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2-4 家Ga欲しい





「――ライトッ!家を買わぬかっ!」



 ミスティアナと契約して三日経ったある日の昼時、突如としてヨルがミスティアナに文字の書き方を教えているライトにそう言った。

 


「……何です?急に」

「だから、家を買おうと言っているのじゃ。我、家欲しい」

「家、ですか……」



 何故唐突にそんなことを言うのか、ライトは理解出来ない。それは、ヨルが家を持つような質(たち)ではないことを思い知っているからだ。



「どうして家を買う必要があるんですか。今のままでも充分でしょうに」

「そうなのじゃが、我もっと広い部屋で動き回りたいのじゃ」

「魔法で何とでもなりますよね?」

「じゃが、これまでのような訓練は流石に出来ぬぞ?ミスティアナの戦闘訓練もあるのじゃし、我が自由に出来る広い空間が必要だと思うぞ」



 そうして、長々と力説された結果、ライトは家があっても良いかな、くらいには心を動かされた。

 だが、思ったよりもそれが簡単ではないことが予測できるが故に、悩んでいる。



「でもですよ?ラビルにそんな家というか土地、ある訳無いと思いますけど。ラビルは大迷宮(ラビリンス)のスタンピードに備えて高い外壁で囲まれています。その中の土地はもう殆ど買われてますよ。残ってるのは何かしら問題のある場所だけです」

「そうなんじゃよなぁ……」

「それに、僕達は旅をしているんですから、いつかこのラビルを出ます。家買うなんて無駄な出費と言わざるを得ませんよ。唯でさえ今はお金が無いんですから……やっぱり止めた方が良いと思います」

「むむむぅ……」



 土地なし、金なし、問題あり。世の中、何事もままならないものである。

 唸ったヨルは、何か思いついたかのようにベットから立ち上がり、ミスティアナをそーっとライトから離す。



「ヨル様、何を――」

「――良いから、少しこっちに来るのじゃ」

「…………何でしょう、嫌な予感が……」



 ひそひそとライトに聞こえないように、何かを伝えるヨル。それを聞いたであろうミスティアナが、珍しくもハッとした表情をしているところがことの大きさを伝えており、ライトは不安で仕方が無い。

 直ぐに話が終わったのか、ゆっくりとした足取りで、ミスティアナだけが近付いて来る。

 嫌な予感はするが避けることも出来ないので、ライトは酷く重い心の中、どんな言葉が出てくるのか待った。



「……マスター、私、家が欲しいですっ」

「――&j$wぇbあ%dぃ!?」



 ぎゅっとライトを抱きしめて、誰から教わったのか明白な上目遣いで、甘くお願いするミスティアナ。

 言語として聞き取ることが出来ない言葉を発しながら、ライトは顔を逸らす。効果は抜群だ!



「……ヨル、王として恥ずかしくないんですか。私欲の為に、他人にこんな物乞いみたいなことさせて」

「顔をこっちに向けてから言うのじゃ」

「いや、それはちょっと……」



 顔を逸らしながら、至って冷静な声でヨルを非難するライト。だが顔は真っ赤だからか、絶対に二人の方には向けないようにしている。

 そんなことライトの心情を全く読めないミスティアナは、全然抱き着いたままだ。

 服越しに伝わる体温と柔らかさが、主人の思考を鈍らせる。



「マスター……」

「…………」

「マスター」

「…………」

「マ・ス・ター」

「……うぬぬ……」

「…………」

「…………はぁ、僕の負けです。一旦ミスティアナさんは離れて下さい」

「分かりました、マスター」



 根負けしたライトは、策略と理解しながらも家を買うことにした。

 ミスティアナが離れ、熱が抜けることで心が安寧を取り戻した。同時に顔の赤らみも戻ったので、ヨルをキッと睨む。



「全く、本当に狡猾な蛇ですよ……今回は引いてあげますけど、次は覚悟しておいてください」

「くくっ、我は蛇の王じゃからなぁ、狡猾でなければならぬのよ」

「はぁー……ところで、ミスティアナさんは、ヨルに何を言われたんですか?結構な勢いでしたけど……」

「それは……」



 珍しく、ライトの言葉に対してミスティアナは言い淀んだ。いつもは、ほぼノータイムで何でも答えるのだが……。



「答えにくいんですか、一体何を――んえ?」

「…………」



 ヨルが何を言ったのか問いただそうとしたところ、再度無言でミスティアナが抱き着いて来る。

 そして、即座にまたライトは顔を逸らした。



「何でまた抱き着いて来てるんですか?」

「一旦離れてと、マスターが言ったからですよ?一旦ということは行動を再開する必要がありますから」

「……はい、そうですね」

(天然が過ぎるのではなかろうか?……どちらかというと常識が欠けているが故の行動というところでしょうか。どちらにせよ、滅茶苦茶に恥ずかしいことに変わりはありませんね)



 ミスティアナの行動に思考が塗りつぶされ、ライトは疑問を忘れてしまった。


 その後、中々離れないミスティアナに苦戦し、時間が流れて行ったのである。



◆◇◆





「――と、言うことで、家が欲しいんですよ」

「何がということで、なのか全然分かんないよ、ライくん」



 翌日早朝、ギルド会館のギルドマスターの執務室に来た=ソヨに会いに来たライト。

 ヨルとミスティアナは来ていない。今は宿屋で色々とヨルがミスティアナに教えているだろう。


 さて、突然話の繋がりも無く、部屋に現れて上記の言葉だけを言ったライトに、ソヨはツッコむ。



「過程は置いておいて、結論として今僕は家が欲しいんです。ソヨさん」

「過程がとても聞きたいけど今はいいことにしてあげる。けどさ、ライくん"お金無い"よね?それも借金もしてるし、私に」

「うぐっ……」



 執務机で何やら資料にサインしているソヨからの鋭い言葉のパンチがライトを襲う。というか、当然と言えるような返しである。

 因みにだが、ソヨのライトの呼び方はトアと被らないようにライくんとなった。



「幾ら私とライくんの関係で、特別にある分のお金を取らないで返済に猶予を持たせているとはいえ、その間にまたお金を使うというのは、少し私は肯定しかねるよ?」

「あ、ぐ……」



 余りにも真っ直ぐな瞳を向けて投げられたド正論は、昨日の楽観思考を容易くぶち壊す程に強い。

 

 今の話に出て来た、『返済に猶予を持たせている』というのが、前話でライトが服を大量買い出来た理由。オークションでミスティアナを買う為にソヨにお金を借りたライトだが、ソヨが特別に今あるお金を取るのを止め、全て新しい稼ぎから返すようにしてくれたお蔭でライトの手元に現在お金が残っているのだ。

 だが、お金が残っているだけで、借金は全然残っている。なのに、この男あんな馬鹿みたいな買い物したのである。



「けどまあ、ライくんなら本気出せば意外と簡単に返済出来そうではあるけどね。ライくん強いし」

「そ、そうですか」

「でも、やっぱり難しいんだよね~そもそもが。もう家も家を建てれるような場所なんてこのラビルには残って無いし、ラビルを広げると言っても年単位の作業になるだろうし」

「やっぱりですか……」



 昨日ライトが考えたことそのままの問題が、やはり立ち向かう。もう諦めるべきでは?

 と、そんな諦め思考に入ろうとした途端、ソヨがニヤリと笑う。

 


「でも、手が無い訳じゃないよ?」

「本当ですかっ!?」

「うん、ライくん、今日この後予定空いてる?私とお出かけしようよ」

「お出かけですか?予定は無いので良いんですけど……何処へ?」

「それは、着いてからのお楽しみ」



 そう、兎は愉しそうに笑う。



◆投稿

次の投稿は11/2(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「住むなら断然平屋だろ!」

蛇の王「突然なんじゃ?じゃが我は住むなら城がいいが」

語り部「はぁ、蛇王は分かってないぜ。城なんて高低差がある、つまりは階段があるから腰が痛くなるだろ。平屋程腰に優しく、贅沢な土地の使い方した家は無いんだよ」

蛇の王「お主、腰なんて気にするないじゃろが。それに平屋は、高くないから窓から見える景色が悪いではないか!」

語り部「何を――」

蛇の王「何じゃ――」


妙なこだわりの強い家に関する言い争いが、しばらく続いた。

作者は、快適だったら何でも良い派です。



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