7 離縁したら指名手配されたのだ
ユナの魔法が解かれると、公爵は支えを失って数メートル勢いよく落下した。
ドサッと重たい音がして、足を挫いたらしい公爵が呻いている。
「じゃ、ちゃんと離縁証明を提出してくれよ」
ユナは軽くそう言って、カフカの肩を抱く。2人は風にさらわれるようにふっと掻き消えた。
***
2人は早々に公爵領を出て、大都市に向かう乗合馬車に潜り込んでいた。
だが大都市に向かうというのに、この馬車はユナとカフカ以外の乗客がいない。
「それにしても、王宮騎士団の幻影を見せるなんて、よく思いついたな」
「頭を覗いたら、あの人間は火より騎士団の裁きが怖いと言ってたのだ。それより、ユナが持っていた紙はなんだ?」
「ああ、アレ? ただの白い紙だよ」
ユナは、懐から真っ白な紙の束を取り出した。
「ただの紙が怖いなんて、一体公爵は何に見えたんだろうなあ?」
ユナは魔族よりも魔族らしい顔で笑う。
カフカには、不義密通だとか横領だとか、人間の難しいことは分からない。
ただ分かるのは、あの時ユナが公爵にかけた直接的な魔法は、空中に磔にする魔法だけということ。
ユナが出した槍の大群も、カフカが出した王宮騎士団も全部、ハッタリの脅しでしかない。
「言っただろ、賢王の戦い方を教えてやるって。
——直接攻撃するだけが、戦いじゃない」
ユナは、いつもみたいに強気に不遜に笑う。
もう、精神魔法は遮断されて彼の気持ちを読むことはできなかった。
それでも。カフカは、ユナが自分のために怒ってくれたことを覚えている。
***
「それで、グランダ公爵。そのままみすみす魔族の娘を取り逃したのかね」
グランダ公爵はギプスをはめた足を引きずりながら、ガロリア国王の前で頭を下げた。
「も、もも申し訳ございません。ですが陛下! あれは恐ろしい女です……! とてもとても私の手におえるようなものでは……」
公爵は、あの日のことを思い出して身震いした。
——あの日、2人が虚空に消えた後。
断罪を覚悟して、足の痛みに震えていたが待てど暮らせど、王宮騎士団は現れなかった。
だが、ズキズキと痛む足がこれを現実だと告げていた。
思い返しても、不気味に微笑むカフカが、自分が結婚したカフカと同一人物とは信じられなかった。
私は、今まであの化け物を虐げてきたのか——?
きっと、今までの仕打ちを恨んで今にも私を殺しにやってくるに違いない。
「——所でグランダ公爵。とある筋からの密告だが……お主、王家を謀ったな?」
「な、なななんのことだか……!!」
「ほざくな、見苦しい」
そうして国王は懐から書類の束を取り出し、公爵に叩きつけた。
パラパラと紙が舞い落ち、書類の内容が公爵の目に飛び込んできた。
カフカのため王家から与えられた予算の使用明細。
余った分を公爵が不倫相手の令嬢につぎ込んでいる使用明細。
そして、公爵家でのカフカの扱いを事細かに記した調書。
——そのどれもに書かれていた名前は、カフカ筆頭従者ユナ。使用明細に至っては公爵家の執事のサインもある。
くそ、あの男……! 執事まで買収したのか!!
「残念だ、グランダ公爵。君の愚行のせいで、我が国はダンジョンとのパイプを失った。魔族の娘には、不自由ない暮らしをさせると約束していたと思ったが。思い違いだったかね。
——追って沙汰は下す」
膝から崩れた公爵を、王宮騎士団の2人が引きずっていく。今度は幻影ではなかった。冷たい鎧の感触が、公爵の腹に突き刺さる。
***
「はっ……やりやがった」
馬車を降りたユナが、大都市の門前の検問を見て呟く。街の騒がしさに、早めに馬車をおりて正解だった。
目立つのを避けたくて馬車にかけた認識阻害の魔法も、かろうじて正解を引き当てている。
公爵領を出たことは予想されているだろうが、まだユナとカフカの足取りは気取られていないはず。
「ユナ。あれはなんなのだ?」
カフカが人混みを見て指をさしている。
ユナは、カフカの腰に手を回し抱え上げると、空中に浮かんだ。認識阻害の魔法を念入りにかけてから、検問所に近づいていくと、見覚えのある顔の絵が張り出されているのが見えた。
その紙にはこう書かれていた——
『指名手配 国家転覆罪』ユナ、カフカ
この者を捕らえた物には報奨金を与える。
なお、生死は問わない。
ガロリア国王
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