42 夢を見たのだ
カフカは、真っ暗闇を歩いていた。
探知魔法を使ってみても、何も跳ね返ってこない。どこまでも続く闇だけがそこにあった。
「うう、ここどこなのだ……?」
カフカは、ひとりぼっちだった。
その時、急に闇が晴れた。
薄紫の空が広がり、サラサラと草の擦れる音がする。
それで、カフカにはここがどこなのかわかった。
目の前に小さな家が見える。
その中で、傷だらけの小さな少女がわんわん泣いていた。
白金の長い髪に、尖った耳。零れ落ちるようなペリドットの瞳。
「あれは——子供の時のカフカなのだ」
子供のカフカのまわりには、似た色彩の兄弟たちが震えるように身を寄せあっていた。
「そうだ……カフカ達は、逃げて隠れるしか出来なかった」
目の前の時間が早回しで進んでいく。泣いていた子供のカフカが、ひとりで走り回れるほど成長した時、もう周りに兄弟の姿はなかった。
少女のカフカは、泣くのをやめて諦めたような暗く淀んだ瞳で地面を見つめている。
「……家族は、ほとんどみんな死んでしまったのだ」
たまたま、カフカが逃げるのがすごく上手で、そして運が良かった。この時のカフカには、誰かを助ける力も、自分を守る力もなかった。
ただ、逃げ続けていた。
そして、アイスデーモンに追い回されている時、カフカは道に迷って中深部のかなり浅い所に迷い込んでしまった。
そこを運悪く、ガロリア王国の魔術師に捕まったのだ。
「……それで、人間界に連れていかれた」
暗い目をしたカフカは、煌びやかな重たいドレスを着せられて、煌びやかな公爵家に閉じ込められた。
魔界にいた時のように死ぬ恐怖はなかった。でも、ずっと息苦しかった。
「そうなのだ、それで……ユナに、出会ったのだ」
霧がぱっと晴れるように、カフカの視界にユナが映る。彼はカフカに手を差し出して、眩しそうに笑った。
「あんたを助けるためにきた、大賢者だ。
——俺はずっと、あんたを探してた」
***
「ユナ——!!」
カフカは勢いよく起き上がった。虚空に伸ばした手は、期待通りの人に触れる。
そして、ユナにきつく、きつく抱きすくめられた。
「……カフカ、……カフカ……よかった」
「ユナ……、本当に心配性なのだ。私はどこにも行かないのだ」
だって、カフカは魔族なのだ。
刃物で少し切られたくらいで、死んだりしない。
「……バカ、当たり前だろ。心配するに決まってる」
「……ごめん」
「不安になるから謝んな」
「む……? じゃあ……ありがとう?」
「ふ、それでいいよ」
ユナ、泣いてるのだ?
カフカを抱きしめる彼の声が、震えて鼻声になっている気がした。
なぜだかとても、幸せな気持ちになる。
不謹慎だろうか、彼が泣いてくれるのが嬉しいなんて。カフカが、魔族だから? 人間と、ルールが違うからなのだ?
カフカは、自分を抱きしめるユナの背中をそっと撫でた。カフカをすっぽり被ってしまうくらい大きな背中なのに、なんでか、カフカは彼を守りたいと思った。
「ねえ、ユナ」
「……ん?」
「ユナは昔、『何度でも転生して、その度にカフカを探し出すから、また雇ってくれ』って言ってたのだ」
「……ああ、そんなことも言ったな」
「ねえ、カフカにもその魔法はかけられるのだ? 私も、何度でもユナに会いに行きたい」
「……いや、死んでもらっちゃ困るんだけど」
「もしもの話なのだ、私だって死にたくないのだ! ずっとずっと、未来の話なのだ!」
カフカは、ユナの背中をぽかぽか叩いた。
違うのだ、今すぐの話じゃなくて。カフカが、何度死んでも、帰るのはユナのところがいい。ずっとずっと、一緒がいい。
「未来の話? カフカ、あんた何百年生きるんだよ」
「んーわからないのだ……でも、魔界では2000年生きたら長生きなのだ」
「待って、大賢者の寿命長くて200年なんだけど」
ユナが、顔を上げた。困ったように笑っている。
「でも、ユナは何度でもカフカに雇われに来てくれるって言ったのだ。ユナがまた転生魔法を何回でも使うといいのだ」
フン、と口を尖らせた。ユナを伺うように上目遣いで見上げる。
「……サラッと言うなあ、あれ魔力消費えぐいんだけど」
ユナは困ったように眉を下げている。でも彼は、できないとは言わなかった。それになんとなく嬉しそうにも見える。
カフカは、こっそりと心をのぞいた。
《そんな何千年も俺と一緒がいいのかよ……なんでそんな、俺のこと好きなの》
ふふ、照れてる。
「あっ……カフカ〜?! 今魔法使ったな?!」
「なんのことか分からないのだ〜魔族は息をするだけで魔法を使ってしまうから、仕方ないのだ〜」
「クッソ油断した!!」




