↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/32

第24話:シンクの残り香、運命を変える招待状


◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)

 圭介さんが丁寧に、手際よくお皿を洗ってくれる姿を、私はソファからぼんやりと眺めていた。

 大きな背中、スーツのジャケットを脱いでシャツの袖を捲った腕。どれもこれも、私の部屋には少し大きすぎるくらいだけど、すごく素敵。

 洗い物を終えて、圭介さんがタオルで手を拭きながら戻ってきた。

「ご馳走様、あおいちゃん。本当に美味しかったよ」

 ニコッと笑う圭介さんに、私は胸がいっぱいになる。

「ううん、お手伝いしてくれて助かったよ。圭介さん、ありがとう」

 時計を見ると、もう夜も深まっている。

 圭介さんはきっと、そろそろ帰らなきゃって思ってるはず。でも、私はまだ離れたくない。このまま彼が帰ってしまうなんて考えただけで、胸がギュッて痛くなる。

 勇気を出して、私はソファから立ち上がった。

 心臓が爆発しそう。でも、顔を真っ赤にしながら、私は精一杯の笑顔で彼を見上げた。

「……あのね、圭介さん。もう遅いから。今晩は、お泊まりしましょうねっ!」

 心臓の音が、部屋中に響いちゃうんじゃないかと思うくらい、ドキドキしながら彼の反応を待った。

◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)

「……今晩は、お泊まりしましょうねっ!」

 あおいちゃんからの、トドメの一撃。

 その言葉の意味を、俺の脳が完全に理解するまでに数秒の空白があった。

 お泊まり。彼女の部屋に、このまま朝まで。

 付き合いたての、二十一歳の彼女の部屋で、三十七歳の俺が。

「っ……!!」

 心臓が、肋骨を突き破って飛び出しそうなほど強く鳴った。

 さっきまでのカレーのスパイスなんて吹き飛ぶくらいの、強烈な衝撃が全身を駆け巡る。思考がまたしてもショートし、血の気が引いたかと思えば、次の瞬間には顔面から耳の先まで、これまでで一番の赤面が襲ってきた。

「お、お泊まり……っ!?」

 声が裏返った。

 頭から湯気が出ているどころじゃない。もう、沸騰して蒸発してしまいそうだ。

 あおいちゃんは、そんな俺の狼狽ぶりを、とろけるような笑顔で見つめている。

 このままここにいたら、俺は一体どうなってしまうんだ。

 彼女の寝顔を朝まで見守るのか。同じ空間で、同じ夜を過ごすのか。

 三十七年の人生の中で、これほどまでに理性が試される夜が来るなんて。

「……あおいちゃん。俺、その……本当に、ここにいていいのか?」

 震える声で尋ねる俺の目線の先で、あおいちゃんは「ダメ?」と小首を傾げた。

 その破壊力は、どんな業務命令よりも重く、どんな交渉よりも抗い難いものだった。

「……分かった。……お言葉に、甘えさせてもらうよ」

 俺はネクタイを外し、ジャケットを整えながら、なんとか大人の男としての面目を保とうと必死だった。

 けれど、握りしめた拳は緊張で震えていたし、心臓の音はきっと彼女にも聞こえていたに違いない。

 彼女の部屋の、優しい灯り。

 カーテンの向こうに広がる夜空の下で、俺たちの新しい夜が、静かに、ゆっくりと幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。