洋風軒継承
師匠の死は当然であった。師匠は、46であった。まだ若すぎる死であり、師匠の葬儀は沢山の人が足を運んだ。
しかし、その中に息子の瑛士の姿は無かった。公爵である日野憲之の長男、日野聖憲が参列し、焼香した。
次男の憲吾は葬儀に参列し焼香をしたが、不気味な笑いを浮かべていた。
「本当にご愁傷様です。外山殿。師匠を失って、さぞかし辛い思いをしていると思います。父上も訃報を聞き、落胆しておりました。」聖憲は来翔に声をかける。
「師匠はもう居ませんが、洋風軒は私が引き継ぎます。だから、これからも宜しくお願いします。」来翔はそう言った。
そして暫く師匠の居ない中、来翔はいつもより忙しさを感じながら料理をしていた。そんな中、洋風軒に声をかける壮年の男がいた。
「洋風軒の外山来翔様に、御用がありましてね。」
珍しく人があまり来ない日にその男はとんかつを食べに来た。
「外山来翔とは、私だが何か御用ですか?」来翔はその男性に聞く。
「えーと。私、黒鷹甚三郎と申す黒鷹グループの総帥を務めている者です。短刀直入にお伺いしたい。この店を我が傘下に収めたいのだがいかがでしょう。」
「何故、我が洋風軒を傘下にしたいんですか?他にもとんかつ屋は一杯あるでしょうに。」
「他の店は昔気質で断られてしまった。今では此処しか望みがないのだ。頼む。」
来翔は定番メニューとなった燻製カツ丼を黒鷹に提供した。
「いただきます。」黒鷹は燻製とんかつを頬張り完食した。そして一言。
「こんなに旨いとんかつ屋は見たことがない。益々、欲しくなったよ。それじゃまた会おう。」
黒鷹は帰って行った。言い忘れたが店は食券制である。これによって会計の手間が省け、1人でもやっていけるようになっていた。
暫くすると1人の男がやって来た。そして彼は、燻製カツ丼を頼んだ。相変わらず人気である。公爵に振る舞われた料理として有名であった。
「いやぁ、僕ここに初めて来るんですよ。こんなお店あったんですね。」そのサラリーマンは言った。そして水を飲んで一言、来翔に尋ねた。
「あの、こちらに何か老紳士が来ませんでしたか?」
「えぇと。今さっきに黒鷹とかいう人が来ましたけど。そして買収したいとか。ちょっと待ってくれと言いましたが。」
「やはり、来ていましたか。黒鷹甚三郎。」
「燻製カツ丼、お待たせ致しました。どうぞお召し上がり下さい。」来翔は、燻製カツ丼をその男に振る舞った。
「ご主人、ここをあの男からこの店を死守して下さい。あんな奴にこの店を支配させてはいけません。」その男は来翔に忠告した。
「という貴方は誰なんですか?」来翔は尋ねた。
「申し遅れましたね。私、こういう者です。」
カウンターの一段高くなっているところに彼は名刺を置いた。
そしてそれを見て、来翔は驚愕した。




