第25話:パジャマの贈り物、湯気の向こうの約束
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
圭介さんの顔を真っ赤にさせて、お泊まりの許可を取った。
キッチンでお茶を淹れながら、私はなんだか夢心地だった。あの真面目な課長さんが、私の部屋にいる。それだけで、胸が苦しいくらい幸せ。
「圭介さん、今日一日中……赤面し過ぎて汗かいちゃったよねっ?」
私がタオルを手に取って笑いかけると、圭介さんは「あ、ああ……そうだな、代謝が良すぎるのかもしれない」と、まだ顔を真っ赤にしたまま取り繕っている。本当に可愛すぎる。
「お風呂してきてねっ。……あっ、圭介さんのパジャマ、私が買っといたの。サイズ合うかなぁ?」
私はクローゼットから、買っておいたばかりの新品のパジャマを取り出した。
彼が着てくれるのを想像しただけで、また顔が熱くなる。
「圭介さんの後に、私も入るからねっ。ゆっくりしてきて?」
圭介さんはパジャマを受け取ると、夢を見るような顔で、でもやっぱりパニック状態で脱衣所へと消えていった。
ああ、本当に私の彼氏なんだ……。湯気の向こうでシャワーを浴びる彼の姿を想像して、私は独り、ソファで顔を覆ってニヤニヤが止まらなかった。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
脱衣所の鏡に映った自分の顔は、自分でも引くくらい真っ赤だった。
あおいちゃんが用意してくれたパジャマ。新品の、少しだけ柔らかな香りがする。
「お泊まり……」
小さく呟くと、また心臓が大きく波打った。
37歳。いい大人が、彼女の部屋でパジャマを着て、朝を待つ。
そんなことが本当に起きるなんて。
お風呂の扉を開け、シャワーを浴びる。
湯気の中に、あおいちゃんの部屋の香りが混ざっているような錯覚に陥る。
彼女が選んでくれたパジャマを身に纏うと、まるで俺が彼女の一部になったような、甘く、くすぐったい感覚に包まれた。
洗面所の鏡越しに、自分の姿を確認する。
いつも厳しい顔をしているはずの課長嶋田圭介はどこにもいなくて、ただ、初恋に浮かれている一人の男がそこにいた。
「……似合っているだろうか」
こんなことを言ったら、彼女はまた「可愛すぎる」と笑うだろうか。
俺は深く息を吐き出し、鏡に向かって何度か深く頷いた。
今日という一日が、俺の人生の記念日になる。そう確信しながら、俺は湯気の充満する脱衣所をあとにした。
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
パジャマ姿の圭介さんが脱衣所から出てきた瞬間、私はソファから転げ落ちそうになった。
「あ……」
いつものパリッとしたスーツ姿と違って、少しゆったりとした、柔らかい素材のパジャマを着た圭介さん。
髪が少し濡れていて、大人の色香と、パジャマのあどけなさが混ざり合って、本当に、もう……心臓が耐えられない。
「ど、どうかな? サイズは……大丈夫そうかな」
圭介さんは気恥ずかしそうに、服の裾をそっと引っ張った。
その少し子供っぽい仕草が、もう、たまらない。
「すっごく……すごく似合ってる。……圭介さん、かっこいい」
私は立ち上がって、彼の胸元にそっと顔を寄せた。
パジャマ越しに伝わる、温かい体温。石鹸の香り。
もう、どこにも行かせたくない。
「じゃあ、次は私が浴びてくるね。……圭介さんは先にベッドで休んでていいよ?」
私は彼を見上げて、精一杯の、今日の最後になるかもしれない甘い誘惑を投げかけた。
案の定、圭介さんは言葉を失って、またしても真っ赤に茹で上がっていた。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
「圭介さんは先にベッドで休んでていいよ?」
彼女の、あまりにも無防備な言葉。
俺の心臓は、またしても限界の数値を叩き出した。
彼女のベッド。彼女の匂いがする場所。
そこで俺一人、彼女を待つ……?
「あ、あ、ああ……わ、分かった……」
俺は絞り出すような声でそう答えるのが精一杯だった。
もう、湯気が出るどころか、心の中まで蒸し風呂状態だ。
あおいちゃんが脱衣所に消えていくのを背中で聞きながら、俺はふかふかのベッドの端に恐る恐る腰を下ろした。
まだ、彼女の温もりが残っているような気がする。
静まり返った部屋。遠くで聞こえるシャワーの音。
三十七年の人生、これほどまでに長く、これほどまでに愛おしい待ち時間はなかった。
俺は枕に深く顔を埋めて、この夢のような時間が終わらないことを祈りながら、彼女が戻ってくるのをただ静かに待った。




