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2-5 領主邸Ni到着





「は~い、到着だよ。早かったで――ありゃ?」



 停止したが故に一気に不快感が解放され、更には歪曲した視界がライトの脳を揺らす。



「うぷっ……じ、地面に、降ろして、ください……」

「――~!?ライくんがグロッキーな感じにっ!?」



 降ろされたことで消えた浮遊感。敷き詰められた石レンガの地面の冷たさを全身で感じながら、腹の内から込み上がって来る嘔吐感を抑え込む。

 ライトがこんな風になった全ての原因は、ソヨにある。



「うぐぅ、気持ち…悪いぃ……」

「んと、えと、どっどうしよ、何すれば良いんだろ……」



 地面に倒れ伏すライトを前にして、オロオロとするソヨ、あまりこのような状況には慣れていないようだ。逆に慣れていても困るが。

 そんな、どうしようもない状況を見かねてか、足音が近付いて来る。



「――何、してるのかしら」

「んぇ?」

「あ!?」



 声を掛けて来た彼女の頭の上では、赤い狼の耳が跳ねていた。






「――いやぁ助かりましたよ、本当に。お蔭で、"領主邸"の前で吐くという一生の恥を搔かなくて済みました」

「というか何で吐きそうになってたのよ。アタシはそこが気になって仕方ないわ」



 目の前のソファーに座り、紅茶を飲んでいる優雅な少女。初めて会った時とは全く異なる雰囲気の彼女の名は、イレーヌ・ムルング。

 ソヨが連れて来たのは、ラビルにある領主邸、デーウルス・ムルング辺境伯の邸宅、つまりはイレーヌの家だ。



「ソヨさんが僕を脇に抱えて、とんでもない動きで移動したせいですよ。途中で視界がぐるんぐるん回転して、もう本当に気持ち悪くなりました。絶対に要りませんでしたよね?アレ」

「えへへ~、いやちょっと楽しくなっちゃってさ……その、ごめんね、ライくん」

「はぁ、もう済んだので良いですよ…全く」



 ギルドの執務室の会話の後、ソヨと出掛けることになったライトだが、外に出た瞬間には既にソヨに抱えられていた。そしてそのまま店の壁を駆け上がり、ネットでよくあるパルクールの動画並のアクロバティックな動きで、ソヨはライトを領主邸に連れて来たのである。

 その結果が、冒頭のライトの惨状ということになる。



「ライトさんそんなにギルドマスターと仲が良かったのね、驚いたわ……いえ、ライトさん程の実力なら当然かしら?」

「まあ色々と縁がありまして、それより僕はイレーヌさんがソヨさんと普通に話してることの方が驚きですね」

「アタシだってギルドに所属してるんだから、少しくらい会っていても可笑しくないでしょ?でも、アタシの場合は辺境伯家(うち)としての関わりの方が多いんだけどね。ソヨギルドマスターは、ラビルの冒険者の元締めって言っても良い人だから。父上に話をしに来た時にちょっと会ったりしたのよ」



 ライトは、今の言葉から辺境伯令嬢であるイレーヌが何故、知られずに冒険者として活動出来ているのか分かった気がした。

 紅茶と共に出された苺のショートケーキをパクついてるソヨに視線を向ける。



「もしかして、イレーヌさん達が冒険者として活動できるようにしてるのって、ソヨさんですか?」

「ん?ああ、そーだよ。辺境伯令嬢が冒険者やってるなんて、貴族共にも冒険者にも知られたら色々と面倒なことになりそうだしね。特に冒険者なんて危険が多いから色々と制限を掛けたりして安全且つ秘密にしてるの」

「やっぱりですか……」



 あっけらかんとして言うソヨに、ライトは世の中色々入り組んでるなぁ、と漠然と思うのであった。

 一段落が着いたというところで、イレーヌが本題に切り込む。



「さて、ところで今日は何でライトさんとギルドマスターは、うちに来たのかしら。何の用も無いなんてことないでしょう?」

「ああ、そうですね……で、何の為に来たんですかソヨさん」

「ライトさんは知らないのね」

「だって僕、同意しましたけど、移動は完全に拉致でしたし、話を聞く暇が無かったんですよ」

「あはは、ごめんて。今日此処に来たのは、ウルスとちょっと良い話をしようと思ったからだね。だから、イレーヌちゃん、ウルス呼んできてよ」

「はぁ、アタシはメイドでも執事でも無いんですけど……ギルドマスターには恩があるので、呼んできます」



 とぼとぼと、少し不満を滲ませながらもイレーヌは、部屋を出て行った。デーウルスを呼びに行ったのであろう。

 応接室であろう部屋は、ライトとソヨの二人きりになった。



「ウルスさんに良い話とはどういうことですか?」

「それは、ウルスが来てからのお楽しみだよ」

「ソヨさん、そればっかりですね」

「ライくんは良い反応してくれるから、ついやっちゃうんだよ」



 そう、にへら~と笑うソヨは、とても可愛い。



(しっかりしているようで、所々緩い感じがまた親しみやすくて、凄く気が楽です)

「……何ライくん、こっち見て」

「いえ、何にもですよ」

「え~?そんなこと言ってさぁ、このソヨちゃんに見とれてたんじゃないの~?」

「何故急にそんなウザ絡みを――ってくっつかないでくだっ!?」



 突然、距離を詰めてライトにくっつくソヨ。ライトは、ソヨがくっついてきたことにより触れた二つの豊かな果実の潰れる感触で、顔が即座に紅く染まる。

 ニヤニヤと"良い"笑みをソヨが浮かべていることから、これは企みであることが分かる。



「ライくん、意外と初心(うぶ)だね。本当に可愛いよ、トアが気にしちゃうのも理解できる」

「いや、何で抱き着いてっ――離れっ」

「嫌~だよ。離れてあ~げない」

(だから、何なんですか!抱き着くのが流行ってたりするんですか!?然も離れないのもセットで!然もソヨさんに関しては、力が強すぎるっ!?全然力でも引き離せない!)



 連日抱き着かれている(然も中々離れない)ライトは、心の中で悪態を付く。

 抱き着いてソヨから良い匂いがしてきて、上手く力が入らないのもあるが、それを抜きにしてもソヨの力が強すぎて、ライトは全く離れることが出来ない。



「ちょ、来過ぎですって、倒れっ――」

「おわっ――」



 遂には、ライトがソヨに押し倒されようにして、ソファーに寝る形になる。押し倒されているので、当然上はソヨだ。

 先程よりも体が密着し、ライトの心臓が大きく跳ねる。



「ライくん、ドキドキしてるね」

「だから、近いで――あっ」



 更に、ソヨがライトに迫ろうとした瞬間、ガチャリと音がして、応接室の扉が開かれる。



「――ソヨ、突然来るなんてどう、し…たぁ……」

「――え?え?」



 空気が凍りつく。ライトを押し倒しているソヨを見た、入って来たデーウルスが静止し、続いて入って来たイレーヌは、二人を見て混乱している。当然の反応と言える。



「……その、済まんかった。一旦出直すわ、行くぞレーヌ」

「えっ、父上――」

「――ちょまっ、待って下さいぃーー!?ウルスさーん!?イレーヌさーん!?」



 ライトの悲痛な叫びも無駄に終わり、無情にもガチャリという音が再度部屋に響いた。



「……ふふっ、ウルスも気を使えるようになったみたいだね」

「使ってほしくんかったですけど……何か変な方向に捉えられてそうなんですけど」

「私は全然いいけどね」

「僕が良くありませんっ!!」



 今日も今日とて、ライトは不運のようである。



◆投稿

次の投稿は11/4(金)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「ライトに女難の相が見えるぞ!」

蛇の王「女難より災難じゃろ、問題ばかりがこれからもライトの周りで起こるじゃろうしな」

語り部「よく作品であるが、問題が起きて主人公が解決するやつさ、あれもう主人公が解決する為に問題が起きてる感じの偶にあるよね」

蛇の王「この作品もそういう風になるのかのう?」

語り部「半々ってとこ。そういう展開になることはあるが、この作品は主人公の周りで問題が起こる根本の理由というものが明確に準備されているし、主人公が解決することになってしまう根本の理由も準備されてるし、無理やりなこじつけや偶然にならないようにしているからな」

蛇の王「変なとこで丁寧じゃよなぁ」

語り部「この作品は、可笑しさや不自然の無理の無い正当化を目標と基本にして作られてるから当然だ。それに、んなこと言っておきながら、二つの理由どっちも蛇王関わってるじゃん」

蛇の王「我、知らんし」



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