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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
3章 俺の魔法は、あんたの魔法だ

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21 幻覚が、本物になることもある

 カフカの意識がぼんやりと浮上する。

 ——暖かい。


 気付けば、ユナがカフカを抱きしめていた。


「ユナ……」

「カフカ?! ……よかった」


 それはまるで泣きそうな顔で。

 なにか考えるより先に、勝手にカフカの手が伸びる。ユナの頬に指先が触れた瞬間——ユナを遠巻きに取り囲んでいた黒い靄が飛びかかってくる。


「チッ、感動の再会くらいさせろよ!」


 ユナが悪態をついた。次の瞬間、ユナの投げつけた光魔法が花火みたいに連続で爆発した。


 ——そうだ、“彼女”と戦っていたのだ。

 カフカはユナの腕の中で、対峙する不死者の魔術師を見据える。

 骸骨の真ん中にある虚ろな眼窩は、真っ暗闇に染まっていた。

 

 今ならわかる。あの古ぼけた黒いローブに包まれた骸骨は、ただのアンデッドではないのだ。


 彼女は、ただ恋をしていただけ。

 恋人を失った世界で彷徨ううちに、悪意のアンデッドになってしまっただけ。


 カフカは覚悟を決めた顔で、幻覚魔法を展開する——


「……カフカ?」


 それを静観していたユナが、初めてカフカの名前を呼ぶ。カフカは、抱きしめられたまま彼の胸に顔を埋めた。

 

「ユナ。もし、もしも……自分が死ぬとわかってても、ユナならカフカを助けるか?」

「……」


 ユナが、押し黙る。

 その間にも、カフカの生み出した幻覚は“赤髪の青年”の形をなしていく。


「——助けるに決まってる。けど……俺はあんたをひとりにしない」


 その答えを聞いて、カフカの頬が自然に緩んだ。

 

 幻覚の青年は、生前の姿で不死者の魔術師の前に立つ。骸骨の動きが、止まった。


 ——あの彼も、ユナと同じなのだ。

 きっと、この世界で彷徨う彼女をひとりになんてしたくないに決まってる。


 その時、不死者の魔術師の輪郭が崩れた。

 黒い靄の裾から、順番に深緑のローブへと変わっていく。胸元まで靄が消えた時、そこにあったのは骸骨の顔ではなく、涙に濡れる人間の少女の顔だった。


 彼女は、走り出す。

 空中を滑るように走って、青年の胸に飛び込んだ。彼は、彼女をきつく、きつく抱きしめる。

 彼女の深緑のローブの裾が、ふわりと広がった。


 その時、カフカを抱く腕に力が込められるのがわかった。ユナの顔をそっと見上げる。

 ユナは真っ直ぐに魔術師2人の再会を見つめていた。


 だが、地面から立ち上がる黒い影があった。

 ここは、多くの死が訪れた場所。……不死者の魔術師の連れた嘆きの亡霊は、何度でも蘇ってしまう。


「……なんだ?」


 ユナの空気が張り詰める。

 臨戦態勢に入ったユナのことなど見えていないかのように、その影は真横をすり抜けた。

 それは真っ直ぐ赤髪の青年の幻覚に近付いていき、飲み込まれるように消える。


《やっと会えた》


 カフカの心を読む魔法が、その一言を拾った。


 


「ユナ。……何も言わず合わせて欲しいのだ」

「仰せのままに、“未来の魔王陛下”」


 軽妙な声が返る。カフカは小さく微笑んだ。



 カフカは、ユナの腕の中でしゃんと背筋を伸ばす。

 懐から、扇子を取り出して口元を隠した。


「そこの魔術師。ここはお主たちのいるべき場所ではない」


 1歩、ユナから離れ前に進む。カフカのつま先は空中を踏みしめた。

 抱き合う2人の魔術師は、慌ててこちらを振り向く。

 その姿はもう、アンデッドには見えない。


「あるべき場所に帰るがいい」


 カフカがそう告げた瞬間、白い光が2人を包んだ。

 それは、焼き殺すような閃光ではなく、春の陽だまりのような光だった。

 光の中で、2人の笑顔が見えた気がした。


 光は揺らめきながら、白い花弁の渦へと姿を変える。

 風がどこからか吹いて、花弁を巻き上げた。

 

 

 ——最後に残ったのは、遥か空へ舞ったふたつの花弁だけ。



***


 

「ふふ、私の“魔法”は本当になんでも出来るのだな」

「言ったろ? 大賢者に使えない魔法はねえよ。俺が、あんたの為なら全部何とかしてやる」


 空中で、カフカの黒いドレスの裾が揺れた。

 ダンスをするように、2人は手を取りあって空中を滑る。探知魔法が、今だけはここが2人きりの世界だと教えていた。


 どこまでも、薄紫の空は広がっていく——



***



 一方その頃、ダンジョンを取り巻く人間界は静かに、だが確実に動き出していた。


 雪の降りしきる北方大帝国、帝都。静かな密会は冬の静寂の中で行われていた。

 寒さから守るように分厚いガラスがはめられた窓の外から、一羽のからくり仕掛けの鳩がその様子をじっと見つめている。その姿は雪に溶け込むような、半透明の姿をしていた。



「ご足労感謝します、リアナ共和国大統領」

 

 切り立った崖のような雰囲気を纏う、黒い軍服。若き皇帝は、その若さを打ち消すような冷たく鋭い目をしている。


「皇帝陛下。時は一刻を争います。もはや、ダンジョンの利権争いの時期を超えました」


 銀の髪をタイトにまとめた彼女は、相変わらず食えない微笑みを浮かべている。

 今日のドレスは、冬の針葉樹を思わせるような青みがかった深い緑。その色は、皇帝に歩み寄っているようにも、冬を拒絶するようにも見える。


「私は、ガロリア王国の和平の結婚はもはや意味がないと考えています」

「ええ、そうですね。私としては、その婚儀を“ダンジョンが認めていない”のではないかと疑っています」

「ほう……?」

「これは私の国が極秘で手に入れた情報ですが——」


  大統領のその含みのある言い方に、皇帝が眉を上げる。大統領はにこやかに続けた。


 

「——“ダンジョンの魔族たちは、戦争をしている。そしてそれは、国家元首を決めるものである”と」


本日も、お読みいただきありがとうございます!


ついに、『恋とは何なのか』理解し始めたカフカ。ユナとカフカの距離が縮まる中、世界には不穏な影があるようで――?


最後まで2人の旅路を見守っていただけたら、とても嬉しいです。よろしくお願いします!

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