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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
2章 ユナ、お前は――誰だ?

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8 私の大賢者はやっぱり偉そう

「ここは……?」


 カフカは、自分を抱き抱えていたユナの腕から離れると、当たりを見回した。

 薄暗い部屋には、うっすら埃が積もっている。

 しばらく部屋の主がいなかったのか、部屋はしんとした静けさに包まれていた。


「俺が、昔使ってた拠点……だ……悪い、カフカ。少し寝る……部屋から出るな……よ」


 ここまでユナは認識阻害魔法をかけながら、カフカを抱えて長距離を転移魔法で移動してきた。

 さすがに大賢者を名乗る彼でも堪えたのか、必死に眉間を揉んでいる。


 ユナは勝手知ったるといった様子で、窓際のベッドにバタリと倒れ込む。

 数秒して、規則正しい寝息が聞こえてきた。


「……魔力切れか」


 カフカは、ここまで自分を守り続けてきた彼の額を、労うように撫でた。

 さらりと黒髪をかき分ければ、目元に疲れたようなクマが見える。


 そっと、彼のすぐ横に腰を下ろす。

 眉間に皺を寄せながら眠る彼の顔をじっと見た。


 ……ユナは、こんなに大人びた顔をしていたか?

 頬の丸みはなりを潜め、通った鼻筋の先にある眼窩は深く窪んでいる。

 もう、彼を見て子供だとは形容できない。


 いくら人間に詳しくないカフカでも違和感がある。ユナは明らかにこの数日間で、成長している。

 思えば、いきなり背が伸びたように感じた時からおかしかったのだ。


 先日話した時、彼は確か——

『確か——この体は12歳かな』


 そう言っていた。

 まるで体と自分の年齢が違う、とでも言うように。 


「ユナ……本当は何者なのだ? 何故、私を探しに来た」


 思えば、おかしな事ばかりだ。

 子供の見た目のくせに、まるで長い人生を生きてきたかのようなことを言う。

 子供が入れるはずもないダンジョンのことを知っている口ぶりに……何より彼は、紛れもなく本物の魔道具を持っていた。

 あの魔法だって、仮に0歳から研鑽を積んだにしても12年で使いこなせるレベルを遥かに超えている。


 ——そして、取るに足らない存在であったはずのカフカを、鳥籠から連れ出してくれた。


 カフカは部屋を見渡した。

 どう考えても、幼い子供が生活していた部屋ではない。

 背の高いテーブルと、背の高い椅子がひとつ。

 簡単な自炊ができるであろうキッチン。

 ほとんど中身の入っていないガラス棚。


 その生活感のなさは、例えば大人の男性が一人暮らしをしていたような。


 カフカはベッドから立ち上がろうとして——いきなり腕を掴まれ、ベッドに倒れ込む。


「いくな……そっちに行っちゃだめだ……そっちは——!」


 呻くような声。

 ユナの顔を見れば、彼は悪夢にうなされているのか苦しそうな顔でギュッと目を瞑っていた。


「……寝言か」


 カフカは、大人しく腕を掴まれたまま彼の懐に潜り込む。そうして、抱きしめるみたいに反対の腕を回して、背中をさすってやる。


「心配ないのだ。……私はどこにも行かない」


 カフカには帰る場所なんてない。

 それに、もしどこかに行けるのならユナの隣がいい。


 そうして背中を撫でてやるうちに、いつしかカフカも意識を手放していた。



***



「起きたか?」


 ユナの声がして目を擦る。

 気付けばベッドは、カフカひとりが占領していた。


 キッチンに立っていたユナが、マグカップを両手に持ってテーブルへ向かう。

 カフカはベッドから起きると、それが当たり前かのように椅子を引いた。


 座ったカフカの前にマグカップが置かれる。ふわ、と甘い香りが鼻をくすぐった。


「……ポタージュ……!」

「買ってきたやつだから、屋敷のシェフのようには美味くねえかもしんねえけど」


 カフカは首を振った。

 ユナが用意してくれたのだ。いつものように美味しいに決まっている。

 ひとくち飲み込めば、胸が暖かくなる気がした。


 テーブルに片手をついて立つユナを見上げる。見知った顔のはずなのに、やはりなんだか見慣れない。背が伸びたせいだろうか、それともこの部屋のせいか。


「——椅子をもう一脚用意しねえとなあ」


 ユナはそう言うと、マグカップをテーブルに置き、片手を空中にかざした。

 カコン、と軽い音がしたと思えばカフカが座っているのと全く同じ椅子が現れた。


「?!?! ユナ、物体創造はかなりの高位魔法だぞ?!」

「はは、言っただろ。俺は大賢者になる男だって。大賢者に使えない魔法はねえよ」


 ユナはそう笑って、椅子に腰掛けると足を組む。

 子供の時から椅子に雑に座る少年だったが、大人の姿だと、それでも様になるものなのだな。


 カフカはテーブルに身を乗り出して、ユナに手を伸ばす。ユナは、当たり前のようにカフカの手を取った。かつてほとんど大きさに差がなかったはずの手なのに、今はカフカの手がすっぽり包まれてしまう。


「ユナ。お前は——誰だ?」


 カフカがそう問えば、ユナは眩しいものを見るように目を細めた。彼は子供の時から、たまにこの顔をする。


「あんたを助けるためにきた、大賢者だ。


 ——俺はずっと、あんたを探してた」

本日も、お読みいただきありがとうございます!


お気に入りのエピソードがありましたら、気軽にリアクション、感想頂けると嬉しいです。


一体、ユナは何者なのか?

カフカと一緒に、ドキドキして貰えたら……!


今日はこの後20:30と21:00に2話続けて投稿します!

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