2-6 領主邸De良い話
「……で、今日は何の用で来たんだ?」
「ちょっと良い話を持って来たってところかな。それに関連して、ライくんも一緒に連れてきた感じだね」
「良い話、ねぇ……ライトは、オークションぶりだな」
「はい、少しぶりですね、ウルスさん」
(いや何で、父上もギルドマスターもライトさんも、あんなことの後で平静で話してるの?)
気まずい遭遇の後30分くらいの間を置いて、ムルング親子が戻ってきた。
何かが起きたかなんて、全く顔に出さずに互いが会話を始める。唯一イレーヌだけがこのような時の正しい対応を学んでいないからか、対応出来ていない。
まあそこら辺は人との関わり合いの経験の差だろう。イレーヌ以外面の皮が厚いのだ。
「お前さんには、手を出していないようで安心したぜ。あのゴミ公爵、いい歳してガキみたいなこと宣いやがってよ。本当に疲れたぜ」
「トリスさんも同じようなこと言ってました」
「そうか、トリスの方も上手くやったみたいだな……さて、御託は此処までとしようか。ソヨ、良い話というのを聞こう」
デーウルスの雰囲気が変わり、辺境伯爵に相応しい威厳が溢れ出し始めた。流石は、辺境伯なだけあるなとライトは感じた。
だが別に、威圧されてはいない。この程度の圧などヨルに比べたら、月と鼈だからだ。
「率直に言えば、ライくんが色々な魔物の素材提供するから、良い感じの家を貸してあげてくれないって話だね」
「え?……あ、まあ大丈夫ですけど」
「話通って無いのかよ……それにしても、魔物の素材提供か……」
「んま、私も風の噂なんだけど、ライくん色々凄い素材持ってるらしいじゃん」
「俺もレーヌから聞いたな。エガルチュアの甲殻を使った矢を貰ったって、あと此間フーリンが阿修羅土蜘蛛の脚を納品してきたとか言ってたし……どうなんだ?」
―――閲覧・巳蚓魑
部屋に居る者の視線が突き刺さる。ライトは、ソヨが何をしようとしているかを理解して、今一度巳蚓魑の中身を悟られないように確認する。
ウィンドウ自体、ライトにしか見えてないので、変に視線を動かし過ぎないようにするのに苦労した。
「特災の素材は幾らかありますね。阿修羅土蜘蛛、エガルチュア、あと『ヴィグラーヌ』と『天蓋公海月』くらいでしょうか、時間さえあれば、他も準備は出来ます」
「……凄いな……どいつもこいつも何十何百何万の命を容易く刈り取る怪物だぞ?」
「ほ~ん、嘘じゃないね。流石ライくん、もっとランク上げても良いかもしれない」
「ライトさん、本当に凄いのね」
「それほどでも……」
(本当に無いんですよねぇ……全部ヨルが倒した奴ですし)
やはり、他人というか他蛇の功績を自分のものとして口にするのは、複雑且つあまり良くは無い気分のようで、例えそれが自分のものにして良いとしっかり直接言われていても、真っすぐ言い切ることは出来ないようだ。
あと、未解説の残り二つの特級災害指定生物もエガルチュアと同様に、ヨルの腹を満たす為に狩られた魔物となっている。
ヨルの食欲と胃袋は、何処かの桃色の悪魔並みに底なしなのである。
「それだけの物が提供出来るんなら、こっちから頼みたいくらいだ」
「なら、交渉成立だね。良かったね~ライくん」
「ありがとうございます、ウルスさん」
「気にするな、うちは『大迷宮』があるから装備は良い物を準備したい。それに、良い素材は金になる。俺としてはどうでもいいが、辺境伯として見栄を張らなければならないときもあるからな」
「そう言うならば、気にしないことにします」
「おう、そうしろ!で、家に関してだが、流石に今日中とはいかない。明日には、必ず準備するから、明後日もう一度此処に来てくれ」
「分かりました」
ふう、と安堵からライトは一息吐いた。
ヨルやミスティアナに言った手前、駄目でしたと言うのは本当に嫌だったからだ。やはり、男たるもの好きな相手の前では見栄を張りたいものであるからに。
「このまま帰っても良いんだけど、ウルス、時間あるならちょっと話そうよ。会うの結構久しぶりだし、ラビルについて、あとこの間の襲撃についてもさ」
「なるほど……今日は、そこまで急ぎのものもねぇしな。良いぜ、ソヨ。ライトも少し休んでいくと良い、娘も居ることだしな。冒険者の先達としてアドバイスでもしてやってくれ」
「分かりましたよ、ウルスさん。よろしくお願いします、イレーヌさん」
「こ、こちらこそよ」
良い話が一段落したところで、話し合いが二つの組に分かれる。
ソヨとデーウルスは、先日の襲撃に関して大人同士の裏の会話をするようでソファーから窓際の丸型の机へと移動してから、恐らく隠蔽用のオルゴールのような魔道具を起動する。
「と言いましても、話のネタがありませんね……」
「う~ん、冒険者としてって言っても難しいし……あ、良い物があったわ!」
「何かあるんですか?」
「ええ、とても良いのがね。ちょっと待っててくれるかしら?」
「幾らでも待ちますよ、行って来てください。急がなくて良いですからね」
「それじゃあ少し失礼させてもらうわね」
簡素だが落ち着いた可愛さの服を翻しながら、急ぎ気味にイレーヌが応接室を出て行く。
それを見送ったライトは、少しだけ温くなった紅茶を口に含み、妙な渇いていた口内に潤いを与える。
砂糖を入れたためか、仄かな甘みが口の中に広がり、精神を癒す。
紅茶を喉の奥へと流し込んだ瞬間には、既に応接室の外から足音が近づいてきていた。
ガチャリと音がして、勢い良く扉が開かれる。そこには当然イレーヌが居り、少し息を切らして頬を染めているのが目に入る。
「いや、早過ぎじゃありません?急がなくて良いって言いましたよね?」
流石のライトも、イレーヌの移動の早さにツッコまざるを得ない。絶対に、全く、急ぐ必要が無いからだ。
「でも、お客様を、待たせるのは、良くない、わ…ハアッ、ハアッ……」
「微妙に納得できませんね……はぁ、もう良いですから座って息を整えて下さい。立たれていると何か申し訳ないので」
「ふぅ…心遣い、感謝するわ……」
深く息をしながら、イレーヌが対面のソファーに座り直。そこで始めてライトは、彼女の持っている本に目が行く。
黄色と青色を主体に装飾された一抱え程の大きい本、厚さも広辞苑くらいある。表紙には『稀少魔物図鑑』と"そのまま"書かれている。
イレーヌはその本をテーブルにゆっくりと置く。
「それが、本当にさっき言っていた良い物ですか?……何処かで見たことあるような……」
「それもそうだと思うわ。だってこれ、オークションで落札したものだから」
「ああ、だから見たことあるんですね……確か、説明は異世界の言葉で書かれた魔物の図鑑だと思われるもの。でしたっけ、挿絵があるから予想は出来るが、解読は出来ていないって言う」
「ライトさん、記憶力も良いのね。その通りよ、私、この手の図鑑とかは好きだから、つい落としてしまったのよ。でも本当に何にも読めなくて困っているの。ライトさんなら、分かったりしないかなって」
「僕も異世界の言葉なんて、流石に分かりませんよ」
期待は嬉しいが、無茶なことを言ってくれる、と内心思うライト。
テーブルの上に置かれた本を自分の方に向けて、ライトは何気なくそこに書かれている文字を読む。
「『稀少魔物図鑑』そのままな名前ですね、もう少し捻りを加えても良いのでは?」
「――え?ライトさん今なんて言ったの?」
「ん?『稀少魔物図鑑』ですけど。表紙に書いてるじゃないですか、そのまま」
「読めるの?この文字が、私はこれから読めないのだけど……」
「いや、こんなに普通に書いて……」
自分を驚愕の顔で見つめるイレーヌを前にして、ライトにある推測が思い浮かんだ。
それを確かめる為に、ライトは口を開く。
「もしかして……」
―――表し見る探蛇
◆投稿
次の投稿は11/7(月)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
□■□■□
◆技解説
蛇王蛇法技録
表し見る探蛇 使用者のステータスを表示する 他者へ隠蔽効果あり
◆蛇足
語り部「蛇王、食欲強すぎじゃない?」
蛇の王「いや、お主よく考えてみよ。我、本来の姿は山脈と見舞う程のサイズの蛇ぞ。幾ら人化で食べる量が減ってると考えても、常の者よりも多く食べるのは普通ではないか?」
語り部「……成程、そう考えることも出来るのか……待てよ?そもそもヨルの人化ってどういう原理なんだ?何らかのチートスキルを使ってるとしても、あのバカ質量が少女サイズまで小さくなるって、エグくない?」
蛇の王「そこはそうだな、ギュッ!と圧縮されておるんじゃよ。まあそれで特段性能が変わる訳ではないがな。小回りが利くくらいじゃ」
語り部「いや全く意味が分からねぇよ。生物の身体で圧縮って何だ圧縮って」
蛇の王「はぁ、細かいことを気にする男は嫌われるぞ」
語り部「全然細かいことじゃないんだがっ!?」




