8ー6 わずかな休息
生きておりますが、体調管理が思った以上に大変で、日常生活以外に支障が出てます
読んでくださっている方々に、ご迷惑をかけて申し訳ありませんが、次回更新も未定です
以下ぼやっキー↓
常にどこか不調がデフォなので、この数値が——って言われても困る
一般人の健康的な数値のギリッギリが、ごく普通なのだと理解してくれないか、キリッ(`・∀・´)
運動すると逆に不調、フシギダナー★
時期的に、もしかして花粉症??
黄砂が原因のアレルギー性鼻炎と慢性副鼻腔炎(蓄膿症)と花粉症って同時に発症するのカナー
春なんて嫌いだー、絶不調!
「注文を頼む。
豆のスープとポテトフライ、腸詰めの盛り合わせ、アップルパイのホイップ添え」
「あれ、隊長さん、昼にはまだ早いよ?」
「知ってる」
「そうかい、スープにポテト、腸詰とパイね。
ちょいと時間がかかるよ」
「ああ」
昼食を仕込み中の食堂のおばちゃんに声を掛け、通常メニューを注文する。
何かを言われることも、聞かれることもなかったので、特に公開鍛錬での内容を彼女らに話す必要はないだろう。
芋料理に続き、豆のスープもオレの好物だ。
歯を立てなくても口の中で簡単に潰れる柔らかさの豆に野菜、ソーセージやベーコンなどの具材が、大きな器いっぱいに入っているスープは、冷えた体を中から温めてくれる。
山に盛られた熱々のフライドポテトにはソースが添えられているが、その上から更にマヨネーズをかけて、味の違う腸詰め盛り合わせには粒マスタードを添えた。
もう少しで焼き上がるというアップルパイは、表面はパリッとしてサクサク、中はトロッとしっとりシャキシャキのものを出してくれるそうだ。
甘さ控えめのホイップをたっぷり添えてもらうのが、とても楽しみだ。
匂いを嗅いだせいでさらに腹が減ってきた。
公開鍛錬に参加中の他の隊員たちには悪いが、完璧に燃料切れだ。
身体強化系統以外の魔術なら、こんなに腹は減らないのに。
「はーい、おまたせ」
「ありがとう」
ずっしりと重たいトレイを受け取り、上級隊員用に仕切られた食堂の隅で、朝でも昼でもない食事にがっついていると、卓上に影が差した。
「ギュエスト隊長」
影に向かって顔を上げると、そこにはヴュルフさんが立っていた。
以前の廊下での出会いに引き続き、総隊長室以外での出会いが増えたのは、なぜだろう。
これまでに出会わなかっただけなのか。
「なにか?」
オレはヴュルフさんの肩書きも、所属も知らない。
上級隊員の制服で、階級記章は総括部隊の隊長らしいのに、近くでよく見れば他の隊長たちとは違う装飾がついている。
もしかして、総隊長直下の特別な肩書きだったりするのか?
食べる手は止めずに意識だけを向ける。
オレの肩書きなら総隊長以外は対等にしていいはずで、食べるなとも言われていないし、何よりもヴュルフさんが気にしているようではないから食欲を優先する。
「ジェレマイア・ヘイスティングズ・サイクスが亡くなりました」
……不思議と驚きはしなかった。
オレは掃除屋が死ぬことを、疑っていなかったらしい。
なんの根拠もないのに。
釈然としない気持ちを覚えながら、ヴュルフさんに向かって言葉を返す。
「そう、か」
存在を初めて知り、会ったと同時に命を狙ってきた叔父の訃報に同情すべきなのか、返り討ちにしたのは当然だったと辛辣な感想をもらすべきか悩む。
掃除屋がオレを襲った本当の目的すら分からないから。
あの後、イルギジャラン帝国について、少し調べた。
寝る時間は少ししか削っていない。
イルギジャラン帝国では、ほとんどの人が赤毛、緑目を持って生まれるという。
ムーンさん、掃除屋の二人とも赤い髪と緑の瞳をしていた。
オレは生まれつき髪も瞳も黄色だが、肖像画で見る父親は黒に近い紅髪で黄色の瞳、母親は黄色の髪と、鮮やかな緑の瞳をしていた。
オレの外見には、イルギジャラン帝国の国民らしさはないし、生まれも育ちも帝国ではない。
それでも、血縁者を失った感傷にふけるべきなんだろうか。
「意識を取り戻すことなく、眠るように静かに亡くなりました」
まったく普段と変わらない様子のヴュルフさんの話を聞きながら、掃除屋と対峙した時の事を思い出す。
掃除屋が勝手に倒れたあと、側にいた気配がゆっくりと消えていった。
あの気配が精霊だとして、掃除屋の死亡に直接的な関係があるのなら、精霊というのは危険な存在なのか。
精霊施行型魔術をイルギジャラン帝国が独占しているのは、術者を危険にさらしていることを知られないため?
「——という訳です。」
「ヴュルフ……さん。掃除屋の遺体を直接、確認したい」
ヴュルフさんが着ているのは上級隊員の制服で、左腕の記章はおそらく隊長?だ。
一応、なんと呼ぶべきか悩んで、さんをつけてみる。
特に顔をしかめられることも、注意されることも訂正されることもなかったので、さん呼びで構わないのか。
眠たい猫のように、常に穏やかな雰囲気を身にまとうヴュルフさんは、言い換えてしまえば何を考えているのかわからない。
貴族か庶民か知らないけれど、実働隊にいる時点で人生経験が豊富なのだろう。
初めからポッと出のオレが太刀打ちできる相手ではないのだ。
「それはできません」
「死因を知りたい」
「遺体に手を加えてしまうと国際問題になります。
同じ理由から防腐処理を行うこともできませんので、すでに棺に納めて低温倉庫に搬送済みです」
「……そうか」
政治的な権力も影響力もないオレには、何もできないらしい。
掃除屋の死亡原因が分かれば、精霊施行型魔術の事を少しでも知ることが出来るかもしれないのに。
オレは属性特化型魔術を主に使っているが、循環特化型魔術を基礎から勉強しなおしているし、魔力の運用や魔術具の製造や管理にも興味がある。
魔術に関する分野にしか知識がないので、どうしてもそちらに傾倒するしかない。
現状では時間がないので、浅く広くになってしまっているけれど。
オスフェデア王国のために、なんてことを考えるつもりはない。
ただオレが知りたいだけだ。
〝探求心と向上心を持ち、常に完成を目指す〟
——おれは完璧なんてものはないと思っとる、でも、自分の中での理想の完成を目指せば楽しくなる——
そうやって叩き込まれた価値観を、簡単にひっくり返すことなどできそうにない。
◆
半日に渡る公開鍛錬が終わって観客が帰る頃、服を普段着に着替えて、髪色も瞳の色も偽装した上で、私服のオーバーコートのフードをかぶり観覧席の出口に陣取った。
どうしてもクサンデルに、格好悪くなかったか?の確認をしたかった。
直に聞くなんて恥ずかしいし自意識過剰だと思うが、いつまた学院に通えるようになるかが分からないのに、情けない姿を見られてそのまま、なんてことはしたくない。
クサンデルたちに「すごく格好悪かった」と思われていたらどうしようかと、学院に通う許可が下りるまで、モヤモヤしながら任務に向かうなんて嫌だ。
ここ最近の自分の心の不安定さが鬱陶しい。
しばらく待っていると、ぞろぞろと大勢の足音と気配が近づいてくる。
歩き方からして観客だろう。
本部の隊員なら、事務部隊の者であっても足を引きずる歩き方はしないだろうし、もっと歩幅も広い。
「——ったなぁ、本当に!」
「おうともよ、まさか本物が見られる日が来るとはなぁ」
老若男女が入り混じって大勢の人が歩いてくる中で、壁に背をつけたまま視線だけでクサンデル、アルナウト、フロール、ロキュスを探す。
中からはぼやけてしか見えなかったが、学院生は制服を着ているようだったので、固まって行動しているならすぐに見つけられるだろう。
観客の何人かがこちらに視線を送り「迷子か?」とか言っているのが聞こえた。
年齢相応の身長があれば、そんな風に見られることもないのに。
「——よな」
「うん、すごかったよね」
「アレがマジもんか、本当に人間なのかよ、動きとか見えなかったぞ?」
「本当に、本当に、すっごく格好良かった!!」
聞き覚えのある声と呑気な会話に顔が笑ってしまうのを感じながら、一歩踏み出して気がついてくれるのを待った。
「でさ、あ?あれ、ヨーじゃないか」
「あー、ヨーだぁ」
「本当だ、ヨーも公開鍛錬を見に来てたのか!
ギュエスト隊長見たよな!」
「なあヨー、隊長のアレは魔術なのか?って知ってるわけないか」
「……ヨー」
友人たちから口々に告げられた言葉を聞きながら、彼らの後ろで固まるクサンデル、そして少し離れたところで顔を強張らせているラウテルさんを、視界に収めておく。
なんでラウテルさんは、この前からこっちを見るたびに変な顔をするんだ?
「悪い、来るのが遅くて見れなかった」
「えええっっ!?そいつは残念すぎ!!
ヨーが来れないって聞いてたからさ、どうにかして録画したかったんだけど、魔術具持ち込み禁止だったんだよなぁ」
「ありがとう」
出てもいない涙を拭いながら、悔しがっている真似をするアルナウトの興奮ぶりに苦笑しながら、お礼を言う。
魔術具の持ち込みが禁止だとは知らなかった。
自分の戦ってるところを客観的に見ることに意味はあるだろうが、アルナウトたちと一緒は遠慮したい。
映像を見ている間中「隊長が〜」なんて言われ続けるのは、恥ずかしすぎる。
クサンデルに知られているからこそ、頭を抱えてのたうち回るのは確定だ。
それでも、いないオレを頭数に入れてくれているのは嬉しい。
オレのために、という理由を口にしてもらえるのは嬉しい。
アルナウトの趣味を、披露するためだけだとしても。
「ビズーカーさん、学院にはいつ頃から来られそうですか?」
まだまだ語ろうとするアルナウトを制止して、ラウテルさんが言葉を向けてきた。
「近日中には」
「……そうですか」
オレの意思を優先するのなら学院に通いたいが、任務を放りだせるはずもない。
最近では任務をさっさとやっつけて、学生業を本業にしたいとまで思っているものの、そうもいかない理由がある。
借金が問題なんだよ、結局のところ。
自分の手で借金を返してから、正々堂々と将来の仕事を選びたい。
魔物と戦い続ける日々を、死ぬまで続けるつもりはない。
そういえば、ラウテルさんがわざわざ本部まで持ってきてくれた、循環特化型魔術研究会の進捗報告書のお礼が言いたいけれど、ここで言うのは無理か。
……学院に戻ってから、だと遅いので礼状を書くべきか。
「ヨー、その、すごかったな」
クサンデルの言葉に、少し声を潜めて言葉を返した。
アルナウトたちに聞かれると困る。
「ありがとう、情けないところを見せずにすんで良かった」
「え…… 」
何かを呟いた後で、クサンデルは変な顔をした。
泣きそうな笑顔とでも言うか、前にどこかで見たような?
ふと、クサンデルたちの背後にいるラウテルさんを見ると、同じように泣きそうな笑顔だった。
ああ!これはラウテルさんがよく見せる表情か。
って、なにが原因で泣き笑いになるんだ?
何か意思疎通を失敗しているような気もするけれど、ここで話すことはできない。
級友たちは立ち止まっていることに飽きて、騒がしくなってきている。
「この後も仕事が残っているので、失礼します」
「ええ、そうですね」
挨拶をしてくるラウテルさんは泣きそうなままだ。
落ち着かない。
「ああ、またな」
「学院来たら、もっと話を聞いてくれよー!」
「仕事頑張ってねぇ」
「勤労学生は色々と大変だなぁ、無理して倒れんなよ?」
級友たちに別れを告げながら、直接本部内に戻ると訝しまれるのではないかと思い、一度本部の外へと向かうことにした。
階級記章だけは持っているので、普段着姿で顔を隠していても出入りに問題はない。
手を振って学院生たちの集まりから離れ、ラウテルさんに聞きたかったことを聞き忘れていたことを思い出した。
どうして、公開鍛錬の観覧に参加しているのか?と。
観覧席はかなりの規模で人を収容できるとはいえ、教諭含めて一クラス全員分の座席をまとめて確保するなんて、簡単にできるはずがない。
公開鍛錬自体は定期的に行われているとはいえ、事前の観覧予約で席は埋まっていたはずだ。
何よりも、一番人気がある最前列が、オレが参加を明言した三日前に空いていたとは思えない。
つまり、本部側からの招待なり、事前の席の確保なりがあったはずなのだ。
総隊長の狙いはわからないが、オレの戦いを学院生に見せてやろう、なんて善意だけでないことは間違いない。
深く息をついて、第一隊の控え室へ向かうべく、足を踏み出した。




