第27話:朝焼けの誓い、青い髪の花嫁
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
カーテンの隙間から、うっすらとオレンジ色の朝の光が差し込んできた。
時計を見るまでもなく、もう朝なんだって分かる。
だって、隣にいる圭介さんと、夜が明けるまでずっと見つめ合って、抱きしめ合って……一瞬たりとも離れずに、熱い夜を明かしたから。
パジャマ越しじゃない、お互いの本当の体温。
いつもはお堅い課長さんなのに、昨夜の圭介さんは、驚くほど情熱的で、優しくて、私を壊れ物を扱うみたいに大切に愛してくれた。
シーツに包まれたまま、私はすぐ目の前にある圭介さんの顔を見つめた。
少し汗ばんだおでこ、優しそうな目。圭介さんも寝てなくて、少し眠そうな、でも世界一愛おしそうな目で私を見返してくれている。
「あおいちゃん、愛してるよ……っ!」
掠れた声で、私の頬を大きな手で包み込みながら言ってくれた。
もう、胸がいっぱい。ギャルメイクをしていた頃の私が、こんなに愛される日が来るなんて思ってもみなかった。
「圭介さん、私も……私も愛してるわっ!」
ナチュラルメイクの、涙で少し潤んだ目で、私は彼の胸に顔を埋めた。
そしたら、圭介さんの心臓がまたドクンと大きく跳ねて、私の肩を抱く腕に、ぎゅっと強い力がこもった。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
朝焼けの光が、あおいちゃんの青い髪をキラキラと透き通らせている。
夢のような、けれど現実の、熱く狂おしい夜が明けた。
一晩中、彼女のすべてをこの腕の中に感じていた。
二十一歳の彼女が、俺のようなおじさんに、その純粋な愛のすべてを捧げてくれた。愛している、という言葉だけでは、この胸の爆発しそうな感情を表現しきれない。
「あおいちゃん、愛してるよ……っ!」
気付けば、また心の声が漏れていた。いや、これは漏れたんじゃない。俺の魂からの叫びだ。
彼女は真っ赤な顔をして、「私も愛してるわっ!」と、俺の胸に飛び込んできてくれた。
その愛らしさに、俺の頭はまたしても沸騰しそうなくらい熱くなった。
けれど、昨夜を共にした今の俺には、もう慌てて言い訳をするような格好悪さはなかった。
十六歳も年下の、美容師の卵の彼女。
世間体や年齢の壁なんて、昨夜の熱さの中で全部溶けて消えた。俺は彼女の細い肩をしっかりと抱き寄せ、その真っ直ぐな瞳を正面から見つめた。
仕事でも、人生でも、これほど強い決意を持って言葉を発したことはない。
「あおいちゃん、色々と落ち着いたら……僕のお嫁さんになってくださいっ」
――言った。
「一生大事にする」というあの日の暴走を超えて、俺はついに、彼女に人生のすべてを差し出すプロポーズを口にしていた。
あおいちゃんが、ハッとしたように目を見開く。
俺の顔は、間違いなく頭から本物の湯気が出そうなほど真っ赤になっていたけれど、その目だけは、絶対に逸らさずに彼女を見つめ続けた。
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
「あおいちゃん、色々と落ち着いたら……僕のお嫁さんになってくださいっ」
圭介さんの口から飛び出した、あまりにも真っ直ぐで、真面目すぎるその言葉。
「俺」じゃなくて「僕」になってるあたり、彼がどれだけ緊張して、誠意を込めて言ってくれているかが分かって、胸が苦しくなる。
お嫁さん……。
あおい髪のギャルだった私が、圭介さんの、奥さんになるの……?
「……っ」
じわっと、目から涙が溢れて、彼のパジャマの胸元を濡らした。
びっくりした圭介さんが、「あ、あおいちゃん!? ごめん、まだ早すぎたかい!? プレッシャーをかけるつもりじゃなくてっ……!」って、またいつもの大慌てモードになりかけている。
本当に、どこまで愛おしい人なんだろう。
私は泣き笑いの顔のまま、彼の首に両手を回して、思いきりその唇に自分の唇を重ねた。
ちゅっ、と。
朝の光の中で弾けた、昨夜よりももっと深い、約束のキス。
「……言い訳禁止。嬉しすぎて泣いちゃっただけでしょ」
唇を離して、私は彼の腕の中でニカッと笑った。顔はトマトみたいに真っ赤だけど、心は朝の空みたいに晴れ渡っている。
「私、早く一人前の美容師になるね。そしたら……絶対、圭介さんのお嫁さんにしてね」
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
『絶対、圭介さんのお嫁さんにしてね』
あおいちゃんの言葉が、俺の耳の奥に、そして人生の真ん中に、すとんと心地よく収まった。
涙を浮かべながら、でも今日一番の輝くような笑顔で応えてくれた彼女。
俺は、今度こそ大人の男の包容力で、彼女の小さな身体をベッドの中で包み込むように強く、強く抱きしめた。
「ああ……。約束だ。必ず、世界一幸せな花嫁にしてみせるよ」
三十七歳になって迎えた、人生で最も眩しくて、最も熱い朝。
窓の外から聞こえる小鳥のさえずりと、腕の中のあおいちゃんの甘い香りに包まれながら、俺は頭の赤面が引かないまま、彼女との永遠の未来を、確かにその胸に誓っていた。




