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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
3章 俺の魔法は、あんたの魔法だ

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16 大賢者の決意

 カフカは、自分は弱いから逃げるしか無かったと、諦めて生きていると言っていた。

 だけど、本当はカフカは弱くなんてない。


 初めて見た時にも思った。だから俺は、『人間なんて殺せる力があるのに、なんで大人しく屋敷に軟禁されてるんだ?』そう思った。

 彼女の魔力は多い。それが魔族ゆえなのかはわからないが、もし攻撃魔法がつかえるなら人間界では2級魔術師くらいになっててもおかしくない。


 ユナは両手を見下ろした。

 小さな窓からさす月明かりで、ぼんやりと手が白く浮かび上がっている。


 ——本当に、いなくなっちまったのかと思った。


 認識阻害の魔法を教えていた時だった。

 カフカはあろうことか、大賢者の腕の中にいる——なんて認識の書き換えを押し付けてきた。思わず笑うとこだったよ。

 それは設定がずさんすぎる。バレないわけがない。

 でもたぶん、あんたはなんにも考えてなかったんだ。


 正直、カフカの気配が全く追えなくなって焦った。

 魔界で800年も息を潜めて逃げてたからなのか?


 俺の探知魔法は、“風のひと吹き”だといっていた。そんなわけが無い。だって、だって今カフカは——目の前にいたはずだろ?!


 その瞬間、俺の腕の中で微笑むカフカの幻覚までふつりと消えてしまった。



 記憶を振り払うように、ギュッと目を瞑った。

 隣でバタバタ寝返りを打つ背中に触れる。

 こわごわと触れた手は、彼女の温かさを感じている。息するように展開し続けている認識魔法も、彼女が本物だと告げている。


 大丈夫だ、カフカはいなくなってない。

『未来視の鏡』が見せる未来は、まだ来てない。


 このアーティファクトは意地が悪い。

 未来を見せるくせに。どうしてその未来に辿り着くのかは見せてくれない。


 ——なんで戦争があんたを殺すんだ?

 俺は……どうやってあんたを守ったらいい。



***



「ユーナ!」

「わっ?!」


 突然呼ばれて意識が浮かび上がる。いつの間にか眠っていたらしい。珍しくユナより早く起きたカフカの顔が目の前にあって、そのペリドットの瞳を真正面から見つめてしまった。

 慌てて顔を逸らす。


「……早起きなんだな、カフカ」

「ユナが寝坊助さんなのだ! ふふ、珍しい」


 やたらカフカの顔が近い。顔を逸らしながら起き上がろうと手に力を入れて——自分の手が彼女の手首を掴んでいるのに気付いた。


「ごめ……」

「気にしなくていいのだ。いつもの事なのだ」


 手を振りほどこうとして、聞こえた言葉に耳を疑う。

 いつも——何だって?


「ユナはたまに酷い顔でうなされている。私はどこにも行かないから、安心していいのだ」


 にへ、と微笑まれていたたまれなくなる。

 寝言を言わなくなる魔法があればいいのに。

 何とか平常心を取り繕って起き上がろうとすると……寝巻きのドレス姿の彼女にベッドに押し倒された。


「……カフカ?」

「私は、どこかに行けるのならユナと一緒がいい」


 様子がおかしい。

 ユナが、カフカを押しのけてベッドから起き上がると——


 テーブルの上に、しまい込んだはずのギルドカードがあった。

 今日は雪は降っていないのに、やけに部屋が冷たく感じる。

 


「ユナス・ワーグナー……って誰なのだ? ユナは……私に何を隠しているのだ?」


 カフカの声が震える。

 彼女が俯くと、白金の長い髪がサラサラと落ちた。


 公爵家を出てから、ちゃんと手入れしてやれてなかったな。彼女の少し傷んだ髪をみて、ユナは少し後悔する。

 そうだ、ずっと簡単なドレスで過ごさせている。たまには新しいドレスを買ってやらないと。

 宝石だって、昔作ってやったダイヤのネックレスしかない。もっと——


「ユナ!」


 カフカの声で、ユナの意識が目の前に戻る。

 カフカは、真っ直ぐに顔を上げてユナを見つめていた。


 ユナの魔術師の本能が、魔法の展開を検知した。

 


 

「“ユナ。私に本当のことを教えて欲しいのだ”」


 

 教えていない。その魔法は。

 カフカの言葉が、ユナの意識を侵食するように響く。ユナがいつも展開している精神魔法を弾く障壁が、こじ開けられようとしていた。


「“ユナ。どうして、何も教えてくれない?”」


 これは、自白を強要する魔法だ。

 カフカの白く小さな手が、ユナの頬に伸びる。触れられた箇所がひりつく気がした。

 彼女の、宝石みたいに光る瞳から目がそらせない。

 カフカは、ゆっくりとユナの膝の上に乗ってくる。気付けば、両手で顔を包まれていた。

 至近距離で目が合う。


「俺、は……」


 ユナの口から絞り出すような声が漏れた。魔法の効果か、自責の念か。ユナにはわからなくなっていた。


 その時、カフカの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。 


「ユナのばか……好きって言って」

「……好きだ」


 泣きじゃくるカフカを、思わずきつく抱きしめる。小さな体だ。彼女はすっぽりと腕に収まってしまう。

 

「……ばかばか……俺は大賢者だぜって、心配すんなって言うのだ……」

「なんだよそれ、俺の真似のつもりか」

「ふ、フン……」


 うちのお嬢様は素直じゃないんだ。


「俺はあんたの、大賢者だ。——だから何も心配いらない。……なあ、カフカ」

「なんなのだ?」


 

「俺と——魔王を目指してくれ」

本日も、お読みいただきありがとうございます!


明日からはまとめて1章ごとに投稿していきます。

大体5~8話くらいずつの投稿です!


最終話は51話です。最後まで、カフカとユナの逃避行を見届けていただけると嬉しいです!

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