1-27 続・オークション
[――こちらのミスリルのネックレスは、46番の方が落札となります]
オークション開始して幾らか時間が経った、既に12程の品が落札された。その内、ライトが落札したのは三つだ。
そんなライトの隣に居る、フーリンとシュビラは押し黙っていた。非常に重苦しい雰囲気が流れている。
「…………何ですか……文句でもあるんですか?」
初めは和気藹々としていたのだが、時が進むごとに口数が減っていき、今は最早此処だけお通夜みたいな雰囲気になった。
その雰囲気に遂には、耐えられなくなったライトが、口を開く。無意識にだが少し言葉に棘が出ている。
「いや、別に文句は無いのですが……」
「……いえ、この際、ハッキリ言うのです。ライト様、"オークションが下手"なのです」
「――ぐっ!?」
誤魔化そうとするフーリンの反対側から、名剣の如き鋭さの言葉がライトに放たれた。
あまりの鋭さに、ライトは何もされていない筈なのに、胸を押さえている。……ん?精神的な痛みが凄い?よく分からないねぇ。
何も別に、シュビラは理由もなくそんな心の無い言葉を放った訳ではない。原因は、ライトの金の使い方にある。
「購入に無駄にお金を使いすぎなのです。無駄も無駄、商人なら即失格、会長でもストレートで顔面殴るくらいにダメダメなのですよ」
「――ぐふっ……」
セイク商会のオークションの形式は、ファーストプライス・オークション。
最も高い価格を入札した者が物の購入権を得て、支払額も最も高い価格になる――要するに、一番高い価格で入札した人が購入する――というオークションと聞いて、一般的に一番最初に思い浮かぶだろう、オーソドックスな形式だ。
オークションは、購入権を得なければ元も子もない。だが、それぞれ金は無限にある訳ではない、購入権を得る為に幾らでも金を使っていい訳がない。
金額が上がっていく形式では、購入権を得る以外に、如何に購入価格を低くするかというのも重要なのだ。まあ、どんな価格でも欲しいなら当てはまらないが。
「それぞれ最低落札価格10万D・50万D・100万D、その三品に全部で"5000万"Dかけるなんて、最早愚の骨頂なのです!」
「――おぐふっ……」
「確かに価格を吊り上げる、という行為は時に有効なのです。――けどっ!吊り上げ過ぎなのです!そんな高くしなくて良いのです!そもそも初手からはやらないのです!絶対に無駄なのです!」
「…………」
シュビラの連撃により、ライトの心はズタボロである。
ライトは、三品全てを初手から阿保みたいに価格を吊り上げるという方法で落札した。
そのやり方に、両隣の二人は絶えられなかったが故、空気感が悪くなっていたのだ。
しかし、ライトがそういう風にしてしまったのにも理由があり、そもの話ライトはオークションに参加したことが先ずない。次に元々金欠の日々を送っていた為、今のお金がある状態が不自然で、金銭感覚がバグってしまっている。
以上を踏まえてみると、仕方ないと言えなくもない。そして、それ以外に最大の理由と呼べるものが存在する。
それは、
(何でこんな重要な時に、"ヨル居ない"んですか!!)
師匠兼相棒兼婚約者のヨルが居ない、というものだ。
実は数日前、古道具屋 時風に行った次の日に、用事があるから数日空けると言って勝手に行ってしまった。
その時からライトの心は結構ブレブレである。ヨルという存在が、自分の中でどれだけ大きかったのかライトは再認識してから、大いに不満を漏らす。
(普段は、我の伴侶~とか言って癖に、肝心な時に居ないなんて、婚約者失格ですよ!ヨル……だから……早く、戻って来てください……)
もう、揶揄われるのとかどうでも良いからさっさと帰ってきて欲しいと思うライト。
そんなことを考えた瞬間、
<――ライトッ!?お主何をした!!>
「――ふぇあ?」
<何をしたのか聞いたのじゃ、話してくれ!>
「ヨ、ヨル?」
<ああ、ヨルじゃ。お主の伴侶にして相棒のヨルじゃ!だから何をしたか話して欲しいのじゃ!>
「え?」
ヨルの声が脳内に響く。慣れていた念話の筈なのに、ライトは驚きのあまり変な声を出し、ヨルの声に対して口に出して返してしまう。
結果として、
「ライト君大丈夫ですか?急にどうかしまたか?」
「あの、言い過ぎたのです。ライト様、しっかり教えるので、変な方向に行っちゃ駄目なのです!」
「え、ああ、すみません。大丈夫です」
「なら、いいのですが……」
「ごめんなさいなのです。ライト様はオークション慣れしてないのに、酷く言いすぎたのです。シュビラが、丁寧に教えますから、絶対に変なとこ行っちゃ駄目なのですよ?」
「あ、はい。分かりました……」
精神的に疲労して変な独り言を言った奴と思われてしまった。
フーリンは少し真剣な顔をして心配し、シュビラは悲し気な顔で心配して強く大丈夫だと言い聞かせてくる。
けれども、今のライトにとってはそんなことどうでも良い。
<どうした?ライト、問題でもあったか?>
(問題ありありですよ、今オークション中なんですけど。急に話しかけて来たせいで僕、ヤバい奴みたいな目で見られました。というか、遠距離でも念話出来たんですか?)
<当然じゃろ、我を何だと思っておる。我、蛇の王ぞ?>
(はぁ、全くヨルは……)
呆れたような思考をしながらも、ライトの口は自然に弧を描いていた。
<それにしても今日はオークションの日だったか、忘れておったわ。問題は無いか?>
(無くは無いですけど、このまま行けば多分問題無くミスティアナさんは買えます。ヨルが居ない内に色々準備したんですよ)
<ふふっ、我が居なくてもしっかりしていたようだのう。――っとそんなことよりライト、お主何かしたかえ?>
脳内に響く緩い声に、真剣みが宿り、見られている訳でも無いのに背筋を正す。
そうしながら、自分の行動を振り返る……が、特に心当たりは無い。
(特に何かはしてませんよ、座ってただけですし)
<う~む、それでは可笑しいんじゃがなぁ……この状態の説明が出来ん>
(何処に居るかしりませんけど、そっちで何か起こってるんですか?)
<んっ!?いや、何もない、何でもない、何でもないぞ。我は最強じゃから問題など起きん!>
(何か焦ってません?)
<くくっ、そんなことある訳無いに決まっておるじゃろう?>
ラヨルの声に違和感を感じる、やはり妙に焦っている様な気がした。だがライトは、ヨルが隠したいのなら突っ込まないようにしよう、と考えて追及を止めることにした。
<……成程、そういうことか>
(何がです?)
<ああ、気にするでない。そろそろ念話を切ろうと思うのじゃが……>
(また唐突ですね……)
<その前にライトは……我のこと、好きか?>
(と、突然何をっ!?)
<良いから早く答えよ>
(ぬえっ……えっ、あの……だっ、"大好き"ですよっ!!)
唯々、玩具のように遊ばれていると思いながらも、ライトはヨルへの思いを考する。
顔を赤くしながら、恥ずかしさが声として出ないように耐えていた。両隣の二人からすると、奇妙なことこの上ない。
<ふふっ、そうか。我も大好きじゃぞ、ライト。今は我が傍に居れぬが、頑張るのじゃ。帰ったら、沢山可愛がってやるからのう>
(っ~!!……もうっ!さっさと戻って来てくださいね!)
<ああ、分かったぞ>
「……ふぅ……」
思考の内からヨル気配が消える。ライトは深く息を吸い、心を整えた。たった数分の会話で、既にライトの中に寂しさは消え去った。
胸の内を渦巻いていた不安も同時に消え、顔がスッキリとしたものへと変わる。
「シュビラさん、オークションのやり方、しっかり教えて下さいね」
「?……まあ、分かったのです」
首を傾げるシュビラを他所に、ライトは柔らかく笑う。
「さあて、本番は此処からでしたね」
黒と白の再開の時は近い。
◆投稿
次の投稿は10/3(月)です。
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◆蛇足
蛇の王「我、出張中!」
語り部「言われてみれば確かに、会話に参加してきてなかったよな」
蛇の王「一体何をしているのだろうな?」
語り部「蛇王知ってるじゃん……で、お願い事はどうなったの?」
蛇の王「保留じゃ、最高のタイミングで使ってやるから楽しみにしているのじゃ」
語り部「……」(これ詰んでる奴じゃん)
語り部は、ニコニコしている蛇の王の横で絶望顔を晒した。




