2-3 山積みNa問題
「――のう、ライト」
何か良い感じに纏まったようなライト達に声が掛かる。クッキーを貪っていたヨルが、ライトの方を向いているのだ。
意識をミスティアナから、外界へと引き戻す。
「何ですか?ヨル」
「少し席を外してくれぬか?ミスティアナと二人"だけで"話したいことがるのでのう」
チラリとミスティアナへと目を向けてから、ヨルは言う。
"だけで"という部分を強調している所から、ライトは何か秘密にしたいこと且つ大事な話をするのであろう、と推測した。
すると、今度はミスティアナがヨルを見てから言う。
「マスター、私からもお願いします。この機会に、ヨルムンガンド様と話してみたいですから」
「いやいや、別にお願いされなくても、それくらいは普通にしますよ。ヨル、話が終わったら念話でお願いします」
「分かったのじゃ」
話を終えて立ち上がり、速やかにライトは部屋を出た。
廊下は、部屋の中より少しだけ室温が低く、身体を冷めさせる。
「……む?ヨル、結界張りましたね。まあする気は無かったですけど、盗み聞きが出来なくなっちゃいました」
扉を閉めた瞬間に、消えて失せた気配からヨルが術を使ったのに気付き、別に残念そうでもないような反応を一人でした。
特にすることもないので軽く外にでも行こうと、ライトはロビーへと移動した。そうしたら、受付に居たいつも通り元気が漲っているフラスコがライトを呼ぶ。
「ライトさん!」
「何ですか?」
「ちょっとお時間宜しいです?」
「別に良いですけど」
(何だろう、部屋や支払いに関して問題でもあったっけ?)
自身の過失を考えながら、フラスコへと近づく。だが、フラスコの溢れる笑みからは、正直微塵もそんな話をする気配は感じられない。
「あの連れてきた白いお嬢さんが、ライトさんの言っていた人ですか?」
「そうです。ミスティアナさんと言います。まあ、立場的には僕の奴隷という感じになりますね」
「ライトさんも住み置けませんね!あんな可愛い女の子の奴隷を連れるなんてぇ」
少し意地の悪い笑みを浮かべながら、ミスティアナを連れてきたライトをおちょくってくるフラスコ。
内心面倒くさいと思いながらも、ライトはそれを顔には欠片も出さない。そこでふと、ライトは閃いた。
「そんなことより、聞きたいことがあるんですけど」
「え〜、私もっとミスティアナさんの話聞きたいです!」
「ミスティアナさんの話ではありますよ。女性であるフラスコさんに聞くのが、丁度いいと思いまして。ずばり、女性用の服を売ってる良いお店ってありますか?」
ミスティアナの服についてだ。ミスティアナは、現在進行系で白いドレスとトリスが支給してくれた灰色のローブしか着ていない。
魔法で綺麗にできると言えど、ずっと同じ服を着るというのは色々と良くないとライトは考えた(自分のことは棚に上げて)。
だからこの空き時間で服を買おうとした、のだが如何せん女性用の服の店など知らない。ということで、目の前にいた女性に聞くことにした。
「おー!あの子の服ですね!それなら良い店を知ってますよ。名前は――
◆◇◆
――んあ?話が終わった?」
<そうじゃ、そう言った。もう戻ってきて良いぞ>
「ああ――分かりました)
数時間が経ち、買い物中のライトに念話が飛んでくる。少し驚き、口に出してしまったが即座に思考で返す。
手には白系統の大量の女性物の服が……。
(ん〜困りましたね……うん、"全部"買いますか)
「すみません。これらの服、全部買うので会計お願いします」
「え!?――あ、ありがとうございます!」
この黒尽くめの青年、先日今買った服を着る少女の購入で借金した。のだが、金が何故かある。これはどういうことだろうか?
まあ、今は分からないが多分法外なことでもしているのであろう。
ライトは、店員から渡された服達をまとめて巳蚓魑に仕舞い込む。
『ご来店ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております』
(どうして大勢で?……沢山買ったから、なのかな?)
店員達の輝いた笑みを背に、ライトは店を出た。
少し傾いた太陽が視界に入り、時間を知らせる。
(少し急いだ方が良いかもしれませんね)
「……我求めるは加速、我が願いの内、我が身を星と化せ」
《黒剛彩王-偽詐術策-聡明》
―――天級無魔術:流星の如く
煌めきが包み、力が注がれる。ライトは、溢れる力のままに、その足で地を蹴った。
吹き荒ぶ風を置き去りにして、黒き影が突き進む。
多分、此処までは必要ないと思われる。
時間にして一分も経たない間に、ライトは戻ってきた。
「――はい、戻ってきましたよ。ヨル、ミスティアナさん」
「早いな、あの距離ならば、もう少し掛かると思ったのだが」
「お帰りなさい、マスター」
「それで、話し合いは終わりました?」
「うむ、滞りなく終わった……のだが、問題が出てきた。それも山として積める程の量がな」
「問題、ですか」
向かい合ってクッキーを食べていた二人が、ライトの帰還に反応する。そしてヨルは、珍しくド真面目な顔で「問題がある」と告げた。
ライトは、特に問題があるようには思えなかった為に、全く頭が働かない。目の前でクッキーを食べている姿からは、欠片も問題を感じれないからだ。
「第一の問題は、ミスティアナは味覚が機能していないということじゃ」
「え?じゃあなんで、クッキー食べてるんですか?味覚が機能してないなら、こう言うと悪いですけど無駄では?」
「ああ、何故かこの"ライトが作ったクッキー"の味は感じることが出来るらしい」
今までヨルが食べていたクッキー、実はライトが作ったものである。好きな時に食べられる物が欲しいというヨルの要望に答えて、可笑しいことに巳蚓魑の中に丸々入っていたキッチンと素材を使って、セイク商会との旅の合間を縫ってライトが作った。
大量に作ったので、ヨルが時々食べていても全然減っていない。
「恐らく、ライトが触れたら感覚が戻るように、ライトが作ったり触れた食べ物は五感が機能する用になるのではないかと思われるのじゃ」
「なるほど……」
「それ以外は、味覚が機能していないらしいがな」
「それは難しい問題ですね」
纏めれば、ライトが居なければ食事というものが行えないということである。
現状では、全く解決策が思いつかない点がこの問題を更に難しくしていた。
「第二の問題は、ミスティアナが字を書けないということじゃのう」
「そうなん、です…か?あれ?でもミスティアナさん、話せますし読めますよね?」
「はい、そうです」
「それと、書けるかどうかは別問題じゃろ」
「確かにですね」
「これに関して、ライトと我が教えることで何とかなるだろうがな」
解決方法がある程度確立されている問題は、ライトの心を少し軽くした。それも当然、この先アレコレと考える必要が無いのだから。
「第三の問題、これが一番大きく更にはライト自身に解決して貰わなければならない問題じゃ。何と、ミスティアナは『自分で着替えが出来ない』のじゃ」
「はえっ!?」
それは、思考が停止する声。ミスティアナに視線を向けながら、まるで石かのように固まったライト。
そのまま数秒の沈黙と静止の後に、ライトは動き出した。
「……考えても仕方ありませんか。そうだと言うならば、それ以上でも以下でもないんですから」
埒の明かない思考を投げ捨て、覚悟を決めたのだ。
「それでこそライトじゃ」
「すみません、マスター」
「別にミスティアナさんのせいではありません」
これは紛れもない本心である。自身と同じように、特異に生まれたが故、仕方がないことなのだと、ライトは思った。
生まれもったものは、変えることなど出来ない。
「……でも因みになんですが、セイク商会ではどうしていました?」
「商会員の方々がしてくれました。トリスさんが色々と取り計らってくれたようで」
「ふむぅ……ヨル、一つ良いですか?」
「なんじゃあ?ライト」
「さっき、自身に解決して貰わなければならない問題って言ってましたけど、どうしてですか?ヨルが、してくれれば問題無いじゃありませんか」
自分の中に浮かんだ疑問をヨルに問うと、とんでもなく嫌な予感が襲ってくる。浮かべている笑みが、更に不安を煽る。
「ミスティアナは、ライトの所有じゃろ?我が何かするのはお門違いだと思わぬか?」
「……では、何ですか。僕がミスティアナさんの着替えをやれと?男の僕が?女のミスティアナさんの?」
「そう言っておるのじゃ」
「…………」
ライトは膝から頽れた。きっと此処が宿屋でなかったら、子供のようにじたばたとしながら騒いで、言葉にならない思いを叫びに変換していただろう。
だが、残念ながら此処は宿屋であり、そんなこと出来る筈もない。煮えたぎるような思いを精神の全力をもってして抑え付けた。
(こんの、最強変態遊び人がぁ――――!!!!!!)
逆に思考では何時にない程の口の悪さと勢いで、ヨルを罵倒し続けていた。
ライトの中のヨル評価が一段階下がった。
因みに人間ではないので、遊び人というのは適切ではない、正確には遊び蛇である。
「……美味しい」
状況を理解できていないミスティアナだけが、初めて感じる食べ物の美味しさと共にその光景を眺めていた。
◆投稿
次の投稿は11/1(火)です。
◆読者の皆様へ
断わりなく、投稿を一時停止したこと、先ず謝罪致します。停止理由を簡潔に言ってしまえば、コロナで寝込んでました、という感じになります。今は完全に治りましたので、休んだ分アップテンポで投稿できたらと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
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◆技解説
天級無魔術:流星の如く 魔力を込めた時間に応じて自身の身体能力(主に速度)を上昇させる 使用時全身に煌めきのようなエフェクトあり 光源効果あり
詠唱文=我求めるは加速、我が願いの内、我が身を星と化せ
◆蛇足
語り部「いや~本当に申し訳ぇっすわ。本当に」
蛇の王「作者、身体弱すぎではないか?」
語り部「ま、仕方ないよね。僕達と違ってただの人間だし」
蛇の王「魔法でもあったら良いんじゃがのう、あっちでも」
因みに作者が一番使えたらいいなって魔法は、断然転移魔法です。




