第28話:名物カップルの日常、境界線を越えていく二人
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
あれから、私たちの生活は少しずつ、でも確実に変わっていった。
近所のスーパーに行けば、「あ、また二人でデート?」なんて常連のおばちゃんに声をかけられる。圭介さんは相変わらず、誰に会ってもパニックになって、顔を真っ赤にしながら「か、彼女の……あおいちゃんです! えーと、その、一番大切な……!」としどろもどろで紹介してくれる。
その一生懸命な姿が嬉しくて、私はいつも彼の腕にぎゅっと抱きついて、「私の彼氏の圭介さんです!」って、もっと真っ赤になって言い返すのがお決まりになった。
そんな私たちの姿を、近所の人たちはいつしか「名物カップル」と呼ぶようになっていた。
そして、職場でも。
私はサロンのみんなに圭介さんを紹介した。最初は「えっ、課長さん!?」って驚かれたけれど、私たちの真っ直ぐな想いを知って、みんな温かく応援してくれている。
圭介さんも、会社の部下や同僚に私を紹介してくれた。あの恥ずかしがり屋の圭介さんが、胸を張って「大切な人です」と皆の前で言ってくれた時、私は幸せすぎて泣きそうだった。
大人の階段を二人で一段ずつ登っていく。そんな毎日が、何よりも愛おしい。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
職場という、かつては俺のすべてだった場所。
あおいちゃんを連れて行った時の、あの緊張感は忘れられない。
冷やかし半分だった部下たちも、俺とあおいちゃんの真っ直ぐな空気感に触れ、今では「嶋田課長、あおいちゃんに尻に敷かれないでくださいよ!」なんて笑いながら、俺たちの幸せを喜んでくれている。
スーパーに行けば「あら、今日はカレーの材料?」なんて笑われ、職場では「課長、顔が緩んでますよ」と注意される。
一時は「大人の男としての格好良さ」を保つことに必死だった俺だけど、今ではその必要なんてどこにもなかったんだと気づかされた。
あおいちゃんと出会って、俺の人生は色鮮やかに塗り替えられた。
隠し味のリンゴジュースのように、彼女という存在が、俺の日常にかけがえのない深みとコクを与えてくれている。
「圭介さん、帰ろっ!」
仕事が終わって、エントランスで私服姿のあおいちゃんが手を振って待っている。
俺はネクタイを少し緩めると、三十七歳の中間管理職としての顔をかなぐり捨てて、彼女の元へ駆け寄った。
誰にどう見られてもいい。噂になってもいい。
俺の隣には、世界で一番可愛い、自慢の彼女がいるんだから。
「ああ、帰ろう。……今夜は、何を作ってくれるんだい?」
そう言って彼女の手を握ると、あおいちゃんは少しだけ背伸びをして、俺の頬に軽くキスをした。
相変わらず顔は熱くなるけれど、それ以上に胸の奥に広がるのは、満ち足りた幸福感だけだった。
今日もまた、俺たちの甘い日常が続いていく。




