1-10 未踏破ダンジョン『大迷宮』
「……朝、ですね」
ライトは、窓から入る日差しと最近漸く慣れてきた特殊な疲労感と共に目が覚める。
昨日は、あの後ソヨと分かれ、『炎血の翼』から貰う予定だった金を貰い、少しの散策をして迷浪運河亭に戻ってきた。
そして、ソヨから頂いた『大迷宮』の情報を確認し、色々とシてから寝たという感じだ。
「すぅ……すぅ……」
「本当に、こんななのに、最強で野獣なんですよね……」
隣で稚い寝顔を晒している、全裸のヨルを見て呟く。
その姿には、威厳も何も無く、唯の少女にしか見えない。
だが、戦えば最強、夜は野獣のとんでもない存在である。
「ヨル、起きて下さい。今日は『大迷宮』に行くんですから、さっさと準備しますよ」
「うぅ~分かったぁ、目覚めのキスをしてくれればぁ、直ぐに動く……」
「はぁ……全く、いつもそれですよね。やる方の身にもなって欲しいものです」
朝起きると必ずキスを求めてくるヨルに呆れながらも、慣れた動作でヨルを引き寄せてライトは唇を重ねる。
五分ほど、濃厚な時間を過ごした後、ライト達の一日が始まる。
◆◇◆
迷宮都市ラビルから南に行く道を歩くライト達。
手には、昨日ソヨから貰った『大迷宮』の詳細が乗った冊子がある。
「大迷宮は――
三つの小・中・大と段々規模が大きくなる迷宮群によって形成されており、危険度の低い方からアイン、ツヴァイ、ドライという名前がある。
何とも安直であるが分かり易い。
小ダンジョン・アインは、階層数15、完全踏破済み、魔物のランク下限F・上限B、5層ごとに環境変化あり、5・10・15層にて階層主あり。
中ダンジョン・ツヴァイは、階層数30、完全踏破済み、魔物のランク下限E・上限A、5層ごとに環境変化あり、10・20・30層にて階層主あり。
大ダンジョン・ドライは、階層数不明・判明57層・推測60層、未踏破、魔物のランク下限D・Sランクを確認済みだがそれ以上が存在する可能性あり、10層ごとに環境変化あり、10・20・30・40・45・50・55層にて階層主あり。
分かり易く、難易度が分かれているのである。
――ふむふむ、まあ一応アインから行くことにしましょうか」
<それでいいのかえ?余裕そうな気がするがのう>
確かに、ライトの強さから考えれば、アイン処かツヴァイも余裕だが、ライトがアインから行くのには、しっかりとした理由があるのだ。
「僕は、ダンジョンに潜った経験がありません。感覚が掴めていない状態で高難易度の場所に行けば、きっと足を掬われます。簡単なとこがあるなら、そこで感覚を掴んでからの方が確実ですよ」
<そういうことか、納得したぞ>
「それに、僕よりも経験豊富で強い冒険者も訪れている筈です。だけど、未だに未踏破なんですよ『大迷宮』は。そうなっている理由がある筈ですから、油断や驕りは禁物ですよ」
ライトは、生まれてこの方、ダンジョンというものに入ったことが無いのだ。
もっと危険な『迷いの大森林』に入っているのに、だ。
まあそれは仕方がない、ハジノスの周辺には一切ダンジョンが無く、ライト自身に遠くのダンジョンに行く余裕も旨味も無かったのだから。
特級危険地帯『迷いの大森林』は普通のダンジョンの数倍も数十倍も実入りが良いし、そもそも大抵のダンジョンでは採集専門だったライトは活躍できない。
以上の幾つもの理由からライトは、今までダンジョンに入ったことが無い。
「こう、何というか初めてというのは、ワクワクしますね」
<そうか、ライトは初めて……初体験はワクワクするタイプか……>
「あのヨル?変な方向に持って行こうとしてません?」
<ん?何がじゃ?我も初体験はワクワクするぞ?こう刺激と高揚感が良いよな>
「初体験じゃありません、初めてです。勝手に変えないで下さい。あとやっぱり別の話ですよね?それ」
初めて行くダンジョンに心が高揚するライト。
その話を微妙に、そっちの方向に持って行くヨル、この蛇王いつでも脳内ピンクである。
だが、こんなんでも最強である、現実は非情だ。
<いやぁ~そんなことは無いぞぉ~>
「はぁ……さっさと行きますよ」
<うむ、そうじゃな!>
(ほんと、元気ですね……)
何故か朝から元気満タンなヨルに呆れながらも、ライトは歩み進んで行く。
目の前に在るのは、石造りの小さな神殿のようなもの。
扉は無く、入り口には地下へ続く階段があり、その内部を壁に掛けられた燭台の炎が照らしている。
未踏破ダンジョン『大迷宮』のアイン、
「ふ~む、意外とこの時間でも出入りしてますね」
<どいつもこいつも初心者のようじゃがな>
に出入りしている冒険者達を気配を消し潜伏して、眺めているライト達。
何故こんなことをしているかと言うと……特に理由はない、強いて言えば気になったからというところだ。
観察していて分かったことは、意外と出入りする冒険者が多いことと、明らかに初心者、ランクE辺りの冒険者がばかりなことくらいである。
「さて、そろそろ入りますか、時間も有限ですしね」
<そうじゃな>
術を使い、気配を消しながら(色々面倒そうなので)ライト達はアイン中へと入っていった。
未踏破ダンジョン『大迷宮』アイン 1層。
広がるのは見渡せる草原、複数の場所で魔物を冒険者が戦っているのが見える。
「凄いですね、本当に外じゃないのに草原ですよ」
<ダンジョンとはそういうものじゃよ、外の環境の常識は通用せぬと思え>
「了解です」
ダンジョンとは、神々が創り出したミルフィリアに生きとし生ける者達の成長を促す装置と言われているが、実際の所詳細は分かっていない。
だが、多くの傑物を生み出したのは明らかである。
ダンジョン内では、魔物が何処からともなく発生し、死亡して何もせずに一定時間経つと勝手に消えるが、解体など明らかに手を加えると消えなくなる。
ダンジョン内には、宝箱が存在し、現代の技術では制作不可能な魔道具や薬、未知の鉱石や植物、果てには神々が直々に創り出した武器、"神器"までもが入っていたりする。
そんな、宝と栄誉を求めて冒険者達は、ダンジョンへと潜るのだ。
「まあ、ここら辺は飛ばしていきましょう。流石に弱すぎますし、狩るのは初心者の方々の迷惑にもなりますから」
<うむ!若者の成長の場を奪うのは良くないからのう>
なら、最初からアインに来るなよ、とか言ってはいけない。
絶対に、明らかにアインは飛ばしても良いが、気にしてはいけない。
と、言うことで、アイン5層!因みに2~3層は同じのような草原で、特に変わり映えが無かったので割愛させてもらったぜ。
でだ、肝心のこの5層はというと、これまでの層とは違っていた。
「この層、アインの入り口や階層移動の階段と同じで人工的というか、石造りですね」
降りた階段から続く、緑がかった石の煉瓦の一本道、階段と同じように両側の壁に掛かる燭台が辺りを照らしている。
今は、通っていない。
そんな道をライトは歩み進んで行く。
三分ほどで道の終わり、大きな金属製の扉へと着いた。
「この中に階層主が居るみたいですね」
<開いておらぬということは、中で戦闘が行われているおるのだろう……耳を澄ませば、聞こえてくるしのう>
「確かに……」
分厚い扉の隙間から、微かに金属のぶつかり合う音が漏れ出ている。
階層主とは、ダンジョンの一定の層ごとに存在する、強力且つ特殊な魔物のことを指す。
ある層の階層主を除き、階層主は一定、決められた固定の魔物であり、強さも幾ら再出現しようと基本的には変わらない。
また、ある層の階層主を除き、死亡時に体が残らず、代わりに宝箱が現れる。
でだ、そのある層の階層主というのは、
「――あっ!終わったみたいですね」
閉ざされていた扉が、音を立てて独りでに開く。
時間が来てしまったようだ、説明はもう少し後になる。
「さて、入りましょうか。手応えくらいはあってくれると助かりますね」
ライトは、余裕の笑みを浮かべながら、広間へと足を踏み入れた。
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次の投稿は、8/26(金)です。
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◆蛇足
語り部「多分だけど手応え無いよな」
蛇の王「アインで出てくる魔物の最高ランクはBじゃからな。そのランク程度ならライトは、苦戦せんからな」
語り部「だよな……絶対にアインは行く必要は無いと僕は思うぞ」
蛇の王「我も思うが、ライトが行きたいと言うから仕方ないであろう?」
語り部「お前の方が立場は上だよね?」
蛇の王「だが、我は夫は尊重するタイプじゃからな。断れんよ」
語り部「まだ夫じゃないだろ、婚約者だろ」
蛇の王「同じようなものじゃ!我の中では同義じゃよ」
語り部(全然違うよ、見習いと本職くらい違う)「あ~そうだな」
語り部は、面倒になったので説得を諦めた。




