2-2 事情No説明
「――マスター、これからどうするんですか?」
「僕が泊っている宿に行きます。ミスティアナさんの分の部屋も取ってますので、まあ僕と相部屋なんですけどね」
ミスティアナと奴隷契約を結び、その他落札した品を受け取ってセイク商会を出た。そして今は迷浪運河亭を目指して歩いている所だ。
因みに、元々ライトが借りた部屋は一人部屋だったが、この空いた一週間の間にフラスコに手続きを頼んで二人部屋に変えたのである。
「そこに着いたら、いっぱい話すことがあります。これまでのこととか、これからのこととか……」
「分かりました……ところで、この包んでいるのは何ですか?」
「あれ?分かるんですか?」
「はい、何か薄い膜のような、不思議なものに包まれているのが分かります。マスターがやってるんですよね?」
「その通りですよ……へぇ、分かるんですか……」
ライトは、率直に言って、かなり驚いた。ミスティアナの言っている、薄い膜というのは、ライトが使った幻蛇の蛇王蛇法のことだからだ。
流石に、見た目が特徴的な自分達が並ぶと色々と面倒事に巻き込まれそうだと思ったライトは、自身とミスティアナに蛇王蛇法を使って身を隠したのである。
蛇王蛇法、特に幻蛇に関しては、ある意味当然と言えるヨル以外に、詳しく確かに認識できた者が居なかった為に。
「少し僕とミスティアナさん二人で並ぶと、色の感じから結構目立ってしまいそうなので、術でちょっと隠れているんです」
「成程、分かりました……マスターの術は変わっていますね」
「まあ扱い手がいませんからね」
「そうではなく、何だか温かいです」
「温かい?ちょっと僕には分からない感覚ですね」
(天羅は、そういうのを感じれるんでしょうかね?)
自身の術を温かいと言われたライトは、首を少し傾げながらも、歩き続ける。
天羅は、神々が直接創り出したという記録が残る種族、神が特殊な能力でも付けているのだろうと予想した。答えは、案外直ぐ、且つ傍から与えられた。
<恐らくは、ミスィアナだけの能力だと思うぞ?>
(そうなんですか?)
<ああ、確かに我の知る天羅には元々備えられていた能力だが、今の天羅は一種のマイナーチェンジされているからのう。過去の天羅の力があるミスティアナだからこそ分かるのであろう>
(成程、つまりミスティアナさんが凄いという解釈で合ってますね?)
<大雑把に言えばそうじゃな>
いや、大雑把すぎる。だが、こちらの意見は届かないので、スルーさせて頂く。
ミスティアナと口で、ヨルと念話で話しながら、ライトは人のそこそこ多い道を歩いて行く。
ガチャリと、ドアの閉まる音が室内に響く。前の1.75倍程の広さの部屋へと入っていく。
「ミスティアナさん。そこのイスに座っていて下さい。飲み物を準備しますから」
「私も……いえ、分かりました」
ミスティアナを談話用のイスに座らせ、巳蚓魑から茶菓子と冷たい紅茶を取り出して、テーブルへと置く。これからする会話の為の下準備だ。
ロングコートを脱いで、椅子に掛けてから、ミスティアナと向かい合う様に座る。
「さて、話をしましょうか、ミスティアナさん」
「はい、マスター」
「……まだ慣れませんね……それよりも、これから僕のこれまでの話とこれまでの話します。ちょっと長くなっちゃうんですけど、体調とか、お腹が空いたとか、何かあったら何時でも気軽に言って下さい」
「分かりました」
「それと話の前に――ヨル、お願いします」
その言葉ともに、閃光が弾け、いつもと変わらない服装の人型のヨルが現れる。
この状況に、ミスティアナは声を上げない。いや、声を上げれない程に驚いているという方が正しそうだ。
「この人は僕の相棒兼師匠のヨルムンガンド、愛称はヨルです」
「よろしく頼むぞ、ミスティアナ」
「…………はい」
「ん?」
驚きから解放され、言葉を返す刹那、二人の間に火花が散ったような感覚をライトは覚えた。
が、気にするのを止め、口を開く。
「ヨルは、僕の話をするのに欠かせません。早くに合わせたかったんですけど、色々と込み入りましてね」
「…………」
「それでは、これから話を始めます。先ずは、僕という――」
【少年、絶賛説明中!】
「――という感じに、僕はヨルと旅を始めました。まあ、旅と言える程の時間は経ってないんですけれども」
「…………」
話すこと小一時間、ミスティアナに自身とヨルのこと、そしてその間に結ばれた契約についてなど、経緯を全て事細かに伝えた。ベットに座っているヨルは、それを聞きながらクッキーを咀嚼している。
ミスティアナは、話を聞き終わった後、数十秒の沈黙の後に口を開く。
「成程、マスターとヨルムンガンド様のことは分かりました」
「それは良かったです」
「マスター、私はこれからどうすれば良いのですか?」
曇りの無い瞳がライトを射抜く、妙な真剣みを感じる瞳に少し驚きながらも、落ち着いた様子で、ライトは言葉を返す。
「僕とヨルと一緒に、旅に付いて来れればいいです。……いや、やはりそうではなく、ミスティアナさんには付いて来るだけじゃなくて、世界を見て欲しいですね」
「世界を見る?」
首を傾げ、髪を緑色に染めて、顔には出ていない疑問を表しているミスティアナを見て、ライトは笑みを浮かべた。
尚もヨルはクッキーを齧りながらそれを見ている。
「僕も人のことを言えませんが、ミスティアナさんは、世界を全然知りませんよね。いえ、知らないんです」
「はい、きっと知らないのだと思います。特に何も感じてはいませんが、囚われて生きていましたから」
「だからこそ、僕はミスティアナさんに世界を見て知って欲しい、腐っていながらも素晴らしいこの世界を、です」
暗い世界を知り、過ごしてきたライトだが、それでもヨルや極少数の知り合いと呼べる者達が与えてくれた世界の温かさというものを知っている。
ライトは、それを真っ白な紙のように、何も知らないミスティアナに知って欲しいのだ。教えたいとも言っても良い。
「ので、僕達に付いて来るだけじゃなくて、自分で考え、自分で行動して欲しいんですよ。ミスティアナさんは、確かに今は僕の奴隷ですけど、前の状態とは違うはずです」
「…………」
「全ての自由は契約者として、マスターとして僕が保証します。だから、僕と一緒に、来てください。そして、見ましょう。この世界を」
そう言い切り、ライトはミスティアナへと手を差しだす。
嘘偽りの無い言葉と思いが、ミスティアナの色々と複雑な思いで冷めかけていた心を温め、照らす。
今言った言葉こそがそのままライトが、ミスティアナを購入した理由だ。きっかけは、一種の一目惚れに近いものであり、確かに偶然だった。
けれど、会って見てライトは彼女の無知さに驚かされた。そして、何度も会う度に、何時しか彼女に世界を知って欲しいと思うようになったのである。
自信と同じく暗い世界で生きて来たであろう彼女にも、自身と同じように明るい世界を、とそう思ったからこそ、ライトは頑張ったのだ。
まあ、それ以外にも理由が無いと言えば、嘘ではあるのだが。
ミスティアナは、ゆっくりとライトの手を取り、両手で握る。髪は、金色に染まっていた。
「……改めて、これから、よろしくお願いします。私のマスター」
「こちらこそ、ですね」
◆投稿
次の投稿は10/24(月)です。
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◆蛇足
語り部「ライトは、意外と空気読めて無いとこあるよな」
蛇の王「お主と同じじゃな、女心というものを理解できておらん」
語り部「サラっと貶されたことは無しにして、まあ仕方ないんじゃない?ライト、いつも言動の裏から考えるから、正面から考えるの苦手なんだろ」
蛇の王「若干他人不信の部分がそこにかかってくる訳か、ではお主は関係ない故に、素で人の心を読むのが苦手と」
語り部「何?喧嘩売ってるの?何でそんな滅茶苦茶言われてんの?何かしたっけ」
蛇の王「我のお菓子、減っとるんじゃが、知らぬかのう?」
語り部「あっ――」




