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離縁したら指名手配されました! でも大賢者に溺愛されたので何とかなります。  作者: りりきち
2章 ユナ、お前は――誰だ?

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10 大賢者の苦悩

 ——夢を見ていた。

 それは何十年も昔、まだユナがダンジョン近くの拠点で、ひとり野良魔術師として生きていた頃の記憶だった。


 キッチンでやる気の無い自炊をする。

 とりあえずその辺でむしってきた薬草とじゃがいもと干し肉をぶち込んで、塩とハーブで味付けしただけのスープ。

 栄養が取れればいい。この頃のユナは、誰かと一緒に食事をする楽しみなんて知らなかった。


 スープを一気に流し込んで、食器をシンクに置いた。水魔法と風魔法を使って、簡単に洗って乾かす。

 唯一部屋にあるガラス棚に乱雑にしまうと、特に荷物も持たずに部屋を出た。


 目の前に、ダンジョンのある洞窟を抱く巨大な死火山が見える。草木の枯れた黒い山肌が天高くそびえていた。

 ここは、北方諸国とリアナ共和国の国境。そしてすこし離れてガロリア王国に睨まれた三竦みに位置する。

 ユナは北方諸国の出身で、国の認定探索者のギルドカードを持っていた。

 

 

「おう、ユナ。今日もひとりか?」

「……ああ」


 最近よく会う男に声をかけられた。

 彼はリアナ共和国の斧使いで、魔術師と治癒術師、シーフのバランスが取れたパーティにいる。今日も彼の後ろに3人がいるのが見えた。ユナが軽く会釈をすれば、彼女達も会釈を返してくれる。


「そうか。——幸運を祈るぜ」

「あんたもな」


 ユナは周りの探検者達とは似ても似つかない軽装で、ダンジョンに足を踏み入れる。

 入ってすぐ、小さなゴブリン達が突撃をしてきた。

 後退して攻撃をかわす。ひるがえって炎魔法を打ち込めば、ゴブリン達は一瞬で魔石に姿を変え、体は消し炭になった。

 魔石に手のひらをかざす。すると魔石は蜃気楼のように揺らいで、ユナの手のひらに吸い込まれていった。


 そのあとも調子よく探索を進めていく。

 もっと深部まで潜ったことがあるユナにとって、ダンジョンの入口付近は準備運動にもならない。


 そうして先日は見落としていた鍾乳洞で、ふと足を止める。ゆっくり目を細めれば、奥に魔法の痕跡を見つけた。


 ……もしアーティファクトがあれば儲けもんだ。


 湿った水音の鳴り響く鍾乳洞を、ゆっくりと進む。大抵、アーティファクトが埋まっている場所には守るみたいに強い魔物がいるものだが——


 探知魔法で警戒しながら進む。しかし一向に魔物の気配はない。

 そっと1歩進んだ、次の瞬間。

 大地を踏みしめたはずのユナの右足が、地面を通り抜けた。氷柱のような鍾乳石が崩れ、ユナと共に地下空間へ投げ出される。


 ガラガラと崩れる鍾乳洞の中で、ユナは浮遊魔法を展開した。

 時折ガラスのように煌めく鍾乳石が、ゆっくりと落下していく。

 そこは、この世のものではないほど——美しかった。

 ひんやりとした空気が、ユナを包む。煌めく破片は最奥まで落下して、虹色に輝く湖に音もなく沈んだ。


 ふわり、と魔法を解いて着地する。

 魔法の反応を感じて、湖に足を踏み入れた時——



 水中から、半透明に輝く手のひらサイズの鏡が浮き上がった。

 

「アーティファクトだ……!」


 中身を調べようと、ユナが手持ちの鑑定のアーティファクトを起動しようとした時。


 目の前の鏡が、未来を写した。

 白金の長い髪にペリドットの瞳を持った美しい少女が、こちらを振り向いた。時が、止まった気がした。

 ユナは思わず手を伸ばす——

 

 だが彼女は、ユナの手をすり抜けて、戦火に飲み込まれて消えた。


 

「ハッ?! はぁっ……は、クソッ、夢か」

 

 布団をはねのけて起き上がる。嫌な汗をかいていた。

 肩で息をしながら、ふと横を見れば夢の中で見た少女——カフカが規則的な寝息を立てていた。

 無意識に止めていた息を吐く。


「こっちが、現実だ……」


 ユナは、隣で丸まって眠るカフカを起こさないように、そっと撫でた。

 彼女はうんうん唸って身じろぎすると、寝返りを打ってユナに背を向けてしまう。


 思わず頬が緩む。

 彼女はあんまり寝相が良くない。公爵家で一緒に寝ていた頃、子供の姿だったユナは夜中何度か蹴られてベッドから落とされたこともあった。


 ——こんなに、小さかったんだな。

 

 彼女と出会ったばかりの時、ユナはカフカより背が小さかった。なのに今、カフカはユナの腕にすっぽり収まるほどに小さい。

 彼女は、こんな小さな体でずっと耐えてきたのだ。たった、ひとりで。

 


 そっとベッドを抜け出して、部屋を出た。

 小屋の外に備え付けたシャワーで、冷たい水を被る。動揺が、汗と共に流されていった。


 手のひらをかざすと、『未来視の鏡』を呼び出す。

 半透明の鏡は、水滴を反射してキラキラと輝いていた。


 反射の最中に、カフカの顔が映る。


 ユナの手を引いて駆け出す笑顔。


 そして鏡は次の瞬間、戦火の中で横たわるカフカの冷たい顔を映し出す。


「……まだだめだ。まだ、未来は変わってない……クソッ」


『未来視の鏡』——それは、この世界の辿る、最も可能性の高い未来を映し出すアーティファクト。

 しかし映像は断片的で、未来に至る過程は一切映さない。


 だが、絶望にはまだ早い。

 ユナの前世、カフカの最期しか映さなかった鏡は、今や笑顔のカフカを映している。


 まだ、変えられる。

 ——俺は、絶対カフカを死なせたりしない。

お読みいただきありがとうございます!


続きが気になっていただけたら、評価、ブックマークして頂けるととてもとても励みになります……!


明日は、19:00、20:00、21:00に3話投稿予定です。

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