公爵実食。そして師匠との別れ
「外山来翔洋風軒店主代理、公爵邸に入館せり。」公爵とその他の実力者との会談の終わりとなり、人数分の料理が運ばれた。
昨日の夜、師匠の作ったとんかつと共に帰宅した。
来翔は朝早くに起き、師匠の作ったとんかつを玉ねぎと人参と葱と共に卵でとじ、カツ丼を作った。燻製カツ丼。ハマる人はハマる味であろう。
「失礼致します。洋風軒店主代理、外山来翔と申します。本日は我が料理で皆さんをもてなして頂いて有難うございます。」来翔は公爵に礼をした。
「いやいや、外山殿こちらこそ、この様な大変な時期に許可して頂いて忝なく思っております。」公爵というものはもっと威張っている存在だと思っていたが、そうではなかったようだ。
彼はむしろ礼儀正しいお方であった。
「それでは、皆さん。頂きましょう。」公爵は「頂きます」の音頭を執った。
「いやぁ、本当に美味しいですのぉ。どなたがお作りになられたんですか?」ある男性の方が尋ねる。
「東崎雅孝、私の師匠がお作り致しました。」来翔はそう答える。
「東崎先生!あの有名な料理研究家である。」
「そうです。私はあの先生の教えを受け継ぎました。」
「あの先生は弟子を取られなかったはず。しかし、どうして許可して下さったんでしょうね」
公爵は燻製とんかつの旨さに感動していた。そしてまた作ってくれと頼まれた。
一方、来翔が公爵の家で料理を振る舞っている間、東崎雅孝はいよいよ最期の時を迎えようとしていた。
「なぁ、友梨、俺はお前と一緒に居られて嬉しかった。俺は店の事しか考えられんかった。だからこうなったんだろうな。」
「何言ってるのよ!あなた。こっちこそ頑張ってる貴方のことを、知らずに離婚しようとしたのよ。悪いのはアタシよ!」
「友梨、良いんだ。無理しなくて。お前は俺の大切な嫁だ。何も悪くない。畜生、あともう少し生きられたら…店を譲って世界一周出来たのにな。」
「店はどうするの?貴方が居なくては店なんてやっていけないでしょ。」
「店なら来翔に色んな事を教えた。もう…良いんだ。」
「ねぇ、貴方!」
「何だよ…友梨、俺はもうすぐなんだ。」
「瑛士のことしっかりと面倒見てあげられなくてごめんね。」
「なぁ、友梨。インターホンが、鳴ってる。誰か来たんだろう。」
友梨はインターホンに出た。
「母さん、俺だ、瑛士だ。開けてくれ。親父が危篤なん…」
「何よあんた!遺産目当てで戻ってきたんでしょ!合わせる顔ないわよ。あんたとは絶縁だ!」
「ふん、良いよ。出てくよ。どうせ俺なんて必要ねぇんだろ!」
瑛士は走り去っていったようだ。
「瑛士か。何か言いたいことでも有ったんだろう…、友梨、ごめんな。俺、もう…駄目だ」
「あなた!あなた!ねぇ…ねぇ…しっかりしてよ!」
彼は、遂に息を引き取った。
「師匠、ただ今戻って参りました。」来翔が帰ってきた。
すぐさま来翔は異変に気付いた。
「友梨さん。もしかして、師匠…」
友梨は涙を流しながら首を振る。
来翔は急いで師匠の元へ行った。
そして師匠の体を触った、かすかなぬくもりを感じた。
しかし、もう師匠は戻って来ないのだ。
そう思うと来翔は、涙を流していた。
そして涙ながらにあった事を伝えた。
この声は届かないかもしれない。でも、ここまでやらないと師匠も無念を抱えたままだろう。そう思って伝えた。




