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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
2章 ユナ、お前は――誰だ?

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12/27

12 ユナドラゴンなのだ!

「ちょうどいい。練習台になってもらおうぜ」


 ユナが好戦的な笑みを浮かべた。

 常々思っていたのだが、ユナは血の気が多い。これだから男の子は。戦うのが好き過ぎて困るのだ。

 

 2人は、ユナの家からほど近い、北方大帝国とリアナ共和国の国境にいた。それはつまり、魔界の目の前でもある。

 ——だが2人の目的は、魔界……ダンジョンではない。


 ユナがかけた魔法で、空中を泳ぐように浮かぶ。何重かにかけられた認識阻害の魔法の効果か、空に浮かぶ2人に気づく人影はない。


 大規模検閲に失敗したガロリア王国は、次の一手を打っていた。

 それが、2人の眼前に広がる光景だ。


 魔術師を筆頭にした軍団が、ガロリア王国を出発し、ダンジョンに向かって行進していた。

 魔族のカフカが逃げる場所といえば、魔界。そう考えたのか、あるいは国境付近を占拠して探そうとでもしたのか。


「カフカ。俺が攻撃魔法で撹乱する。しっかり探知して反撃してくる魔術師を特定しろ。

 ——そうだなあ、派手な幻覚も見てもらうとするか」


 ユナが空高く舞い上がる。

 次の瞬間、ユナの姿は巨大な漆黒のドラゴンへと変わった。


《カフカ。俺が攻撃されないよう、しっかり探知してくれよ》


 これだけ離れていても、ユナの感情はしっかりと拾うことができる。

 カフカは覚悟を決めた顔で、地上近くに降下していった。軍団の500メートル付近まで来たところで、空から隕石が降り注いだ。


 ——幻覚か。

 カフカがそう思った次の瞬間、隕石が着弾した地面ごと魔術師が吹き飛んだ。

 ——……幻覚か……?


 ユナの魔法はあまりに精度が高すぎて、カフカからは幻覚なのか本当の攻撃魔法なのかがわからない。

 

 カフカが狼狽えている合間にも、ユナドラゴンは炎を吐きながら上空を旋回している。たぶんこっちは幻覚。

 魔術師団の持つ国旗が、ユナドラゴンの吐いた炎で燃え上がり、魔術師達が慌てているのが見える。

 何人かが水魔法を使う気配がして、カフカは首を振った。


 集中しなければ。

 目を閉じる。魔術師達が狼狽え、口々に文句を言っているのが聞こえてきた。

 カフカの魔法が、魔術師の殺意を捉える。

 雑音の中を泳いでいる感覚だ。

 ——見つけた! 詠唱する魔術師がいる!


 ユナ! 前側に3人、後ろに6人!


《おう、よく出来たな》


 カフカが探知した直後、予想通り、前に3つ、後ろに6つの魔法陣が展開する。

 その瞬間、ユナの放った隕石が直撃した。

 発動する前に魔法陣は割れ、隕石の衝撃で魔術師たちが吹き飛んでいく。


《バッカじゃねえの、そんな発動速度じゃ大賢者は捕まえられないぜ》


 フフン、と得意げに鼻を鳴らす音まで聞こえそうだ。

 すると、カフカの探知魔法に巨大な魔法が引っかかった。詠唱源を特定しようにも、なんだか混ざりあってひとかたまりになっていて特定できない。


 ユナ?! なんか来るのだ……!!


《なるほどな、複数人での巨大術式か。でもな、ドラゴンはそんなチンケな魔法じゃ倒せないもんなんだよ!》


 ぐわ、とユナドラゴンが牙を剥いた。

 ユナの生み出した幻覚はどんどんと体積を増して、元の2倍まで膨らむ。

 巨大なドラゴンは、編み上げられた巨大術式をばくりとひとのみしてしまう。魔法は、発動する前に霧散した。


 ——凄い、どこまでが幻覚で、どこからが魔法だったのかわからなかった……

 ドラゴンはもちろん幻覚なのはわかるのだ。だが、あの巨大な魔法陣をかき消したのは、ユナの魔法だ——繋ぎが鮮やかすぎて本当にドラゴンがいるみたいだった。


 力の差は歴然だった。

 魔術師団はほとんど何も出来ず、散り散りに撤退に移る。


 ユナドラゴンは、遥か上空を旋回すると、ダンジョンのある死火山に向かっていき、消えた。

 まるで本物のドラゴンが、魔界に帰ったかのように。


 しばらくして、魔術師団の消えた場所には幾つものクレーターだけが残されていた。


「……幻覚ではなかったのか?!」

「攻撃魔法使うって言ったろ」


 いつの間にか、カフカの高度まで降りてきていたユナに声をかけられる。


「もしかしてドラゴンも幻覚ではないのか?」

「おうそうだぜ、実は大賢者はドラゴンに変身できるんだ」

「ええ?!」

《バーカ。信じるな、幻覚だよ》

「む、も、もちろん信じてないのだ。演技なのだ」


 フン、と胸を張って見せる。すると、ユナの揶揄いを含んだ感情が届いた。


《どうだか》 


 

「帰るぞ」


 ユナが両手を差し出してくる。カフカが素直に手を取ると、ひょいっと抱き上げられた。

 そしてそのままユナの転移魔法が発動する。


 次に目を開けた時、2人はユナの家に帰ってきていた。



***



 ——その日の夕刻。

 慣れない探知魔法を使ったせいか、カフカは早めに寝落ちてしまった。

 ユナは、紅茶を飲みながらその寝顔を見つめていた。


 ——正直、魔術師団なんか俺の敵じゃない。

 だけど……


 ガロリア王国の指名手配をのらりくらりかわすのは、たぶん不可能じゃない。

 でも、それは解決したことにはならない。


 ユナは指名手配書の内容を思い出していた。

 そこには、『生死は問わない』とあったはずだ。

 ガロリア王国は、確実に戦争を起こす気だ。もう、カフカを和平の人質なんかにする気がない。


 今日、ドラゴンの幻覚で暴れたのは、ただ魔術師団を追い払いたかっただけじゃない。

 あえて、ダンジョンの目の前で暴れてやった。

 

 “ダンジョンを守る存在”がいる。

 そう見せつけるように。


 ——さあ、ダンジョン利権争い中の諸国の皆様方。

 次はどう出る?


 暗闇の中で、ユナの唇に好戦的な笑みが浮かんだ。

本日は、この後21:00にもう1話投稿します。

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