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国畜少年は、今日も超過勤務中  作者: 木示申
九 真実語り
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9ー1 特別講義

生きてます

更新が止まるとブクマも外れると思っていたので、お読みくださって、ありがとうございます

 





 結局、公開鍛錬で実働部隊の上級隊員を相手にさせられた理由は、わからないままだった。

 総隊長に直に聞くという愚行にも走ったのだが、「教える必要はない」と断言されてしまい、それ以上食い下がることも許されなかった。


 これが暴力で解決できる類のものであれば、まだいい。

 ハーへ総隊長は王族であり、上官にあたる。

 借金生活を終わらせる目処もないのに、仕事を失うような無謀無策な振る舞いをするのは流石にできない。

 クビになるのは構わないけれど、家もないし職もない上に借金を抱えた学院生が、一人で暮らしていけるか?……無理だよな。


 学院には公開鍛錬の翌日に戻ることができた。

 公開鍛錬の内容について、報告書や始末書を書かされるのではないかと思っていたので拍子抜けした。


 そして、掃除屋の遺体を見る機会もなかった。

 不法入国の犯罪者であっても、イルギジャラン帝国の国民である以上、司法解剖に回すことはできない。

 防腐処理もできないので、早々に帝国に送り返すことになった。


 今朝方、ムーンさんが以前の宣言通り、掃除屋の遺体を収めた棺とともに帝国に出立したそうだ。

 もう一人のお供、なんちゃらヴァー?も連れて帰ってくれたので、個人的には安心している。


 彼女の出国前に、個人的な接触をする機会が得られなかったのを、今は後悔している。

 公開鍛錬前後が非常に忙しく、終わるなり早々に学院に行けと言われたのは、ムーンさんと会えないようにとの妨害だったのかもしれない。


 ムーンさんが帝国の使節であることは知っているけれど、その裏側は聞いていない。

 彼女から聞いた話では、裏があるのは同行者だというが。


 一緒に来たという、なんちゃらヴァーという人物が〝掃除屋〟に関わることがなかったせいで、彼女の立場が悪くなるのかすら……オレにはわからない。

 帝国内部の情報を漏らしたことで、どのような処罰を受ける可能性があるのか、も聞いていない。


 面倒ごとになりそうで彼女に関わりたくない、と思っていた以前の自分の判断は間違っているとは思わない。

 しかし、渦中に放り込まれているのに、何も知らされないというのも、嫌な気持ちを長く抱えるので落ち着かなかった。


 自分から動かなかったくせに、教えてもらえないことに憤っている。

 まるで子供の駄々だ。

 分かっている、全て自分が招いたことだと分かってはいる。


 色々と納得のいかないことが多いせいで、胸の中に澱が溜まっているような違和感がなくならない。

 それでも、世の中には知らない方がいいこともある。

 総隊長の思惑のように。


 そう、頭では理解している。


「ヨーおはよう!」

「おはヨー君」

「おはよう、大変だったみたいだな」

「おは、まさか公開鍛錬の裏方で、休むなんて思わなかったよ」

「でもすごい盛り上がったし、羨ましいなー」

「うん、公開鍛錬初めて見たけど、本当に凄かったよな!」


 表情に怪訝な色を出さないように耐えながら、頭の中で級友たちの言葉を整理する。


「ああ」


 とりあえず級友たちの言葉に同意をしながら、ラウテルさんに事情を聞くことにして、仮説を立てておく。

 今回は本部実働部隊の公開鍛錬演習を手伝うために、休んだことになっているらしい?と。


 本来、支部の隊員は本部に入れない。

 支部長と副支部長までしか、本部では隊員扱いされないのだ。

 それは差別ではなく区別。


 支部の隊員たちは、弱い。

 裏も悪意も持っていない、ただの真実として弱い。


 支部隊員が本部の実働部隊隊員の鍛錬に触発され、万が一にでも参加したり、偶然でも巻き込まれたら、死人が出てしまう。


 本部に配属される隊員は、魔物を相手取っても自分の身を守れる実力を持っている。

 四脚科中型の下級魔物(狐型、狗型、狸型など)単体を個人で駆除できなくては、本部の実働部隊隊員だと名乗れはしない。

 それは属性魔術への適性が戦闘系の多い主属性でなくても、だ。


 戦闘系の魔術を扱えないフィンケ副隊長ですら、一人で四脚科中型の下級魔物を狩ることができるのだ。

 何重もの結界を己の周囲に張り巡らせて、竜種を槍型魔術具で屠る姿は、物語の女傑のように恐ろしく、そして美しい。


 実際に魔物の駆除をすればわかるが、中型以下の魔物は複数匹で群れを作るし、大型の魔物でもつがいや親子単位で行動することがある。

 単体の中型魔物を複数人でなら駆除できる、が上限の戦力では生き残れない。


 そして支部の隊員は、王都内の治安維持活動ならば十分でも、魔物の群れを相手取るには足りない者がほとんどだ。

 支部の隊員は本部の実働部隊隊員を夢見ているというが、異動は二割程度というのが実情だ。

 適性と才能を持っているものならば、学生のうちから頭角を現し、本人の望み次第では卒業と同時に本部に配属される。


 支部に配属された時点で何かが足りないということを、明かしていないだけだ。

 強さなのか、適正なのか、性格的なものなのか。

 それはその人物次第だが、単純に鍛錬によって培われる強さが足らないだけなら、鍛錬によってもたらされた結果で本部に異動できる。


 支部に配属されて鍛錬を続けても、四年後に異動できなかったら、その後の可能性は絶望的と言ってもいいだろう。

 そうして長年にわたり支部で腐る者が出て、本部の隊員が鼓舞に回される、のだ。

 処罰奉仕活動やくじ引きの末の〝ドブさらい〟として。


 支部隊員のお前らがいるから、オレたちが王都の外の任務に出られる、というのは嘘ではないけれど、方便でもある。




「準備できたかー?」

「……え?」


 クサンデルの言葉に慌てて周りを見回してみると、女子は更衣室に向かったらしく誰もいない。

 男子はさっさと上着を脱いで、運動用の服に着替えている。

 ぼんやりと考え事をしていたせいで、移動教室の準備があることに気がついていなかった。


 オレは学院に通い出したせいで、ぽんこつになってしまったのか?

 いや、なってるわ。

 これはもう、手遅れなのではないだろうか?

 魔術を使った並列思考とまではいかなくても、作業しながら魔力操作くらいは容易かったはずなのに。


「次はなんの講義だ?」


 教科予定表には移動教室なんて書いてなかった。


「今日は実働部隊から特別講師を迎えて、本物の鍛錬法を学ぶんだ!」

「あれー、そういえば連絡があった日は、ヨー君休んでたかもー?」

「ええ?それじゃなんも準備してないのか!?

 どーすんだよ!」


 幸いなことに、運動用の服は実働隊の制服と一緒に持ってきている。

 問題はそこではない。


「特別講師?」


 本部の実働部隊の隊員?

 誰だ?

 偽装していることを見抜く相手だとまずい。


 昨日の公開鍛錬で、サッセン隊長には〝熱〟と〝圧〟属性に適性があると推測できた。

 本人に適性の確認はしていないが、使用した魔術から、ほぼ断定できる。

 〝圧〟属性は魔術として発動していなくても、魔力の個人固有波形を感知できるため、変装しても見抜くことができるという話を聞いたことがある。

 話半分だと思っていたので、魔術具を使った偽装があっさり見抜かれるとは思わなかった。


 つまり本部でオレとある程度の接触があり〝圧〟属性のある隊員なら、魔術具での偽装を見抜かれる、かもしれない。


 どうする。

 ここで仮病を使って講義を抜ける?

 クサンデルとラウテルさんになんらかの補助をしてもらえれば……。


「ほら、行くよっ」

「着替えあるなら急げって!」


 アルナウトとロキュスに急かされ、言い訳を思いつかないままに、一緒に校庭に向かうことになってしまった。



 

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