43 それは幸せのかたちだ
「なあ……ごめん、カフカの故郷をぶっ壊しちまって」
ユナが、宰相もろとも吹き飛ばした村は、もはやただの更地だった。
瓦礫の中から、あの時宰相が持っていたアーティファクトの粉々になった破片が出てくる。アーティファクトですらこの有様だ。ただの人間の宰相が、大賢者の本気の魔力に抗えるはずがなかった。
「気にしてないのだ。カフカにとって、空と草原が故郷なのだ。人間みたいに村自体には未練はない」
「そういうもん?」
「そういうものなのだ。でも……」
ユナが魔法で作ってくれた、ピスタチオカラーのソファが……なくなってしまった。
あれに、2人でくっついて座るのが好きだったのに。
「なんだ、ソファなら何度でも作ってやるよ」
「フン、2人で初めて座ったソファはあれだけだったのだ、そっくりでも、なくなったことにかわりはないのだ」
カフカはツンとそっぽを向いて腕を組んだ。横目で見れば、ユナがうなだれているのが見える。
ユナは大賢者でなんでも出来るけど……すぐ調子に乗るし、たまにちょっとデリカシーがない。フン、反省するのだ。
「う、ごめん……」
「でも、何百回も一緒に座ってくれるなら……許してやらないこともないのだ」
「もちろんだ、何百回でも何千回でも一緒に座る」
ユナが真剣に反省しているようなので、カフカはついでに要求を増やすことに決めた。
「ついでに……すごくおっきくて、ふわふわのベッドも欲しい」
「分かった、任せろ」
「あと、赤い屋根の可愛いおうちも」
「任せろ、なんでも作る」
「んーあと……あ。前頼んだお揃いの緑の服も着るのだ。そうしたらもしかしたら、許したくなるかもしれない」
そういった途端、ユナがふふっと笑みを零した。
「む? なんで笑うの——」
ユナが魔法を使う。
魔法の光が消えた時、ユナが着ていたのは、ピスタチオカラーの魔術師らしいデザインのローブだった。細かい白金の糸で織られた刺繍が沢山入っている。
それからユナの胸元には、小鳥の形をした、ペリドットのブローチが光っていた。
「あー!! いつの間に買ったのだ?!」
「ひみつ」
ユナが照れているのがわかった。全く、この男は。
「どう? 許したくなったか?」
「ふ、フン。仕方ないから許してあげるのだ……ねえ、ユナ、私も着替えるのだ。あのピスタチオカラーのドレスを出して欲しい」
ちょうど、『千分岐の砂時計』の未来に行った時に着ていたから、帰ってきて洗濯してユナの収納魔法に預けてしまった。
「カフカ。こっちを着てくれ」
そう言ってユナが取り出したのは、彼が着ているローブとお揃いの白金の刺繍が施された、ケープ付きデザインのピスタチオカラーのドレス。
「ユナ……お揃いなのだ、これ……」
嬉しい。
あの日、2人で『ダンジョン探索』をした時に話した何気ない会話を、ユナは覚えていてくれたのだ。
ユナが魔法を使って、ドレスを着せてくれる。相変わらず、ユナの選ぶドレスは飛べそうなほど軽くて着心地がいい。
その場でくるんと回ると、ドレスの裾がふわっと広がった。
「可愛い。似合ってる」
ユナはそう言って、幸せそうに目を細めた。
それから、綺麗にラッピングされた小さな包みを差し出される。開けてと言われるがまま開ければ、中に入っていたのはブラックダイヤがはめられた、黒い鴉のブローチだった。
ユナの胸元に光る、小鳥のブローチに目が行く。そして、自分の手元の黒い鴉を見た。
それはまるで、カフカとユナみたいな。
「ありがとう……ユナ……大事にするのだ」
「どういたしまして」
それから、ユナはブローチをカフカの襟元に付けた。これも魔法でつけられるのに、ユナはカフカのことはいつも自分の手で喜ばせようとしてくれる。
それがなんだかくすぐったい。
***
その日を境に、魔界にはとある噂が流れた。
緑のドレスを着た弱い魔族が、とんでもなく強い“魔法”を従えて、頭の中をのぞいてくる。
するとなぜか、殺し合いたい気持ちがなくなって、幸せになれるという。
「ふん、下らん。あらかた、幻惑の魔法の類いだろう。真の強者はそんなまやかしになど操られん」
ドラゴンが不満げに鼻を鳴らすと、火の粉が舞った。
彼の体は炎を彷彿とさせる朱色をしている。
魔界において、最も魔王に近いと名高い種族。それが彼らドラゴンだった。




