36 未来のユナも優しい
カフカは、両手いっぱいにパンパンに膨らんだ紙袋を持って店を出た。
「凄いのだ……! あるばいとの魔族のお兄さんが、マカロン焼いてたのだ……!!」
「そうだなあ、手先が器用だったよな。カフカ、それ貸しな、持っといてやる」
「ん!」
カフカは、ユナに紙袋を渡した。ユナは収納魔法に紙袋をしまうと、カフカの手を肘に絡めた。
そして、菓子店の向かい側にあるガラス張りのレトロな店を指さす。
「あ、ほら雑貨店もあるぞ、見ていくか」
「見るのだー!」
2人で並んで歩く。店のガラスに、ユナとカフカが映っているのが見えた。
……なんだか、恋人同士みたいだ。
街を行き交う恋人達みたいに、2人はぴったりと寄り添って、幸せそうに見える。
カフカは、隣にいるユナを見上げた。少し大人びたユナの横顔が見える。
ユナが扉を押すと、ちりん、とドアベルが鳴った。
***
入り組んだ石畳の路地を、2人で並んで歩く。いつの間にかあたりは薄暗くなってきていた。
ユナが、魔法で灯りをともした。光の玉はふわふわと浮かんで2人の歩幅に合わせてついてくる。
坂道を登りきると、街全体を見下ろせた。
「わあ……!」
円形の広場を中心に、細い路地がいくつも伸びている。広場にいる魔術師がやったのか、ユナの魔法と同じ灯りがふわふわと浮いているのが見えた。
お祭りの賑やかな声が聞こえる。屋台が出揃ったのか、広場には多くの人が集まっていた。
「ねえ、ユナ! 次はあの広場にある屋台に行くのだ!」
「おう、じゃあ降りるか」
カフカは隣を向いて、ユナの肩の向こうに石像があるのに気がついた。
——昼間言われた魔族の女王の像なのだ?
ユナの手を引いて、石像に近づいてみる。
そこにあったのは、ロングドレスを着た長い髪の魔族が、軍服を着た人間に肩を抱かれて前を見据える石像。
言われてみれば、魔族の方は耳が尖っていて少し幼い顔をしていて、カフカに似ているかもしれない。
でも、隣に立つ人間は冷たく険しい顔をしていて、なんだかちょっと怖い。彼女の肩を抱いているのに、2人はあんまり仲良さそうじゃないのだ。
——この像の人間より、ユナの方が綺麗な顔をしてる。
カフカは、隣に立つユナを盗み見た。
初めて見た時も思ったけど、ユナは品のある顔立ちをしていて、自信たっぷりな表情が似合う。黒髪と、揃いの漆黒の瞳が大賢者らしくて、カフカは彼の頭の良さそうな目が好きだった。
……未来のユナは、あんまり自信たっぷりな目はしてないけど。
カフカに気付くと、ユナは目を細めた。
なんとなく、未来のユナは少し寂しそうに見える。
「行こうか」
そうして手を差し出されて、カフカは素直に手を繋いだ。
***
カフカは食べきれないほど屋台で食べ物を買った。今も片手にりんご飴を持って、帰り道を歩いている。
ちなみにユナに持たせているのはいちご飴だ。どっちも美味しそうで迷っていたら、ユナがどっちも買ってくれたのだ。
「食べる?」
「ん!」
ユナがいちご飴を差し出してくれる。1番てっぺんの1粒に齧り付いた。
柔らかいのかと思ったら結構硬いのだ!
カフカはバリバリといちご飴を噛み砕きながら、今度は代わりにユナにりんご飴を差し出す。
ユナはりんご飴を少し齧ろうとして、やっぱり固くて、りんごにかかった飴がバラバラと崩れるので困った顔をしている。
「ふふ、大賢者にも不得意なものがあるのだな」
「これは全人類が不得意だろ……」
ガリガリと飴を齧りながらユナは文句を言う。ああ、こういう所はすごくユナらしいのだ。
「暗くなってきたな」
そう言ってユナが空を見上げた。カフカも真似して真上を見る。
藍色の空に、砂糖粒みたいな星がちらちらと瞬いていた。
***
チェックインを済ませたユナが、カフカの手を引いて部屋の扉を開ける。
お祭りのせいか、宿屋も人で賑わっていた。あちこちで賑やかな話し声が聞こえてくる。
日が落ちると、空気がひんやりと冷たい。思わず、小さくくしゃみをしてしまう。
「北国だからな。寒いか?」
「ちょっとだけ」
そう言えば、ユナが手のひらから魔道具を取り出した。それは、ガラスみたいに光るランタンの形をしている。
「それは?」
「空気を温めるアーティファクト、『温暖のランタン』だよ、魔法を使うよりこっちの方が微調整が効くからな」
ユナが魔力を通せば、ランタンに灯りがともった。
まるで暖炉みたいにじんわりと暖かい。
「ユナは色んな魔道具を持ってるのだな」
「使い道がないようなものも多いけどな」
そう言って、ユナは手のひらから小さな小鳥の形をした魔道具を出した。出した瞬間に、小鳥はパタパタと羽ばたいて天井をくるくると回る。
「これは?」
「ただ小鳥が飛ぶだけのアーティファクト。『幸福の小鳥』って名前だったかな」
「幸福の……小鳥」
カフカは飛び回る魔道具をじっと見つめた。
魔族の先祖は、何を思ってこんなものを作ったのだろう。カフカが生きてきた800年では、魔族は殺し合うことにしか興味がないように見えていたのに。
いつから、魔族は変わってしまったのだ?




