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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
6章 これが恋じゃないなら、なんなのだ?

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38 夢は終わるのだ

 ——最後の日が来てしまった。


『千分岐の砂時計』の期限が迫っていた。カフカはなんだか落ち着かない気分で目を覚ます。

 隣を見れば、もうユナは起きているのか布団は少しひんやりとしていた。


 ベッドから抜け出して、リビングに向かう。

 香ばしい匂いが漂ってきた。


「おはよう、ユナ。ご飯なんなのだ?」


 カフカは、わざと明るく言ってキッチンに立つユナの背中に抱きついた。


「おはようカフカ。今朝は、ベーコンエッグにした」

「ベーコンエッグ……? あっ“目玉焼き”なのだ!」


 ユナの背中からキッチンをのぞく。

 ジュワジュワ音を立てるフライパンの上に、目玉みたいに白身の上にちょこんと乗る黄身が見えた。

 ベーコンと同じフライパンで焼いてるから、ベーコンエッグって名前なのだ?


「ふっ、なあ覚えてるか、カフカ? あんた初めて目玉焼きを食べた時、本物の目玉だと思って怯えてたんだぞ」

「むむ……覚えてるのだ。でもあれはユナが意地悪したのだ! 魔界には目玉焼きなんて料理なかったから、仕方ないもん!」


 軽口を叩きながら、思う。

 この未来のユナは、カフカが現在に帰った時、その先に必ず来る未来のユナじゃないのかもしれない。

 

 でも、カフカのことを鳥籠から連れ出してくれて、世界から一緒に逃げて、一緒に生活したユナの、間違いなくその先にいるユナなのだ。

 

 このユナは……カフカとの生活を、覚えている。

 だから、気になった。


 ねえ、未来のカフカとは一緒じゃないのか?



***



 2人は、迫り来る終わりを引き伸ばすように、手を繋いで一緒に歩いた。

 爽やかな風が、カフカの髪を巻き上げる。


「……ねえ、ユナ」

「なんだ?」

「——未来のカフカは……一緒に暮らしてないのか」


 その言葉を口にした瞬間、空気が重たくなった気がした。意識して深呼吸をする。


「……」


 沈黙。カフカも付き合うように黙って、ただユナに寄り添って歩いた。

 しばらくして、ユナがゆっくりと口を開いた。


「魔界に、女王がいる話はしただろ。……あれが、未来のカフカだ」

「! じゃあ、未来でカフカは魔王争奪戦に勝ったのか?!」

「そうだ。俺が——彼女を“勝たせてしまった”」

「ユナ……?」


 思い詰めた口調が気になる。カフカは、隣の顔を見上げた。ユナは今にも消えてしまいそうな顔で、眉を下げて笑う。

 そして、カフカの頭を撫でた。


「とにかく、カフカは勝った。そして魔王になって……魔界を攻めようとしていた、北方大帝国・リアナ共和国の共同戦線とぶち当たった」

 

 

「“カフカの大賢者”は、その共同戦線を欺いて——そして、魔王と北方大帝国との和平の婚姻が実現した」


 

 和平の婚姻——それを聞いた瞬間、カフカは何が起きたかわかってしまった。それは。


 ——公爵家と、ガロリア王国と同じではないか!!


  

 そのあと、本当に和平が実現したとか、もはやそんなのはどうだってよかった。魔族と人間が本当に手を取りあったとか、そんなのも関係ない。


  


「……それって、未来のカフカの希望だったのか……? 未来のカフカは、皇帝のことが好きだったのか……?!」


 目の前のユナのことを責めたいんじゃないのに。ユナはこんなにも、悲しんでいるのに。

 カフカには声が、止められなかった。


 涙が頬を濡らす。唇を噛んでも、涙は止まらない。


 

「ねえ、未来のカフカは——ユナを好きだったんじゃないのか?!」


 だって、私は——私はこんなに、ユナのことが好きなのだ。何があっても、ずっと一緒にいたい。

 今までも、これからも、どんな辛いことがあってもユナがいるから頑張れる。ユナの魔法が、私の力で。

 

 ユナじゃなきゃ、ユナじゃなかったら意味がないのに!


 

 思わず、カフカはユナの胸元の服を掴んで揺さぶっていた。涙が、自分とは繋がってない、違う生き物みたいにとめどなく溢れてくる。


 ユナは答えない。彼は俯いたまま、何も言わない。

 それが悲しくて、腹立たしくて……それなのに、“ユナ”を嫌えない。

 


 やっと絞り出された答えは、カフカの期待していたものではなかった。


  

「……わからない」

「ユナのバカ!!!!!」


 カフカは、ユナの手を振り払って走り出した。

 追いかけてくる気配がある。でも、振り返りたくなかった。



 ——大嘘つき!

 カフカの気持ちを知ってたくせに!! わからないなんて、そんなの大嘘つきなのだ……!


 

 どこまで走ったのかわからない。

 いつの間にか、小雨が降り始めていた。

 


 空を見上げる。あんなに美しかった空は、今はもうカフカに寄り添ってはくれない。

 冷たい雨が、頬に当たって流れ落ちていった。


  

「そんなの、酷いではないか……」


 カフカの声は、次第に強くなる雨音にかき消された。

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