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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
3章 俺の魔法は、あんたの魔法だ

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18/27

18 『賢王の戦い方』なのだ

 ユナが考えた通り、『ユナス・ワーグナー』は特に問題なくダンジョン入口を通ることを許された。

 

 ——時は遡って数刻前。 


「発行元が“北方諸国”だって? しかも金属製のギルドカード……発行年が100年も前じゃないか?!」

「いやでもよく見てくださいよ先輩、ライセンスが1級魔術師ですよ、“大賢者”は100~200年生きる例があるじゃないですか」

「……そうか、まあ大賢者ならそんなこともあるな」

「そうですよ先輩、1級魔術師ってことは間違いなく大賢者ですよ」

「うむそうだな、問題ないな。——通行を許可する」


 ユナは顔色ひとつ変えず、ダンジョンの入口で繰り広げられる会話を聞いていた。軽く会釈すると、その後ろをつむじ風が通り抜ける。


 ——大賢者の検知魔法に引っかからないのだ。カフカの認識阻害の魔法が、ダンジョン入口の受付員に勘づかれるはずもなかった。



***



「——この卑怯者! 自分の力で戦え!」


 目の前の大きなトカゲ——リザードマンが吠えた。彼は満身創痍の体を奮い立たせて、きつく槍を握りしめてカフカ目掛けて突っ込んでくる。

 彼の纏う鎧が、足音に混ざってガチャガチャと音を立てた。


「敗者の言葉は聞かぬことにしている」


 広げた扇子の向こうで、カフカは目を細めて嘲笑った。次の瞬間、リザードマンの体は風圧で殴り飛ばされ、はるか遠くの大木に打ち付けられる。

 ドオン、と地響きの音とともに大木が折れ、リザードマンを巻き込んで倒れた。

 土埃が舞い上がる。


 カフカは、黒いドレスの裾についた埃を払うと探知魔法を使った。

 ——生命反応はない。


 その時、虚空から1人の男がカフカの足元に現れてひざまずいた。

 黒い髪に黒い瞳。黒いスーツを着こなした彼は、およそ魔界に不釣り合いなほど、貴族みたいに美しい顔をしている。


「ユナ。リザードマンからも魔石をとりたいか?」

「頂けるのであれば」

「では燃やすがよい」


 カフカが言った途端、リザードマンの倒れる大木から火柱が上がった。

 2人はゆっくりと火柱に向かって歩いていく。


 カフカたちを盗み見る複数の目があることはわかっている。だから、わざと見せつけるように力を振るう。


 崩れて炭となった木の間から、微かに煌めく手のひら大の魔石を拾い上げる。ユナが手をかざせば、魔石は彼の手のひらに吸い込まれて消えた。


 カフカはふわふわに広がった黒いドレスの裾を翻し、軽い足取りで進む。

 

「お前のような強い魔法を手に入れて、私は幸運だったな」

「勿体ないお言葉です、“未来の魔王陛下”」

「お前は私の“魔法”だ。自分の魔法を好きに使って問題などあるまい?」

「仰る通りです」



 ——揃いの黒い衣装に身を包んだ2人は、こうして魔王争奪戦の舞台に上がった。



***



《しかしなんでユナは魔石を集めてるのだ》

《人間界だといい金になるんだよ》


 2人は、カフカの生まれ故郷の村落に潜伏していた。

 探知魔法にほかの生命反応はないが、素で喋る時は魔法を使っている。念には念をだ。

 

《でもそれ……心臓のミイラみたいなものだぞ……?》

《まあ、人間は人間のミイラも盗んで売るし》

《ひぇ……野蛮すぎる》

《魔族に野蛮と言われる日が来るなんて、ミイラ取りのご先祖さまも思ってねえだろうなあ》


 おかしそうに笑うユナの気配が、なんだか心地いい。ちょっとユナの記憶をのぞいたところ、人間は魔石に宿る魔力を使って魔道具もどきを使うらしい。これなら魔法が使えない人間も、魔法の恩恵にあずかれる。

 そういえば、公爵家では誰も魔法を使ってなかったのだ。


《魔法使いは数がすごく少ないんだよ。だから俺達魔術師はすごいってわけ》


 カフカは、偉そうに胸を張るユナを無視した。ユナはちょっと褒めるとめちゃくちゃ調子に乗るのだ。



 カフカの生まれ故郷は、魔界の最深部の端っこにある。前世で魔界……ダンジョンに潜っていただけあって、ユナはまるで地図が頭に入っているみたいに、特に苦戦することなくここまで来てしまった。

 最深部生まれのカフカですら、ほとんど同じ景色が続いていて迷いやすいというのに。


 カフカは、古ぼけた窓から外をのぞく。

 永遠に明けない薄紫の空がどこまでも続いていた。魔界を離れていたのはほんの数年なのに、なんだか酷く懐かしく思う。

 風が吹いて、草原の草の音がサラサラと聞こえる。


 ……人間に捕まってここを出る時は、もう二度と戻れないと思っていたのに。

 人間界のほうがマシだと思っていた。だから戻る気もなかった。

 

 そんなことを考えていた時、カフカの魔法がユナの意識を拾った。


《故郷が嫌いな奴なんかいねえよ。——俺は、カフカの本物の故郷が見れてよかったと思ってる》

《あの日、ユナが私の故郷を美しいと言ってくれて、嬉しかったのだ。……私には、この景色を美しいと感じる資格なんかないと、思っていたから》


 魔界のルールは簡単だ。

 一番強い奴が魔王になる。魔王は魔界のルールそのものだ。

 だから。弱くて逃げることしか出来なかったカフカは、魔界に居場所なんてなかった。

 弱い奴に、故郷を懐かしむ余裕なんてない。


 ポン、と頭を撫でられた。物思いに沈んでいた気分が、一気に引き上げられる。


「あんたの“魔法”は、世界最強の大賢者です。これからは、あんたが望むならなんだって手に入る」

「……ふふ、強く出たものだ。世界最強?」

「雇い主が信じなくてどうするんですか」


 ユナはいつも、口ではそうやって尊大に振る舞う。でもカフカには、ユナの心の声が聞こえる。


《俺があんたを、望むならどんなところにも連れてってやる。だから、カフカには笑ってて欲しいんだ》


 それはまるで祈るような。

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