第18話:愚問の答えと、独占欲の味
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
「あおいちゃん……本当に、君は、俺をどうするつもりなんだ……」
両手の隙間から、困ったように、でもすごく私を愛おしそうに見つめてくる圭介さん。
おじさんのくせに余裕がなくて、私の一言一言に翻弄されてるその顔を見ていたら、胸の奥の独占欲が、もっともっと溢れてきちゃった。
どうするつもりかって、そんなの。
「圭介さん……それはぐもんでしょっ!」
私はテーブルの下で繋いだ彼の手に、さらにぎゅっと力を込めた。
あおい髪を少し揺らしながら、赤くなっている顔を隠さずに、彼の目を真っ直ぐに見つめる。
「私の彼氏なんだから、独占したいのっ。他の一ノ瀬あおいを知らない誰かじゃなくて、私だけの圭介さんになってほしいの。……だから、困らせてやるの」
言い終えると、今度は私の方が恥ずかしくなって、少しだけ視線を逸らした。
ナチュラルメイクにしてから、本当に自分の感情が顔に出やすくて困る。でも、今の言葉は、私の嘘偽りのない本心だった。十六歳年上とか、メーカーの課長さんとか、そういうの関係なく、私はこの「圭介さん」っていう一人の男の人が、たまらなく好きなのだ。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
「私の彼氏なんだから、独占したいのっ」
心臓が、本日何度目か分からない限界突破のドクンという音を立てた。
あおいちゃんの手のひらから伝わってくる、小さくて、だけど力強い熱。
独占したい。
二十一歳の、こんなにも綺麗で、未来のある女の子が、俺のような三十七歳の中年男を「自分だけのものにしたい」と言ってくれている。
「あ、あおいちゃん……」
完全に、ノックアウトだった。
さっき「はっぱん、ぱん」と噛み倒したばかりの俺の口は、もう次の言葉を紡ぐことすらできず、ただ彼女の真っ赤な横顔を呆然と見つめることしかできなかった。
赤面はついに臨界点に達し、顔だけでなく、スーツの奥の背中までじんわりと汗ばんでくるのが分かる。狂おしいほどに、彼女が愛おしい。
「はい、お待たせしました。プリンアラモードと、嶋田さんの『はっぱん、ぱんケーキ』ね」
そこへ、綺麗なお姉さんが絶妙なタイミング(そして絶妙なからかいのセリフ)で、トレイを運んできてくれた。
テーブルの上に並ぶ、色鮮やかなフルーツが盛られたプリンアラモードと、ふっくらとした特製のパンケーキ。
「……ごゆっくりどうぞ」
お姉さんはクスクスと笑いながら、今度こそ俺たち二人だけの空間を残して去っていった。
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
「お姉さん、はっぱん、ぱんケーキってわざと言ったでしょ……!」
私は運ばれてきたデザートを見つめながら、おかしさが込み上げてきて、さっきまでの恥ずかしさを忘れて吹き出してしまった。
チラッと圭介さんを見ると、彼はもう、メニュー表を盾にして顔の半分を隠したまま、真っ赤になって固まっている。
「ねえ、圭介さん。パンケーキ、冷めちゃうよ? 私が切り分けてあげよっか?」
私はスプーンを手にとって、プリンの上の生クリームを少しだけ掬った。
「それとも、おじさんだから……あーん、してほしい?」
いつもの「生意気なあおいちゃん」の口調が少しだけ戻ってくる。だけど、今の私はナチュラルメイクで、頬がリンゴみたいに赤くなったまま。強がってみせても、彼への『大好き』が隠しきれていないのは自分でも分かっていた。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
「それとも、おじさんだから……あーん、してほしい?」
悪戯っぽく、でも少し照れくさそうに笑うあおいちゃん。
俺はゆっくりとメニュー表を下ろし、熱い息を吐き出しながら、なんとか大人の男としての形を保とうと、フォークを手に取った。
「……いや、パンケーキくらい自分で切れるよ。でも……」
俺は自分の皿のパンケーキを小さく切り分け、メープルシロップを絡めてから、彼女の方へと差し出した。
「あおいちゃんが、俺を独占したいって言ってくれたのが、その……言葉にできないくらい、嬉しかったんだ。だから、俺の最初のひと口は、あおいちゃんにあげる」
言ったそばから、自分のセリフの気恥ずかしさに、またしても顔がカッと熱くなる。
三十七歳にもなって、何を甘い若者のような真似をしているんだと、自分の中の理性がツッコミを入れてくる。
けれど、目の前でそれを見たあおいちゃんが、ハッとしたように目を見開き、それから本当に嬉しそうに、今日一番の輝くような笑顔を咲かせたのを見て、俺は「ああ、これでいいんだ」と心から思った。
「うん……! もらう!」
小さな口を開けて、俺の差し出したパンケーキを嬉しそうに頬張る彼女。
レトロな喫茶店の片隅で、お互いに顔を真っ赤にしながら過ごすこの時間は、運ばれてきたどのデザートよりも、甘くて、優しくて、特別だった。




