1-26 オークション
「あの、えー……少しぶりね、ライトさん」
その髪に合わせた、赤いドレスを着たイレーヌが、少し目を逸らしながら声を掛けてくる。
「ええ、ムルング辺境伯令嬢、イレーヌ・ムルング様」
「ぬえっ!?ら、ライトさん、しっ知ってたの?――というかその呼び方止めてっ!むず痒いわ……」
開幕、雰囲気を和ます為に弄るライトに対して、イレーヌは顔を真っ赤にして言葉を返す。
「冗談ですよ……それと、皆さんの詳細については、迷いの木皿での食事の時に知りましたね」
「どうやってだい?」
「僕にかかれば、バレずに他人のステータスを覗くのなんて朝飯前ですよ」
「やっぱり規格外」
「色々バレてたって訳ですね!」
青いドレスを着たルトの質問に、自信満々に答える。それに緑のドレスを着たミケが呆れ、黄色のドレスを着たフォークが納得した。
ライトからしたら、別に彼女らが貴族であろうと何の問題も無い。ライト自身は、別に貴族というものを上にも下にも見ていないからだ。
ライトが評価するのは力であり、強い者には敬意を、弱くとも向上心のある者には一定の敬意を払う。
彼女らは後者に当てはまる為に、ライトの評価は結構高い。
「その、色々と隠していてごめんなさい」
「別に謝る必要なんてありませんよ。秘密なんて、誰にでもある物ですしね」
(僕にもありますし)
自分が貴族であることを隠していたことを悪いと思ったのか、頭を下げてくるイレーヌに対して、ライトは問題無いと返す。
実際にライトの中では、欠片も問題ではない。だが、疑問に思うことはある。
「何で冒険者なんてしてるんですか?趣味と言われたら終わりなんですが」
「それには、結構込み入った事情があるのよね」
「そんなに深い理由ないじゃないか――」
『皆様、ご着席ください。後数分で、オークションが開始されます。静粛にお待ちください』
会場に、女性の声が響き渡る。記憶が正しければ、この声はトリスの秘書の女性の声だ。
「……話は、オークションが終わった後の方が良いみたいだね」
「そうですね。では、互いに楽しみましょう」
「ライトさんも、また後で」
「ん、後で」
「後でですよ!」
イレーヌ達はウルスの元へと、自分達の座席へと移動して行った。
ライトは、自分の座席へと戻り、心を落ち着かせる。脳裏に映るのは一人の少女。その少女を手に入れるべく、様々な準備をした。
しかしながら、手に取るのは剣ではなく金である、全くもって夢が無い。
「ふぅ……まあずっと緊張してても仕方ないですし、もう吹っ切れて準備はしてきましたし……オークション、楽しみますか」
巳蚓魑から取り出し見るのは、一つの神言書。内容は、ソヨ・ラビットニアの財産の半分を借用するというものである。つまり、ライトがソヨから金借りて来ましたよ、って紙だ。
三日前、恥を忍んでお願いしたら、あまりにも普通に聞いてくれて、お願いしたライトが驚いてしまった。代わりに、ソヨの指定した依頼を一つ受ける条件になっている。そして、借りた金があまりに多くてもう一度驚いたのは内緒だぞ。
神言書を仕舞う間に、会場が静まり返る。
『……これより、セイク商会主催オークションを開始します』
[司会は私、オレグが務めさせて頂きます]
アナウンスが終わると同時にいつの間にか会場の中心、舞台に所謂オペラマスクと言われる仮面を着けた偉丈夫が居り、声を発する。
「――っ!?」
―――明かし晒す探蛇
すると、舞台の後ろ幕の裏から、荷台に載せれた一つの槍が現れる。ライトの意識は、その瞬間には槍に奪われていた。
真っ白な柄に金色の模様が入った、白銀の刃を持つ槍だ。
[此度のオークションの第一品目は、こちらの槍。この魔槍は、魔界の未踏破ダンジョン『万魔封殿』から発見された品になります。詳細は分かっていませんが、アダマントすら容易く貫き、穂先に触れた対象の力を奪うことが判明しています。また、その見た目も美しく――]
司会は、悠々と槍の説明していく。意識を槍に奪われていながらもライトは、その話を聞いていた。
そして、薄く笑みを浮かべる。
「――あれが魔槍?笑わせてくれますね……」
「ライト君、どういうことですか?私は、鑑定系のスキルは持っていないので分からないので教えて下さい」
「フーリンさんは分かりませんか。それじゃあ、シュビラさんは?」
「むーー……分からないのです。鑑定士でありながら、面目ないのですよ。スキルが弾かれたのです」
ふとライトが漏らした言葉に両隣の二人が反応する。
フーリンは、鑑定が出来ないので、良い物であるのは分かるが、どんなものであるかは理解できていない様子。
逆に鑑定が出来るシュビラだが、眉間に皺を寄せて自分のスキルが弾かれたことに対しての不満を表している様子だ。
二人とは違い、しっかりと蛇王蛇法で詳細が分かるライトが口を開く。
「あの槍、"神器"ですよ」
「神器ッ!?本当ですかライト様!」
「本当です」
「ほう……未踏破ダンジョンから出てる訳ですし、そういうことも十分にありますね」
「恐らく、アレを出品した商会や発見した冒険者の方は、きっと腕の良い鑑定士との繋がりが無かったのでしょうね」
ライトは自分にしか見えていないウィンドウへと再度目を向けた。
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名称-剥奪槍 ディグレストーン
ランク-God
詳細-穂に触れた万象から現力・物質など問わず奪う
能力を持つ。奪ったものは自身の糧としたり、
自由に扱うことが出来る。
系統-槍・神器
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そこに映る文字が、笑みを浮かばせる。
「『剥奪槍 ディグレストーン』という銘ですね。能力は穂先に触れた全てから、力や形そのものを奪う能力を持つらしいです。使ってみないことには分かりませんが、強力なことは間違いないでしょう」
「剥奪、それに神器……興味深くはありますが、パスしましょう」
「何でですか?フーリンさん武器好きなのでは?」
「確かに私は武器が好きですが、積極的に集めるまでにはいきません。それに槍ですからね、私は刀以外はからっきしなので。武器は使われてこそ、その真価を表しますから、ただ飾っておくのは良くありませんよ」
フーリンの話を聞き、成程と頷く。それは、ライト自身の武器への考えとあまり大差なかったからだ。
ライトの考える武器は、戦いを共にする相棒のようなもの。戦闘で使ってこその武器、決して芸術品のように飾られて良いものではない。
だからこそ、ライトは武器好きでありながら、武器を買い集めはしなかった。自分では壊してしまうと知っているから……いや、単純に金が無かったという理由もある。
だが残念なことに、このオークションに参加しているのは、金のある貴族と商会の人間、然も大半は戦闘で使うなど考えていない愚者であろう(ライト目線)。
故に、
「では僕があの槍を買います」
購入を決意する。
「ライト君、槍も使えるんですか?」
「いえ、使えません。ですけど良い使い道が思い付いています。少なくとも戦闘には使います」
「なら良いです」
「……商会的には、買ってから神器だと確かめて、更に高値で売った方が良いのですけど、商会所属者は勤務中参加できないのです……」
「残念でしたねシュビラさん」
「でも、これでライト様と良好な関係を築けるのだとしたら、安いものなのですよ!」
そう笑うシュビラ顔には、一つの曇りもない。心から思っているようであった。
実際、元々無い筈だった得られる利益よりも、この先ライトがもたらす利益の方が大きい。
ならば見逃して、ライトに良い気分で関係を続けてもらった方がよっぽど得だ。
[――最低落札価格は10万D、単位は1万Dから。それでは、開始いたします]
オレグの声が響き、オークションが遂に始まる。
「手始めに、そうですね……"1000万"」
◆投稿
次の投稿は10/1(土)です。
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◆蛇足
語り部「うぅ……もう止めて……」
蛇の王「ほら、やはり変則豆腐メンタルではないか」
語り部「僕の、負けだ」
蛇の王「別に勝負していたわけでは無かったのだがな」
語り部「代わりに一つ言うことを聞いてやろう!」
蛇の王「ほう?それは真か?」
語り部「男に二言は無し!」
蛇の王「では、じっくり考えさせてもらおう……」




