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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
6章 これが恋じゃないなら、なんなのだ?

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39 さよなら、もうひとりのユナ

「カフカ……!」


 降りしきる雨の中、ユナの声がする。カフカが振り向くより先に、後ろから彼に抱きしめられた。


「ユナ……」

「ごめん、ごめんな……」

「私に言っても意味ないのだ……この世界の“お前のカフカ”に謝らなきゃ」

「……ああ、それでも——ごめん」


 ユナの頭が、カフカの肩に乗る。ユナが泣いているのかどうか、カフカにはわからなかった。

 雨が、降り続いていた。

 


「どうして……カフカを手放したのだ……好きじゃ、なかったのか」

「そんな訳ない!!」


 即座に否定される。

 ユナの体が強ばるのがわかった。ユナの声が震える。


「俺は……カフカを愛してるんだ……だから」

「じゃあどうして! どうして自分から他の男にカフカを差し出したのだ?!」


 自分でも信じられないほど、大きな声が出た。くっついたままのユナの体が、ビクついたのが分かった。

 

 

「それしか——“カフカを殺させない”未来が……なかったんだ」

「——?!」


 今、なんて。

 カフカは、突然頭を殴られたような気持ちになる。

 


「俺は……俺が幸せになれる未来より、カフカが死なない未来を、選んだ」



 雨の音が耳の奥で響く。

 ……なんて声をかけたらいいのだろう。


 ユナを好きな気持ちが、カフカの悲しみと怒りを飲み込んでいく。誰かを好きだと思うことが、こんなにも胸が苦しいものだなんて、知らなかった。

 

 

 思えば、未来のユナは初めから全て諦めたような目をしていなかったか?

 私が、この真相に辿り着かないように守ろうとしていたのではないか?

 もう、未来のカフカはユナのそばにはいないのに……カフカ()を守ろうと、して。



「だから言ったろ。選べるなら、この未来に進んじゃダメだ」


 それは、諦めのようにも、助言のようにも聞こえる。

 ユナが、カフカを抱きしめていた腕を離した。



「そろそろ、砂時計の時間が尽きる。


 ——あんたは“幸せに”なってくれ」



 そう言って、とん、と突き放された。

 最後に見る彼の笑顔は、眩しそうに目を細めて笑うユナらしい笑顔で。


 次の瞬間、カフカの体は未来から弾き出された。



「待って、ユナ——!!」


 

 ごめんなさい、私、ユナに酷いことを……

 謝れ、なかった。

 

 歪む意識の中で、カフカは後悔した。



***



「——カフカ!!」


 目が覚めるなり、ユナにきつく抱きしめられた。ぼんやりとした頭で周囲を見回す。


 ——私、帰ってきたんだ。

 そこに広がるのは、少し埃っぽい、一緒に過ごした北方諸国のユナの家。

 見慣れたキッチンと、ガラス棚が視界に入る。


 少し遅れて、カフカの目から涙が零れ落ちた。暖かいユナの体温で、やっと現実を理解したみたいに。


「ユナ……」


 カフカは、抱きしめてくるユナの背中に手を回した。ぎゅっと抱きしめ返す。


 

 ……私は、幸せを間違えたり、しない。



「ねえ、ユナ」

「ん?」


 声をかければ、ユナと目が合う。

 もうそれだけで、息ができなくなりそうだ。私のユナは、目の前にいる。



「……好き。大好き」


 そう口にすれば、もう涙が止まらなくなってしまった。

 子供みたいにしゃくりあげながら、カフカはユナを見つめる。


 

「私は、ユナのことが好きなのだ」



 ねえ、ユナ。いつか言ってたのだ。

 恋も知らないお子様のくせに、って。


 ——私はもう、子供じゃないのだ。

 私はこれが恋なんだと、もう知っている。

 

 

「カフカ……」


 

 ユナが、驚いたように目を開いた。それから、まるで眩しいものを見るみたいに目を細めた。

 

 今ならわかる。大好きだから、眩しいのだ。


 

「俺も、カフカのことが好きだ」



 心と体がバラバラになってしまいそうだ。

 ユナの声で、心拍数が上がるのがわかる。それなのに、涙がとめられない。

 

 

 視線が絡んだ。

 どちらともなく、2人の唇が重なる。そして、2人で額をくっつけあって笑った。


 

「ふふ、くすぐったい」


 

 カフカが笑えば、ユナは愛おしいものを見るように、甘く微笑んでいる。そっと頭を撫でられた。


 

「ねえ、ユナ」

「どうした?」


「“幸せ”って、ひとりじゃなれないのだ。

 だから、ユナは私を生かすために、不幸になっちゃダメなのだ。ユナが不幸だと、私も幸せじゃない」



 ユナは、何も聞かなかった。ただ、真剣な目で頷いた。


「……分かってる。あんたを二度とひとりにしない」



***



 カフカは、空っぽになった砂時計を日にかざして見ていた。半透明のガラスみたいな砂時計は、時折虹色に煌めいている。


 

「なあ、カフカ。怒ってんのか?」

「ふふ、怒ってないのだ。私の大賢者は、私のことが好きすぎて、私がいない間に王国を潰しちゃったのだ。

 それに、ガロリア王国が滅びるのは知ってた」


 あの未来でも、ガロリア王国はもうなかった。王国の跡地で、未来のユナはひとりぼっちで暮らしてたのだから。


 カフカは、砂時計をテーブルに置くと、代わりに真っ黒いギルドカードを手に取った。

 


「ねぇ、ユナ。——次はユナが王様になる番なのだ」

「何それどういう——」


 

 訝しげに眉を上げたユナに、悪戯っぽく笑ってみせる。


 

「それから、ユナは和平のために、魔王のカフカと結婚するのだ」

本日もありがとうございます!


ついに現在へ帰ってきたカフカ。悲しい未来が、恋をすることの辛さと、幸せの意味をを彼女に教えたのでした。

そして世界が、変わり始める――?


物語はエンディングへ近づいていきます。是非最後まで見届けていただけたら嬉しいです……!

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