない。


ブンブンと振る手によって空間が切り裂かれていたり、全身から膨大な魔力が噴き出していたり、そういった異変も無視できないが・・それらをツッコめる者は、この場には居なかった。



「もぉーっ!!!みんなっ!ゆずちゃん綺麗にしてあげてっ!!」

「・・・かしこまりました、おとわ様。いづね様、御前(ごぜん)を失礼致します」


少女から少し離れた場所に控えていた神職装束の男性がうやうやしく頭を下げ、後方に向けて頷く。


その合図を待っていたかのように『おとわ様』の氏子のお年寄りの女性が8人寄ってきて、『いづね様』に恭しく最敬礼してから、ゆずちゃんと呼ばれた『おゆず様』をそっと車椅子に乗せて運んで行った。



足下にバキバキに無数の亀裂を走らせた『おとわ様』が土埃まみれ気味なのを、氏子達が甲斐甲斐しくお世話して綺麗に整えていく。

されるがままになっている『おとわ様』を見ていたキツネ耳の女性が、なにげなくつぶやく。


「ふむ・・そうやっておると、ほんに幼子のようじゃな・・」

「幼子じゃないもんっ!あと何年かしたら30だもんっ!」


幼い容姿の少女がぷりぷりと怒るが、対するキツネ耳の女性は孫娘を見る様に慈愛に満ちた目を向けるだけだった。


「のう、おとわの」

「なに?」

「今日の服、よう似合っておるよ」

「ほんとっ?」

「うむ、ほんとじゃとも」

「やったー♪」

「・・()いのぅ」


のばした手を頭にそっと置き、優しく撫でた。


その手を見上げるように見た少女が、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「えへへへ〜♪」



『おとわ様』の氏子のお年寄りの女性が車椅子を押して戻って来ると、車椅子を残して、恭しく頭を下げてから離れてゆく。

車椅子には、身綺麗に整えられた『おゆず様』が座らされていた。

『おとわ様』の着替えならストックはあれ、『おゆず様』にサイズなどが合うハズもなく、誰かが用意したのであろう浴衣が着せられていた。

引きずられて連行されてきた当初とは別人の様に綺麗にされていたが、相変わらず気力の尽き果てた様な様子なので、今にも車椅子から滑り落ちそうだった。

すでに浴衣がはだけだしそうだ。

グデンと脱力して開脚してしまうのを防止する為か、膝下辺りで手拭いの様な布が巻きつけられていた。




「では()くぞ」


キツネ耳にキツネ尻尾の女性が、2人に確認する。

『おとわ様』はやる気に満ちた笑みで力強く頷き返し、『おゆず様』は気怠げに上げた片腕をおざなりに振った。


「目指すは聖地『Octopus pot』、その原初の時へ」


キツネ耳の女性が軽く(かかと)を鳴らすと、足下の地面から光の粒子が湧き出す様に溢れてくる。

その光の粒子が集まり、精緻で緻密な魔法陣を描いてゆく。

魔法陣には、目を凝らしてもギリギリ見えるかどうかくらいの小ささで術式が記述されている。


そして、そんな信じ難いくらいの魔法陣が次々と現れる。

幾重にも展開された術式が3人を取り囲み、更に更に、更に更にと、増して積層してゆく。


「帰還は、出来たらするということで」

「えぇっ!?」


『おとわ様』が取り乱す。

聞いてないよ!とばかりの顔でキツネ耳の女性を見る。


()達なら数千年くらい問題あるまい」

「あるよ!!来月、小学校の同級生の結婚式なんだからっ!数千年待ったら御祝いがおざなりになっちゃいそうじゃんっ!!それに、自分に会ってタイムポラゾックスとかいうの起きたらどうするのっ!?」

「・・タイムパラドックスじゃろ。・・ふむ、祝言(しゅうげん)か・・。では、数分後くらいに帰還、で()いか?」

「異議なーーーしっ!!」


『おとわ様』が元気いっぱいに腕を振り上げた。

元気いっぱいの幼女から気力皆無の少女に視線を移したキツネ耳の女性が尋ねる。


「蛇よ、使う魔力が倍、いや三倍以上になるが構わぬな?」

「・・・」


『おゆず様』が「心底どうでもいい」といった様子で数回、首肯する。


「えっ!?こんちゃん、こんちゃんの魔力使わないのっ!?」

()は微調整に専念じゃな。なんせ、地球を何周かした先の針穴に糸を通してから精緻な刺繍をするくらいの精密操作が必要なんじゃぞ?この有様の此奴(こやつ)や、(ぬし)に出来るか?」

「・・・できない・・・まだ」


悔しそうな顔で俯く『おとわ様』を見て、キツネ耳の女性は優しい微笑みを浮かべた。


「ほんに()い娘よのぅ・・そうじゃな・・いつかは出来る、じゃが今はまだ無理じゃ。じゃから、()に任せてくれるな?」

「・・ぅん」


顔を俯かせたまま小さく頷く『おとわ様』の庇護欲をこれでもかと刺激する様子に、キツネ耳の女性のキツネ尻尾がブンブンと振られる。

その口許は先程までと違う感じに、少しばかりニヤけて見えた。

庇護欲求も、刺激され過ぎると危うい方向に向いてしまうのかもしれない・・。



無数に積層された時空間転移術式の魔法陣の輝きに照らされた3人の女性達は、三者三様の様相だ。


キツネ耳とキツネの尻尾の女性は、キツネの化生であり、神性を宿した『神』の一柱でもあった。

そして、魔法少女『デイドリーム・リリィ』として活躍してもいた。

その名は、いづね こん。

精霊達から『いづね様』と畏怖される存在でもある。

生まれは永享(えいきょう)十年の春頃。

共に産まれた兄弟姉妹キツネや父母キツネは、とうの昔に輪廻の輪に還っている。

彼女だけが、悠久の時の中に残されていた。



どう見ても小学生以外には見えない幼い容姿の少女は、ついウッカリ神性を宿すハメになったばかりに『神』の一柱に列席することになった、当時は普通の魔法少女の1人でしかなかった、正真正銘、元人間の少女であった。


ただ、『神』に転化して十数年、当時の同級生の子供に見た目が追い抜かれかねない。

ちなみに、彼女の2歳下の弟はすでに子持ちだ。


そんな彼女、盛乃衣(ものえ)未来(みき)は、魔法少女『インキュベーション・リリィ』であり、一柱の神『おとわ様』でもある、神性同化体の魔法少女という珍しい存在だ。

少しばかりズルをして魔法少女活動を行なっている いづねこんと違い、正真正銘、『神』に見初められし自然発生の魔法少女だ。

精霊達も、彼女に対しては畏怖しつつも親愛のにじむ接し方をする。



そして・・。

『おゆず様』と呼ばれていた女性、蛇穴(さらぎ)柚子(ゆず)は、魔法少女『ウィズダム・リリィ』でもあり、智慧の蛇とも呼ばれる『(へび)(がみ)』でもあった。


いづねこんも(ふる)い『神』ではあるが、彼・彼女から見れば、生まれいでたばかりといってもいいくらいの若輩者でしかない。

その『力』も桁外れで、彼・彼女の気分次第で太陽系圏内くらいなら数秒でチリしか残らない真空空間に変えられるほどの力を有しているが、「そういう気分でもない」から、やらない。

その見た目がうら若き乙女なのだって、1000年以上前に人柱として彼・彼女に捧げられ命を散らした巫女『ゆず』の屍体を依り代として使っているからにすぎないのだから。


こちらの彼・彼女が魔法少女活動をしているのは、いづねこんの勧めによりだった。

普通の魔法少女達と違い、自前で『力』を得ていたが。

ただ、人助けも『黒』討滅も行なってはいない。

彼・彼女に魔法少女になるコトを勧めた いづねこんにとっては、彼・彼女を『魔法少女』という概念で縛る為の方法でしかなかった。

ただ、縛り切れてなどいないし、ほぼ無意味ではあったが・・気休め程度か気のせい程度の意味はかろうじて有るだろうか・・。


ちなみに、彼・彼女に触れてしまうと魔力が瞬時に喰らい尽くされて取り込まれてしまう危険がある為、精霊達は彼・彼女に決して触れようとはしない。




「行ってきまーーーす♪」


見る者を自然と微笑ましてしまうような『おとわ様』の挨拶に合わせる様に、三柱の現人神は姿を消した。



「数分後に帰還」と聞こえていた『おとわ様』の氏子達は その場に待機していたが、数分経とうが数十分経とうが、数時間経とうが三柱は帰還しなかった。

翌日に『おゆず様』の氏子から問い合わせがあり、翌々日に『いづね様』の本拠地でもある伏見稲荷大社から「あのー・・こちらの神様がいらしているハズなのですが・・」と遠慮気味に問い合わせがあった。

ただ、電話やメールなどでなく、氏子だという巫女が3人、直に訪れての問い合わせだったが。


結局、三柱が時間遡行の旅から帰還したのは、出発してから8日目のことだった。

『おとわ様』の本拠地には、『おゆず様』と『いづね様』の氏子や関係者だけでなく、『逢庭(あいば)』の使いの者達や政府関係者まで集結という大事(おおごと)になっていた。


この時のことがあり、『いづね様』『おゆず様』『おとわ様』の氏子と関係者の連絡網が完備されることになる。


その連絡網は、少し遠い未来、地球の環境悪化が取り返しのつかない状況に至り、開発が進んだ月や太陽系圏内近くの居住可能な星への人類移民が進むまでの間、維持されたのだった。




ちなみに、いづねこんが『土産』として持ち帰った『獲れたての動物 数種類』と『収穫したての様々な果実』が、とうの昔に絶滅した動植物だったと判明して大騒動になるのだが・・三柱にはどうでも構わない雑事でしかなかったとか何とか。

『おとわ様』は『3rd』、『おゆず様』は『4th』。

『連絡網』が効力をほぼ無くすのは『4th』。

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