49 大賢者の戴冠式
その日、リアナ共和国の元に、元ガロリア王国——改め、ソフィア王国からの伝令が届いた。
「……歴史が変わったのね」
リアナ共和国大統領の元には、ダンジョンハンターから『国家元首である魔王が生まれた』との一報が届いている。
そのタイミングでの、ソフィア王国戴冠式への招待状。
「……『ソフィア』は知恵を意味する言葉。あの、ダンジョンから来た大賢者が、ガロリア王国を討ち滅ぼしたという噂——無関係とは思えないわ」
大賢者は、伝令が持ってきた手紙にサインをすると、また封をした。手紙を伝令に返すように秘書に申し付ける。
「出席するから、急いで手紙を届けて、と伝えて頂戴」
***
時を同じくして、北方大帝国にも同じ伝令が走っていた。
「ソフィア王国、か……」
あれから、リアナ共和国を通してダンジョンに魔王が生まれたと聞いた。それは2人なのか、と尋ねたが大統領はそこまでは情報が来ていないと言っていた。
皇帝は、『未来視の大鏡』を呼び出した。
空中に浮かんだ鏡は、今はもう、何も映さずただの鏡のように見える。
「……実現した現実は、未来の鏡に映るはずもないか」
魔王が生まれたという知らせがきて、数日が経つ。それなのに、北方大帝国はダンジョンから一切攻め込まれていない。
いつ戦争が起きても構わないように、できる限り魔術師は徴兵してある。
……残念なのは、唯一の1級魔術師であるユナス・ワーグナーはもう死んでいたことだ。彼は15年ほど前に、魔力の使いすぎで無くなっていたらしい。
魔法の探求者らしい、最期だな。彼が遺した魔法は、これからも北方大帝国の礎となるだろう。
北方大帝国で、彼ほど大賢者に相応しい魔術師は、もう出ないかもしれない。
皇帝は、手紙に参加のサインをした。
「何が起きたのかを、見届けるべきだ。ダンジョンから来た大賢者が、何者なのか。なぜ……大賢者を名乗るのか」
***
その日、ソフィア王国では季節外れの雪が舞った。満開の花吹雪と、雪が混じりあって空を踊る。
その空は、まるで新しい王様の誕生を喜んでいるかのように見えた。
かつて紅と金に彩られていた王宮は、今や優しげな黄緑と白金に一新され、重苦しかった空気は軽やかなものに変わっていた。
天井の高い講堂に、新王の宣誓の言葉が響く。
「偉大なる魔王陛下。私はここに、あなたへの絶対な忠誠と、途切れることのない献身を誓います」
ユナは、ひざまずいて頭を垂れた。胸に手を当て、それからひざまずいたまま、目の前に立つ魔王を見つめる。
彼は、騎士服ではなく魔術師を示す長いローブを着ていた。その色は、ソフィア王国を象徴するような、知的で落ち着いた黄緑。
「その誓い、確かに受け入れた。魔王カフカは、そなたをソフィア王国の王と認め、この冠を授ける」
カフカは、真っ白なドレスを着ていた。厳かな雰囲気を纏う長いトレーンを引きずり、足元にひざまずくユナの頭に、王冠を載せた。
カフカは手を差し出して、ユナを立ち上がらせた。
「この冠の重みを知り、民の良き王とならんことを祈る」
「必ずや、その期待に応えてみせます」
ユナは恭しく手を胸に当てた。
そのまま、ユナとカフカは手を取って講堂を進み、重たい門を開いて外に出る。
講堂の外には、新しい王を一目見ようと大勢の国民が詰めかけていた。
ユナが手を振る。
国民達から、大きな歓声が上がった。
誰とはなしにこんな声が聞こえる。
「あの綺麗な魔王様が、あの『異国のお姫様』だべ?」
「んだ、まるで結婚式みたいだなあ……」
「あのミュージカルは、エンディングを書き換えないといけないんじゃないか」
「確かに! 最後はこのシーンにして欲しいよなあ」
「大賢者様万歳!! 大賢者様あ〜!!」
「馬車の切符……なんで、日付指定なんですかあああ、最後まで見たかったあああ」
最後の声は、前髪がアフロの魔術師2人の声だった。彼らは手に馬車の切符を握りしめている。
王の計らいで、辺境にいる2人にも記念式典に合わせて切符が届いた。
でも、この切符の使用期限は本日限り。馬車は日が落ちると運行しないので、もう王都を立たないと間に合わない。
アフロ前髪の2人は、後ろ髪引かれる思いで講堂を囲う人混みから離れていく。
その時、ユナが魔法を使った。
花吹雪と雪の舞う中を、ユナの手元から飛び立った白い2羽の鳩が踊るように飛んでいく。
鳩は、仲睦まじくダンスするようにじゃれあいながら国民の頭上を飛んで、そして天高く昇った。




