1-11 やっぱり明らかに来る必要がない
「…………」
<のう、ライト……>
「僕が一番わかっているので、言わないで下さい」
ライトの目の前にあるのは、一つの小さな"宝箱"。
階層主が死亡した時に現れる宝箱である。
もうその時点で、勘のいい皆様は何が起こったか理解できるだろう。
「さっさと進むが吉です!進みましょう」
ライトは、宝箱の中に入っていた魔石と小瓶、それに角を即座に収納して、そそくさと入口の扉と反対側にあった、次の層に向う階段を下りて行った。
アイン、5層の階層主は、ボルトディア、雷を扱う鹿の魔物、ランクはDだ。
無残にもイグニティの一撃で真っ二つにされてしまったが、初心者はその巧みな雷使いに苦しめられる。
まあ、もう関係の無いことだが。
未踏破ダンジョン『大迷宮』アイン 6層。
視界いっぱいに広がるのは、細い木々と湿り気を帯びた地面。
「6層から10層は湿地環境を模している、足元と状態異常に注意っと……この妙に湿った空気は少し嫌ですね」
<我は特に変わらないのう、寧ろいつもより好調じゃ>
「そりゃ、ヨルは蛇ですし、乾燥帯よりは、こんな感じの湿潤帯の方が良いでしょうね。それに僕より環境適応しますし」
そもそも人型生物と蛇だと身体構造から何から何まで違うので、比べることが間違いなのだ。
「出てくる魔物の系統は、蛙、蜥蜴、蛇、あと蟲――ですかっ!」
《剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》
<良い反応じゃ>
「パラライズフロッグ、身体表面に麻痺毒を持つDランクの魔物ですね。まあ素材は良いです、ぶった切っちゃいましたし正直このランクの素材なら、そこまでの価値になりませんし」
右手に持つ剣で、樹の影から現れ飛んできた一抱え程のサイズの蛙を真っ二つに斬る。
今、ライトはイグニティを使っていない。
理由は、イグニティだと威力が高い上に大きい為、取り回しが悪くダンジョンの環境ごと斬ることになってしまうからだ。
なので現在ライトは、ラビルの武器屋で買った鋼のロングソードを使っている。
因みに壊してしまった時用に五本買った。
「遠くの方で、音がしますね。僕の前に進んだ冒険者の方々でしょうか、流石に僕みたいにソロって訳ないでしょうし」
<じゃろうな。だが、幾ら弱いからといって油断するなよ?>
「分かってますよ。何処にでも狡猾な奴は居ますからね」
魔物に関してはライト達はまったく気にしていない、だって弱すぎるから。
では何を警戒しているのかと言うと、"初心者狩り"である。
何処の世にも悪人というものは居る訳で、冒険者になりたての初心者が来るこのアインに潜み、初心者を襲い金品を奪うという輩が居るのだ。
冒険者の死亡は、明確な証拠さえなければ当人の責任になる為、実質冒険者相手には何でもしていいという、馬鹿な思考に至るゴミ共が此処に居る場合があると、冊子に注意書きあったからライト達はそれを警戒している。
まあ、正直に言って、断然ライト達の方が強い為、全く要らない心配ではあるが。
「んっと、木が無くなります、ねっと。ああ~所々に池がある感じですか」
細い木々が無くなり、全体的に薄暗いというよりは霧が掛かっていて見えずらいが、開け所々に大きな池があるのが確認出来た。
同時に遠くの方に、恐らくパーティーであろう集団を複数発見した。
「ふむ、あそこは蜥蜴系の魔物を狙ってますし、あっちは蛇ですか、頑張ってますね」
<環境を利用する魔物達に手こずっているようだな>
「そうですね、けどそれも経験ですよ」
遠目に見える戦闘を眺めつつ、悠々と湿地を進んで行くライト。
「あ、術張り直しておきますか。階層主の一回解除してましたしから」
<必要かえ?余裕だと思うんじゃが>
「念には念を入れてですよ、それに面倒事は少ない方が良いですし」
―――惑わし潜む幻蛇
手の平から現れた黒い蛇がライトを包む。
気配が喰らわれ、世界からその存在を包み隠す。
「じゃ、さっさと行きますか」
<これだど唯の散歩では無いか?>
「いいんですよ、邪魔になっちゃいますし」
<そうなんだが……何というか、冒険味がないというかのう>
身を隠し、魔物とも戦わず、普通に唯道を歩くだけ。
ヨルは、そのダンジョンという冒険の場にも関わらず、これといってらしいことをしていないのが少々不満のようだ。
対してライトは、面倒事は極力少なくていいと思う質であり、このアインに出てくる程度の魔物なら戦わないで済むなら、それでいいと思っている。
正直に言って、低レベルのダンジョンでは冒険とか多分ないと確信している。
「冒険は、ツヴァイからですよ。ヨル」
<仕方ないかのう、その代わり我はスイーツが食べたいぞ!>
「はいはい、了解です」
未踏破ダンジョン『大迷宮ラビリンス』アイン 10層。
「さて、今回は一撃で終わってくれないと助かります。ので、イグニティの使用を控えることにしました」
はい、バッサリ割愛して10層の階層主です。
今は挑戦者が居ない為、扉が解放されている。
その扉をゆっくりとライトは潜り抜けた。
すると、扉が勝手に閉まり、広い空間の中央に白色の魔法陣が形成される。
そこから、
[グアァッ!!!]
「Cランクの魔物、ロックリザード。その表面を覆う岩の如き鱗は、容易く刃を通さない、ですか」
《黒剛彩王-虚の理-聡明》
一見岩に見える程の頑強な鱗が全身を覆う、体長4m程のドデカい蜥蜴が現れる。
この層の階層主だ。
ライトは、背から鋼のロングソードを抜き放ち、虚属性の黒き魔力を纏わせる。
「容易く通さないというだけで、通さないという訳じゃあないってことですよねっ!」
《剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》
[グギヤァ!?]
魔力による身体強化を使い、ロックリザードとの距離を詰め、その前脚を斬り付ける。
切断までは行かずとも、刃は深く入り、その傷口から血を溢れさせる。
「やっぱ硬いですね。イグニティなら切断まで行けていたでしょうけど、普通の剣だとこれくらいで上出来――ですねっ」
[グルアッ!!]
「確か爪には微弱な毒があり、感覚を鈍らせる。幾らヨルのコートを着ていても、油断は禁物ですかね」
ロックリザードに付けた傷を確認しながら、振るわれた爪の攻撃を避け、冊子に描かれていたことを思い出す。
いつもの武器でなくとも、ライトの余裕は崩れない。
「ほぼ全ての生物に於いて、工程を無視した場合に、最も殺しやすい身体の箇所って何処だか知ってますか?」
[グルウゥアッ!!]
「おっと、理解出来もしないのに、つい話してしまいましたね」
ライトは、戦闘中にそこそこ喋る。
理由は、相手の隙を作る為、情報を聞き出す為、癖を見抜く為など多岐に及ぶが、普段人との関わりが少ないせいか、何故か戦闘中は饒舌になる。
「まあ良いです。それはですね――」
[ウグルアッ!?]
「――"眼球"ですよっ!」
急加速し、唸る黒き刃が、ロックリザードの右の眼球へと突き刺さる。
続けざまにライトは、巳蚓魑からもう一本、鋼のロングソードを取り出し、のたうつロックリザードの左の眼球に右よりも深く突き刺す。
グチャリと何かが潰れる様な感触と共に、ロックリザードの動きが完全に止まった。
「眼球、というより目は急所です。物体が迫ると反射反応により瞼が無意識に閉まってしまいます。その瞬間は、目が閉じている訳で五感の中で最も多い情報を得ている視覚が一時的に使えない状態の為、外部の攻撃に反応が出来にくくなる。更には瞼というのはその可動する構造故に他の部分より頑丈ではない。そして、眼球の奥には必ず脳が位置している為、眼球つまりは目を何かで強く深く突き刺すだけで、大抵の生物は殺せると言うわけですよ。まあ、人の場合は瞬時に動く手という部位があるので少し難しくなりますがね」
<それを、口にした情報通りに殺した相手の死体の前で話しているのは中々気持ちが悪いぞ>
「そうですか……今後は控えます。婚約者に嫌われたくは無いですから」
ロックリザードの身体が、粒子へと変わり、代わりに一抱えの宝箱が現れる。
「何が入ってますかね~」
地面に落ちた二本の鋼のロングソードを巳蚓魑に仕舞い、ライトは宝箱を開けた。
中には、黄色の魔石と一つの牙、そして黄金色の腕輪が一つ。
「鑑定は、戻ってからにしましょうか」
<そうじゃな!では、次の層へと進むぞ!>
「了解です」
切り替えも早く、ライト達は足を進めた。
◆投稿
次の投稿は、8/27(土)です。
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◆蛇足
語り部「ライトは、勝つ為なら何でもしそうだけど、しちゃいけないことのラインってあるのかな?」
蛇の王「……はぁ、まあ良いんじゃがの、お主がそう言うなら」
語り部「何、その呆れた感じ、僕のポーカーフェイスの上手さに、感心してか?」
蛇の王(原因が既に推測出来てる時点で自覚しているではないか……)「そうじゃよ。その全て知っている筈なのに、完璧に素知らぬふりが出来るお主にな」
語り部「語り部だからな!読んでる途中で笑ったりしたら困るだろ?」
蛇の王「……ライトの中のラインは、戦う相手によって変動する。卑怯な手を使うなら、それ以上の卑怯を使って叩きのめす。逆に誠実な相手なら、戦いが破綻しない程度の欺きで済ます」
語り部「あれ?無視された?」
その後、蛇の王に構われようとじゃれる語り部の姿が……。




