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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
4章 未来改変、それは祈るように

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23 リアナ共和国の思惑

「今はまだ、焦るときではないわ」


 リアナ共和国大統領。彼女は北方大帝国の隣に位置しながら、独立国家として国境を守り抜いた手腕がある。

 皇帝が軍人ならば、彼女は政治家。 剣と魔法ではなく、紙とペンで世界を変える。


「……皇帝は、我が国のダンジョンハンターの力を侮れない。力で制圧した彼にとって怖いものは、力のはず」


 大統領は、執務室で書類に目を滑らせていく。調印された『北方・リアナ安全保障条約』が目に留まり、思わずほくそ笑む。


 ダンジョンに国土を接する2国が、ダンジョンによる攻撃を受けた場合、お互いに助け合うと決めた。

 だからリアナ共和国はダンジョンハンターを貸し出すし、北方大帝国はその巨大な魔法軍事力を貸し出してくれる。

 

 そして前提には、ダンジョン資源獲得における利権争いの停戦がある。

 

 これは大きな進歩だ。

 北方大帝国は、この大陸で最も大きな国。その大国と、対等の条約を結べたのだ。


「もちろん、ダンジョンの探索はとめない」


 利権争いの停戦は約束した。でもそれは、ダンジョンをどの国のものにもしないということ。

 誰のものでもないのだから、探索だって自由。


「我が国の目的は、覇権じゃないのよ。国家の存続と繁栄だわ」


 大統領は、窓の外に目をやった。

 そこには、魔石を動力源にして空を飛ぶ飛行船の姿がある。魔術師の少ないリアナ共和国は、魔石を確保することで進歩してきた。


「これからも、我が国は進歩しなければならない」


 それが、大統領として国民との約束なのだから。



***



 あれから、カフカは襲ってきた魔族を何人も返り討ちにしている。


 噂が回っているのか、今もカフカを見た魔族が全速力で走り去っていくのが探知できた。

 その背中を特に追うつもりもないので、素直に見送る。


「まさか私が、逃げ出される立場になるとは」

「当然です。あなたの“魔法”が、あなたを魔王の玉座に連れていきますよ」

「ふふ、期待している」

「仰せのままに、“未来の魔王陛下”」


 まだ周りに、こちらを見ている気配があるので一芝居打っておく。


《なあ、カフカ。“魔王”って、なんなんだ?》

《お前……人に魔王になろうと言っておいてよくそんなことが言えるのだ》


 カフカの呆れたような感情が返る。

 仕方ないだろ、こっちは人間なんだ。カフカに出会うまで、ダンジョンの仕組みなんて知らなかったんだよ。


《魔王は……誰よりも強く、だから誰にも命令されない。魔界のルールを作れる存在なのだ》

《ふうん、じゃあカフカがなりたい魔王ってどんなだ?》

《え》


 そこでカフカの思考が止まったのがわかった。きっと、勝つことしか考えてなかったんだ。魔王になって、その先を考えたことなんてなかったんだろう。


《むむ……》


 唸っている思念まで可愛い。

 もう少し眺めていたい気もするが、ユナは助け舟を出してやることにした。


《ならさ、菓子店を作るのはどうだ?》

《魔族が菓子店?》

《カフカだって好きだろ、お菓子。きっと作り方を知れば作れる魔族だっているさ》

《む……それは悪くない考えなのだ》


 カフカが、お菓子を思い出している気配がした。


《そうだな……戦う以外の生き方が、許される世界に出来たらいいのだ》


 ユナに伝わってきた心が、あまりに壊れそうでこちらの胸まで苦しくなる。

 なのに当の彼女は、それを当たり前みたいな顔して受け入れている。

 

 そうだ、カフカは800年ずっと、逃げることしかできなかった。魔界では戦うか、死ぬか、逃げるかしかない。


 魔界でこれまでユナが見た世界は、人間界の古い村落のような、小さな村ばかりだった。

 お菓子を食べたり、家具を選んだり、ドレスを選んだり——そんなふうに生きている魔族は1人もいない。


 ユナは、カフカの頬をそっと撫でた。


「ユナ?」

「帰りましょう」

 


 魔界での2人の拠点は、カフカの故郷の村だった。

 ボロ屋に見せかけた魔法はかかっているものの、中はカフカの趣味に合わせている。


 このソファもその一つだ。

 隣にくっついて座りたい、そう言われてユナが物体創造魔法で作った、ピスタチオカラーの2人がけソファ。


 ユナは、ソファに座ると隣を片手でポンポンと叩く。


《おいで》


 カフカは、素直にちょこんと座ると、ユナに寄りかかってきた。


《ねえ、ユナ》

《ん?》

《いつか、私も一緒にユナとお出かけしてみたいのだ。お菓子を買ったり、街を歩いたり……あとお出かけで何するかわからないけど……》


《ああ、……行こう》


 そんな些細な願いが叶わないほど、カフカの世界は彼女にとって残酷だった。

 人間界に来ても、彼女にはずっと自由がなかった。


《飯を食うのもいいな。街には食べ物が沢山ある》

《ポタージュは? ポタージュ屋もあるか?》

《ふ、本当にポタージュが好きなんだな。あるよ、色んなスープを売ってる店がある》


 ユナは、生まれ故郷の北方諸国の街を思い出していた。石畳、広場に集まる屋台、入り組んだ路地、菓子店に紅茶店。カフカが気に入りそうなものは沢山ある。

 そこまで思い出して、ユナはふと思いついたように幻覚の魔法を展開した——


 

 街の賑やかさまで、現れたみたいだった。


 カフカが、目を輝かせて周りを見ていた。


《ユナ、ここはどこなのだ?》

《俺が前世で育った街だ。

 そのうち連れて行ってやるよ》

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