31 大賢者の“復讐”シナリオ
カフカが、アーティファクトの未来に連れ去られてから1度目の夜が明けた。
彼女が戻ってくるのは2日後だ。
だが、この2日間はむしろ絶対に安全とも言える。
彼女は、大賢者の魔法ですら追跡できない場所にいる。人間だろうが魔族だろうが、この間は誰も彼女に手出しできない。
そう、2日だ。
「2日もあれば——大賢者なら“ガロリア王国を滅ぼせる”」
***
ユナは、『千里の伝書鳩』を放った。
これは、魔界にいるウィスペルン宰相を追跡するため。
ユナの脳裏に、『未来視の鏡』が映し出した宰相の声がこだまする。
『お前は、我が陛下を殺した!!』
考えられる未来は2つ。
北方・リアナ共同戦線がガロリア王国を攻め滅ぼす。
あるいは、俺がガロリア国王の首をとる。
カフカが直接的にガロリア国王を害するのは、現実味がないから考えない。
だって、彼女には攻撃魔法はないし、暗殺をやるんだったら、彼女より魔法が上手い俺がやればいい。
宰相はきっと、『カフカが逃げ出さず、公爵夫人に収まっていれば、今頃はダンジョンがガロリア王国の物になっていたはずだ』と考えてる。
その証拠に、指名手配をした後の動きは、魔術師団を差し向けたり、大賢者を探したりとずっとカフカを探し続けていて、外交に目もくれていない。
——いや宰相がこれとかほんと、この国大丈夫かよ……?
俺が国王だったらこいつ真っ先に罷免するぜ。それから、諜報員を雇うな。
そこまで考えてハッとした。
ガロリア王国の魔術師団は、ユナにとってあまりに弱かった。でも、王宮直属の彼らであのレベルなんだ。
ガロリア王国の魔法は、弱すぎる。もし北方大帝国と戦争すれば、1週間で完封できるレベルだ。
……だから、ガロリア王国はダンジョンに固執する。
自分の国に、強い魔術師がいないから。
それなのにリアナ共和国みたいに、ダンジョンハンターを育てようともせず、諜報員を育てることもしない。
ユナは、ガロリア王国で初めて出会った貴族のことを思い出していた。
カフカを閉じ込めた張本人、グランダ公爵。そしてグランダ公爵家の使用人達。
あれは、いかにも貴族の特権階級らしい考え方をしていた。ユナの育った北方諸国が、魔法を特権だと考えているとしたら、ガロリア王国は、権力を特権だと思っている。
「ああそうか……あの国は、ダンジョンが生まれる100年前で、止まったままなんだな」
——それなら彼らに、“本物の特権”を見せてやるか。
***
ユナの考え方は実に冷たく、そして合理的だった。
それは、彼が大賢者と呼ばれる桁外れの強者だからこそできる考え方でもある。
——不確定の未来に怯えるなら、その未来を確定してしまえばいい。
誰がガロリア王国を滅ぼすかわからないのなら、先に俺が滅ぼしてしまえばいい。
そして、盤面を1度リセットする。
ガロリア王国が滅んだあとで、次の手を考えればいいんだ。
ユナは、乗合馬車を降りる。ガロリア王国の国境はすぐそこだった。
認識阻害の魔法をかけ、ふわりと浮遊する。
城門の上に降り立って、門番の姿を見下ろした。本当に、魔術師をひとつも警戒してない国だな。
敵が飛んでくることも、姿を隠すことも、空から攻撃魔法が降ってくることもなにひとつ想定していない。
城門の上から、城下町を見下ろした。
……小さな国だ。
ユナの生まれ育った北方諸国……いや今は北方大帝国か。それに比べれば、城下町は帝都の半分に満たない。
「……この国は、カフカを攫って閉じ込めた」
ユナは静かに呟いた。
『大賢者による、好きな女を守るための復讐』……うん、悪くない筋書きだろ?
ついに始まる、大賢者の『ざまぁ』!!
やはり『演者』を辞めないユナの、復讐劇のはじまり。




